(ショートショート)理想の食事
食事づくり
カナさんは自炊派。基本的に自分で料理を作って食べる。そうする理由は買い出しから食材まで選べるから。
一品ずつお気に入りを決めていく。これがなかなか楽しい。友人に話すと「へえ~、それってなかなか大変じゃない?」との反応。近頃は各料理の食材がパック詰めになった商品が好評で、味つけにも困らずにその友人はよく使っているそうだ。
たしかにカナさんもそれに類するものを使った経験がある。でも何かもの足りない。そうか、自ら食材を選んでないからかと気づいた。そしてあらためて食材にこだわり、それを楽しんでいる自分を知ることになった。
昼食に選んだのは
はまっている料理がある。それはパスタ。デュラムセモリナのなかでもコシのある商品に行き当たったときは「やったあ」とつい小さくつぶやいた。しっかりした存在感があり、噛むほどに、弾力こそうまさの根源ではないかと感じたほど。
それ以来、さまざまな食材と組み合わせたシンプルなパスタをつくっている。スタンダードともいえるアサリ、バジル、トマト、イカ墨、アンチョビ、・・・。
きりがないほどある。そして奥が深い。味つけひとつとっても、岩塩、こしょう、ニンニク、トウガラシ、バターの選択など。まだある。香りをつけるにもバジルだけでなく、イタリアンパセリ、コリアンダー、クミンなど。組み合わせをあげていけば、とうてい一生では食べ尽くせないほどありそう。
そして得た結論。材料はシンプルでいい。それだけに、うなるほど食材の選択にこだわれる。
究極のパスタ
ベストチョイスはこれといっていいだろう。かんたんで経済的。材料は、ノルウェー産のさばのオリーブオイル漬け(缶詰)、イタリアントマトのダイスカット缶。
フライパンに、ニンニクの香りを移した少量のサラダ油、このふたつの缶の中身をあけ火にかける、火が通ったら、固形スープの素、塩、こしょうを入れてひと煮立ち。
そこへまだ芯のすこし残った(つまり8割がた茹でた)状態のパスタを入れてソースにからめてできあがり。
シンプルだが飽きないで食べられる。トマトのパスタなので、スープパスタのようにしばらくおいてもおいしい。気がつくとカナさんはこのパスタ、ほかの料理、アレンジのパスタぐらいのローテーションで食事をしていることに気づいたほど。あきらかにはまっている。
ある日、スプーンに巻いたパスタを見た。すこし置いておいたので、水分を吸ってやわらかく膨れている。これはこれでパスタの口当たりがよくなっておいしい。味がよくしみている。
ふと思った。量が減ってないじゃない。さっき作ったばかりで食べたお昼と量がほとんど変わっていない。食べても減らないパスタ。
そんな便利な食事があるといいなあ、と思いながらパスタの残りをたいらげた。