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読書記録|加藤廣『信長の棺』

読了日:2023年8月10日

 加藤廣<本能寺三部作>の一作目。

 未だ謎が多い「本能寺の変」。事件から400年以上経過しても尚、人々の心を惹きつけるミステリー。
 信長の遺体はどこにあるのか?光秀の謀反の本当の動機は?早すぎる秀吉の対応は予め情報を持っていたからなのか?どこを切り取っても不可思議さに満ちている。
 どんな歴史研究家がどれほど時間をかけても解明できないこの事件を、太田牛一の目線で歴史の謎解きをしていく小説。
 太田牛一は、織田信長の家臣で『信長公記』その他の著者でもある人物。信長亡き後は秀吉にも仕えた実在の人物。

 作中では信長フリークとも言える牛一が、消えた信長の亡骸を探し求め、旅をし、人と会い、真実を掴んでいくのだが、これは牛一の口を借りた著者の加藤廣氏の推理でもある。
 その推理もただ当てずっぽうのファンタジーを描いたのではなく、さまざまな参考文献から得られた情報が元になっているので、「ひょっとしたら、こういう線もあるかもしれないな」と思え、どんどんと物語に引き込まれていく。
 物語が進むにつれ、信長の遺骸へ近づくにつれ、信長フリーク牛一のボルテージが上がっていく。「信長様、今そこへ参ります!」と牛一の声が聞こえてきそうでさえある。

 一つ気になったのは、作中に信長が可愛がっていたアフリカ出身のエチオピア人と思われる弥助(「イサク」または「ヤスフェ」)が出てこないこと。信長の側近で、本能寺の変の際にも本能寺に宿泊しており、事件後は一度明智軍に捕らえられるが、残党狩りの対象にはならず釈放されている。(その後は行方は不明)
 生き証人でもある弥助を簡単に光秀が釈放するだろうか?ここにも謎が残るが、加藤氏はここは推理してはくれなかった。

 「本能寺の変」となると信長が表に立った歴史小説や映画、ドラマが多いが、側近の人物の目線で書かれてるというのが、構成として面白い。
 個人的には、三代武将なら織田信長が好きだが、謀反を起こした光秀にはそれ相応の理由があり、それが何なのかはとても気になるところであるし、光秀は家臣から慕われていた話もあること、今でも光秀の子孫が光秀の首塚(お堂)を大切にお世話しているのを見ると、明智光秀という人物を織田信長以上にもっと知りたくなる気持ちが芽生える。
 光秀は本来、信長に対しても誠実を貫いた人だったようだが、そんな光秀を謀反に駆り立てるほどの明確な理由があったはずだ。

 それぞれの立場には、それぞれの”正義”があるものだから。

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