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共創コミュニティの力で大企業×スタートアップの連携を実現

JINEN株式会社では「イノベーションの創出」「事業の持続的成長」「社会的セーフティネットの構築」の3つの観点からコミュニティの社会的価値や重要性を発信し、コミュニティ形成に臨む企業や個人を支援しています。今回は日本橋を中心に東京の東側エリアでスタートアップ向けワークスペースを提供する三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部の太田 聖さんに「イノベーションの創出」に向けたお取り組みやコミュニティの効果、今後のビジョンを伺いました。


スタートアップが集結。熱量高いコミュニティを提供するTHE E.A.S.T.

― ベンチャー共創事業部の概要と太田さんの自己紹介をお願いします。

三井不動産は総合デベロッパーとしてオフィスビルや商業施設、ホテル・リゾート、ロジスティクス、住宅、これらの複数の用途を組み合わせた複合開発、また、その場の運営を通じて総合的な街づくりを行っています。

私が所属するベンチャー共創事業部の「31VENTURES(サンイチベンチャーズ)」ではCVC、ワークスペース、コミュニティの3つのソリューションを提供しながらスタートアップとの共創を通じて「既存事業の強化」と「新規事業の創出」に取り組んでおり、私はワークスペースとコミュニティを担当しています。「THE E.A.S.T.(ジ・イースト。Empowering Ambitious Startups in Tokyoの略)」というシリーズのスタートアップ専用ワークスペースを運営して入居企業との事業共創を推進するとともに、日本橋を含む東京の東側エリアのスタートアップエコシステムの形成と強化を図っています。

例えば、スタートアップがプレゼンするピッチイベントを企画して三井不動産グループが抱える事業課題とスタートアップのソリューションをマッチングする活動なども行っています。最新のテクノロジーやサービスを生み出す成長の著しいスタートアップと大企業の私たちが事業共創に励むことで、より大きなブレイクスルーを実現できると考えています。

私自身は2022年に三井不動産へ中途入社する前、不動産ベンチャーでシェアオフィスの運営やその事業の立ち上げに携わっていました。その頃から「単純な賃貸借だけではなく入居企業の皆様とイノベーティブな挑戦ができる関係を構築したい」と、事業に踏み込んだコミュニケーションの重要性を感じ、不動産事業でご利用者の方とコラボレーションする事業を模索していたところ現職と出合いました。

― スタートアップとコラボレーションをするねらいは何でしょうか。

ベンチャー共創事業部は三井不動産グループが掲げる「新規事業の創出」と「既存事業の強化」に取り組んでいます。「新規事業の創出」では、不動産以外の事業の可能性も長期的に探っておく必要があります。私たちTHE E.A.S.T.はシード・アーリー期を中心としたスタートアップと接点を持ち、最先端のテクノロジーやサービスへ早い段階から触れて事業領域の可能性を探るようにしています。

「既存事業の強化」では、例えば、直近で三井不動産リアルティのシェアリング事業本部とオープンイノベーションのイベントを実施したところ、業務の自動化やデータ活用、新たなシェアリングサービスのメニュー創出といったさまざまなニーズがありました。シェアリングエコノミーのサービスを拡充していく手法の一つとして、スタートアップの技術やサービスとの共創に伴って既存事業をスピーディにアップデートしていくことが重要だと考えています。

オープンイノベーションは「スタートアップと大企業の連携強化」がカギ

― 31VENTURESがスタートアップと協業した成功事例をお聞かせください。

「成功」と言うにはまだ道半ばですが、日本の各地域でコワーキングの企画・運営やコミュニティマネジメントを実施する「ATOMica(アトミカ)」との共創を挙げると、ATOMicaとはオフィスのステップアップ、協業の開始、資金調達・出資、協業の拡大という私たちにとって理想的な流れが実現しました。具体的にはTHE E.A.S.T.の中で小さめの物件に入居していただき、広い施設に移転していただくタイミングで彼らのコミュニティマネジメントをトライアルでTHE E.A.S.T.に導入して協業を始めたんです。

それに手応えを感じた頃、三井不動産の基幹事業の一つでビルティング本部が運営する法人向けレンタルオフィス・シェアオフィス「ワークスタイリング」の運営担当者にATOMicaを紹介したところ「協業の可能性がありそうだ」と。ATOMicaがプレシリーズBの資金調達をするタイミングで三井不動産のCVCが出資して共創を強化しました。

― 成功事例を生むプロセスで注意していることはありますか?

