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「出会いの橋渡し」のおはなし

くのわき恋物語


塩郷駅 恋金(こいがね)橋


 大井川鉄道「塩郷駅」(川根本町)を降りると、その頭上に吊り橋が架かっている。その対岸の丘の上に「久野脇」(くのわき)集落がある。ここにさわやかな恋物語が伝わる。

むかし、「おつま」という名主の娘と「甚太」という地名(じな)の百姓の若者が「ひよんどり祭り」で恋をした。名主の父親は跡取り娘の恋に激しく怒り娘を閉じ込めてしまった。おつまは甚太が恋しくて、密かに村のお薬師様に願を掛ける。ある晩、お薬師様がおつまと甚太の夢枕に立ち、「明日の子の刻」(午前0時)お堂に来るように告げる。次の日おつまの家では、父親が代官所に納める上納金を失くし大騒ぎとなっていた。その夜、薬師堂前で再会した二人は、意を決して村を出た。二人が吊り橋の袂に来た時、父親が失くした上納金の包を見つけた。逃避行の最中、おつまは迷いながらも、甚太に従ってその包みを父親に届けた。この話を聞いた父親は、大いに喜び、甚太の正直さに心を打たれ、二人の結婚を認めた。お妻と甚太は末永く幸せに暮らした。以来、この吊り橋は「恋金橋」(こいがねばし)と呼ばれるようになった。

 「佐澤薬師堂」は縁結び、「吊り橋」は恋の成就、そして他にも座ると子宝に恵まれる「子持ち石」、安産祈願の「子守地蔵」、夫婦円満の「夫婦滝」など、くのわき集落全体が「幸せの出会い」の村となった。

吊り橋理論

 1974年カナダの心理学者、ダットンとアーロンは「生理、認知説の生起に関する実験」によって、「吊り橋理論」を発表した。カナダ、バンクーバーにある高さ70mの吊り橋を、若い独身男性に一人ずつ渡ってもらう。中央に若い女性が待っていて、簡単な実験に参加してもらい、「興味があったら後日連絡を」と、女性の電話番号を渡す。一般の大橋でも同様にしたところ、吊り橋の場合は18人中9人の男性から連絡があったが、大橋の場合は16人中2人のみだった。

ダットンとアーロンは、吊り橋と言う外的条件の興奮と恋愛感情による興奮の混同、その時の感動が一緒にいる人の魅力との勘違いによる恋愛感情と結論付け、これを「吊り橋効果」と名付けた。この学説は世界中の話題となった。ジェットコースター、ホラー映画でも同じ効果が、等々の報告が相次いだ。一方、次のようにも言われる。「この実験は非常に有名になったが、一つの大きな落とし穴がある。それは吊り橋を渡ったドキドキを恋愛感情と間違えるためには、声をかける女性が「美人」である必要があるということだ。もしそうでなければ、男性は橋を渡るドキドキを正しく橋のせいに認知」(越智啓太『恋の吊り橋実験がうまくいくための条件とは』)してしまう。

静かなる有事


佐澤薬師堂(久野脇)

 お妻と甚太の出会いは「ひよんどり祭り」だった。祭りは正月の七日夜から八日朝にかけて、佐澤薬師堂の前で催された。村中の老若男女総出で、焚き火を囲み、歌い、足を踏み鳴らして踊り、村内安全、家内安全を祈願した。そしてこの夜は若い男女も無礼講で、近隣の村々や、遠く山梨からも若者たちが集った。祭りの出会いが恋の始まりだった。

近年、結婚しない若者が増え、少子化が止まらない中、政府はこうした状況を「静かなる有事」とした。地方では更に深刻な有事であり、婚活戦略の取り組みには後はない。

 島田市役所本庁舎の通りを挟んだ西の角に小さな喫茶店「ホッとCafe」がある。おいしいコーヒーとランチが人気の小さなお店であるが、更には「ホッと婚」でも人気のカフェである。オーナーの横山朋未さんの楽しくやさしい「おせっかい」は、これまでに数多くの「ホッと婚」を実現してきた。ここは街の片隅の出会いの聖地となっている。
多くの神様が出会いを約束してくれる。愛は出会いから始まる。そして、その「愛はいつまでも絶えることはない」。

(地域情報誌cocogane 2023年1月号掲載)

[関連リンク]
地域情報誌cocogane(毎月25日発行、NPO法人クロスメディアしまだ発行)

佐澤薬師堂(静岡県榛原郡川根本町久野脇)


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