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日本画家の上村松園の描くきものの描線のえもいわれぬやわらかさに魅入られた
(2023.9.18加筆)
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はじめに
絵をたのしみで描いてきた。もちろん可能ならば絵を鑑賞するのにも時間をついやしたい。水彩から油絵までさまざま経験してきたが、なかでも日本画を描くのはなかなかたいへん。水彩とよくにた迅速性と技術を初心者のうちからともにもとめられる。どこか書道ににた集中力ももとめられる気がする。
きっと湿潤な風土のクニに合った画材なんだろうな。そんななか日本画家のひとり上村松園の作品の描線のうつくしいだけでない魅力を知った。
きょうはそんな話。
このクニと日本画
木と紙でつくられたすみか。そして画材は和紙や絹(絵絹)。さらに岩絵具、膠(にかわ)、清らかな水。筆も独特。はじめてしばらくは画材えらびだけでもしばらくしらべないとわからないほど。
地方で買いそろえるにはまえもって準備が必要となる。ひとつずつ手にとりながら入手。描法もおなじ。水彩のようでいてそうでもない。こちらもてさぐりで教本にくりかえし目をとおしつつ。
まず和紙や絹(絵絹)。そのまま描いたのではにじんでしまいまったく絵にならない。そこで「どうさびき」とよばれる下地づくりからはじまる。描くがわに下準備が必要なのは水彩とことなる。むしろ油絵の下塗りにつうじる。もちろん絵の題材にあわせてどんな和紙や絹をつかうか吟味したうえで。
絵にはいるまで
こうした着手するまでの「入り方」はやっぱり国技のすもうとにていると思う。着手(対戦)するまでとてつもなく手間がかかる。からだをぶつけあうまでの所作のながいすもうのやりとりとよくにている。
所作のひとつひとつにちゃんと意味があり、順番にルーティーンをこなしていかないとものにならないのはおなじ。
にかわを水にいれてあたためてみょうばんをくわえて溶く、溶けたにかわ(礬水液 )をどうさをひく刷毛でもってていねいにひいてかわかす。これら一連の作業を天候をみつつおこなう。作業開始からおわりまで晴れのつづきそうなころあいをみておこなう。
とほうもない作業
そうした日本画家のひとりが上村松園。どの作品をとおしてもいかにこの画家が絵に邁進していたかじんわりとつたわる。西洋の絵画といちばんのちがいとしてこの画家から感じとれるいちばんの特質は輪郭線。これほどやわらかな線はなかなかほかで見ない。かといってか細いとかひ弱というかんじはない。
墨の線の一本一本が息づいているというか必然としてそこにあるというか。松園が的確にそれをさぐりあてて正解をみちびきだし、それだけでなく効果的「ここに美や心持ちを見つけましたよ。」と的確に提示・演出するまでに達している。
作業部屋に置いた絹にむかい、ほそい面相筆をそれこそ息をひそめて一気呵成にえがいたという。伝記などにそうしるされている。ときにはきもののえりあしから裾までのひとつづきの線を息をとめて描いたために、卒倒しかけたという話を目にした。ほんとうに命がけ。
身をそぐかのように描いた作品はやわらかな描線につつまれ、まったく迷いなどない。無理なく質量を感じさせない素のままの気品あふれる線描。
松園の時代
息をひそめて渾身の集中力で描く。明治といえばまだべんりな道具などない時代。きっと松園は毎日、墨をすりながら火をおこして岩絵の具を溶くにかわをあたためつつ集中力を高めていったにちがいない。
どの絵の描線からもそうした苦吟のようすはまったくかんじられないし、その対極といっていいほどのかろやかさ。天空をただようように自由闊達に描いたかのよう。きっとこれは想像を絶するほどの修練の賜物。ほかにかえられない唯一無二の描線といっていい。それほど細く均整がとれているし、躊躇はかんじられず、確信のひとすじといえそう。
おわりに
ある展覧会で若い時期の作品に魅入られ、そのひとつの作品のまえで足がすすまなくなった。すでにその展覧会の最終日で観覧するヒトビトはもうほとんどそこにいない時間帯。
展示ケースごしにすこしはなれて絵全体がみわたせるほどの位置で、30分ほどまったく微動だにせずともその作品と対話できた。おそらくわたしはその展覧会のほとんどさいごのほうの観覧者だったにちがいない。
それは至福のときだった。ほぼだれにもめいわくをかけずに遠目にみつめることができた。ここまで到達できた作家がひとつの作品を完成の烙印をおすひとくぎりをつけるまでの艱難辛苦のすべてがここに内包されていると思うと感慨深かった。まちがいなく時代をこえた普遍的な美がそこにある。
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