オープンイノベーションではスタートアップとはもちろん、大企業の事業推進者との連携も必要です。よく野球の「ピッチャーとキャッチャー」で例えられますが、提案を受け止める方がいなければ共創は実現できません。本部の事業課題やニーズ、業務の逼迫具合を理解し、取り組みの可能性や期待値を調整しながら適切なタイミングでスタートアップと繋げる。仲介役の私たちにはこれらのプロセスを丁寧に進める必要があります。

ただ、社内ばかりに目を向けているといわゆる「大企業の論理」をスタートアップに押し付けかねないため、スタートアップと大企業の間である意味「コミュニティマネージャー」のような立場でバランスを取っています。

社内の担当者と良好な関係を構築するために、普段から各部門の課題や担当者の専門領域に対する理解を深めています。何かしらのお困りごとが浮上した際に「31VENTURESにお願いしてみよう」と想起してもらうために社内広報も工夫しています。例えば、これまでの業務で接点を持った担当者に折に触れて私たちの活動を伝え、ピッチイベントや顕著な活動を社内ポータルに掲載し、ウェビナーなどで三井不動産グループ内に発信していますね。

― 太田さんはTHE E.A.S.T.に入居したスタートアップ同士が交流する機会も作っていらっしゃいます。

入居企業の皆様がお互いの関係を育めるように、起業家同士や人事担当者同士のランチ会など、役職や職種ごとに情報を共有できるイベントやカジュアルな忘年会などを開催しています。THE E.A.S.T.日本橋一丁目ではエントランスの横に入居企業の最新のプレスリリースを掲示してお互いの最新ニュースをキャッチできるようにしています。

これらの働きかけが軌道に乗ってくるとトイレで挨拶を交わしたり、廊下ですれ違った時に「お疲れ様です」「プロダクトがリリースされたニュースを見ましたよ」と声をかけ合ったりするようになります。事業は違えど課題や悩みを共有できる仲間を持つと解決のヒントを得たり「自分も頑張ろう!」と奮起できたりします。

悩み多き起業家を支える。コミュニティが事業推進、信頼向上を後押し

― 今後のお取り組みについてお聞かせください。

今年(2024年)三井不動産グループの長期経営方針が発表されました。その一環でイノベーション推進本部が新設され、当社グループのさらなる成長実現のため「新事業領域の探索」「事業機会の獲得」を推進します。私たちのチームもスタートアップエコシステムに携わる多種多様なプレーヤーやスタートアップに出会いながら共創の芽を見つけ、より遠くのゴールにより早く到達する意識を持ってチャレンジしていきます。

― 太田さんご自身はどのようなビジョンを思い描いていらっしゃいますか?

日本の地方の人口が減少して衰退の一途を辿っているというネガティブなニュースが多い中、いち地方出身者としては地方の文化や魅力を未来に継承する新たな産業を創出したいですね。一方、世界各国のスタートアップを東京に誘致して協業に結びつける役割や、グローバル進出を目指す日本のスタートアップを支援したいとも考えています。日本国内での成功も大切ですが、アジア圏や欧米といったより多くの地域でビジネスチャンスを得て課題解決の一助になりたいです。

 ― 「イノベーションの創出」の視点から、コミュニティの価値をどのようにお考えですか?

スタートアップが抱える課題は事業ステージによって時々刻々と変わり、または事業領域が違っても同じ課題があります。創業期からシードアーリー期までのスタートアップにとって事業が軌道に乗って組織化するまでの間、ネットワークから得られるものが多いのではないでしょうか。起業家が孤軍奮闘して悩みが尽きない中、同じ起業家が集まる「コミュニティ」に属することが課題解決や事業推進を後押しすると考えています。スタートアップは社会的認知度が低く、お客様との関係が構築されていない段階からプロダクトを売っていかなければならないため、信頼を得るのが大変ですよね。

― そんな中、THE E.A.S.T.のコミュニティに所属することは「信頼のパスポート」にもなりますよね。

そう言っていただけると嬉しいです。THE E.A.S.T.のコミュニティに属しているスタートアップの皆様にできるだけ多くのメリットを提供することで、より大きなイノベーションやうねりをもたらせると信じています。例えば、プロトスターと三井不動産が共同で運営している起業支援プログラム「Swing-By(スウィング・バイ)」に参加している起業家やスタートアップは、シードVCである栗島さんからメンタリングを受けられるだけではなく、似たような事業ステージの起業家と繋がることもできます。

また、今後もオープンイノベーションの種になるイベントをはじめ各種取り組みを盛況化し、より多くのスタートアップを三井不動産グループの事業部と繋いでまいります。スタートアップエコシステムを盛り上げるだけでなく、イベントなどを開催してスタートアップの皆様に「事業創出に繋がる機会」を提供することで、初めてスタートアップにGIVEすると言えるのではないでしょうか。


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