
いまのところ市井のAIのできないことは何かをかんがえてみた
はじめに
日々ネット上のさまざまなアプリにお世話になる。AIとておなじ。もはやその支援なしにしごとの一部は滞りを感じつつある。その一方でそれらのサポートを得にくい部分がある。それはアナログな情報。AIのサーチできる範疇を越えている。ネット上やそれに類する場に情報が置かれていないかぎり基本的にそこを追跡することはできない。
きょうはそんな話。
ちまたには
SNSなどの日々更新される情報。それらはなんらかの意図でもって世界中に拡散してしばらくのあいだは目にできる。そのうち情報の洪水のなかへと表面上は消えていくかのよう。ところがさまざまな検索ワードでしらべるとそれなりにあっさりとたどりつける。これはわたしでもできること。
なんら助けを借りずともできる。意外とわたしはこの検索ができるだけの時間はあるし、それなりにみずからの興味の対象を見つけだすことぐらいは自宅のみならずひととおり場所を選ばずとも最低限できる。
専門のことは
ところが論文書きともなるとそうはいかない。たしかにAIの助けを得られることは大きい。学術論文や著書を書きすすめる作業に欠かせなくなりつつある。
以前ならば図書館の書庫に入り浸り、過去数十年以上のバイオロジカルアブストラクト(BA)やケミカルアブストラクト(CA)などからもとめる情報をしらみつぶしに探す作業を学生たちのたすけをもらいつつやっていた。1年分の関連分野の学術情報(おもに原著論文、著書や特許など)だけでも電話帳で何冊にもなるぐらい。
電話帳のたとえではわかりにくければ百科事典(こちらも絶滅危惧か…)ほどの厚さ。そのこまかなアルファベットの文字の洪水のなかから、数文字からなるキーワード(たとえば’myocardial infarction’の項目中に’histamine’というキーワードをさがしていく。
こまかな文字を何時間も追っていく。集中力、根気がもとめられる。ひとつのテーマを思いつくと着手するまえにかならずこの作業をおこなう。
途方もない作業
なぜこんな作業をやるのか。すでに既知のことでおこなわれていないか、報告済みの内容でないかをチェックするため。関連ありそうだというものだけで数十ほどみつかる。その検索番号とほぼ十数文字ほどにすぎない内容をメモする。そして図書館のべつの階の過去の文献を所蔵する書庫へと足を向ける。そこになければ各地の図書館や大学などからとりよせる。
目的の学術論文をみつけ、要旨(Abstract)や結果(Results)などをななめ読み、取捨選択していく。この段階で着手しようとする研究とまったくおなじ内容がみつかるとその段階でその計画は基本的に「ボツ」となる。
あたりまえすぎるのだがそれを見落とすとおしまい。「知らなかった」は許されないし、そのまま学会発表や論文投稿してしまうと一気に信頼を失う結果につながりかねない。もちろんこの作業は研究の途上でも行うし、論文をまとめる際にも最新のアブストラクトにはかならず目を通したうえで投稿していた。
実際にみつかる
こうした作業の結果、あっさりと計画や途上の研究が中止になったことが何度かある。世のなかで思いつき、そして論文として報告するのはほぼ同時。なにも情報を取られたわけではなく漏れたわけでもない。ふしぎでもなんでもない。
情報の伝播は紙ベースの当時でもほぼ同時。つぎの段階の疑問点や課題は専門家ならば把握ずみ。したがってその研究の着手や方法はどうしても似た時期になり、報告もほぼおなじになりやすい。
おわりに
この作業は大幅にネット検索が容易になった。いまならば上記の’myocardial infarction’と’histamine’をブラウザの検索ボタンで、いくつかの論文の候補を瞬時に掲げてくれる。その一例(太字表示は木山による)。
Cell Mol Med. 2020 Feb 16;24(6):3504–3520. doi: 10.1111/jcmm.15037
Histamine deficiency facilitates coronary microthrombosis after myocardial infarction by increasing neutrophil‐platelet interactions
さまざまな検索システムを通じて網羅的になりつつあり、関連するものまで親切に提示してくれる。もはやこれはヒトの手作業で行えるレベルでない。
それでも手作業で検索していた当時(ほんの30年前)でも、その主要なものははずれなく集められていたから当時の検索方法が理にかなうものであったのはたしか。ただし、現在と数十年前とではあつかう情報の量がことなるので比較はできないが。
いまでも図書館の書庫に向かわねばならないことはある。それは古かったり、マイナーだったりでデジタルの情報になり得ていないもの。つまりAIの目の行き届かないところにある情報。これらはもちろんネットからアクセスできないので、従来の方法でもってあつめていくしかない。
逆に重要な情報はもっと内輪に確保する方法がある。公知しないでおく。もはや最重要なものはこうして独立させるに越したことはない。さらに意密保持契約を身内同志でもかわす。ほぼこれに近い情報を、大手企業の方がもとめてきたことがあった。もちろん意図をわかっていたので、それ相応の公知になっている情報を渡すだけの対応をした。
それらすら入手できていないその企業の情報収集力にはがっかりした。そんなにかんたんにたいせつな情報をやすやすとは渡せない。
こちらの記事もどうぞ
広告