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読書感想文/海が見える家


思ったことを言葉にするのが苦手だ。

話すことは好きだ。口数も多く、スピーチの類で困ったことはない。

しかし就職活動をする中で、その認識が大きく揺らいだ。

自分の意見や感想をその場で言葉にするのは、案外難しい。ただたくさん話せばいいというわけではないからだ。自覚はなかったが、大学生になってだんだんと分かってきた。どうやら私は、人に何かを伝えるのが極端に苦手らしい。


今回は、そんな就職活動中の私の視野を広げてくれた小説について。

はらだみずき作『海が見える家』『海が見える家 それから』の読書感想文を書いてみようと思う。



主人公の文哉はある日、知らない男から父の訃報を聞かされる。入社1ヶ月で退職した彼は、そのとき父の終の住処を初めて訪れた。そこで、自分が知らなかった父の姿を知る。そして、自分自身もまたその土地に惹かれ、新しい生き方を見つけていく―簡単に言えばこんな話だろうか。

父の終の住処・南房総で、主人公は地元住民をはじめとした様々な人々と関わる。都会では味わえないような経験を経て、彼は父の残した住処(家)に住むことを決めた。彼は会社勤めやアルバイトをすることなく、自立して生きていく術を少しずつ学んでいく。簡単に言えばその日暮らしである。


個人的には主人公の文哉がとても気に入った。

彼は都会の生活で失敗した、世間一般で落ちこぼれと呼ばれる立場の青年である。しかし物語を読んだ今は、到底そんな風には思えない。

自分の経歴に執着しない強さがあって、人を大切にできる人間だと感じた。

孤独だと思っていた父が、南房総で様々な人と繋がっていた。そして彼等と積極的に関わり、彼等のために働いていた。そのことを知るたびに文哉は、胸の中を熱くする。そして自分も同じように、南房総の人間たちと繋がっていく。

彼のすごいところは、都会暮らしに慣れているにもかかわらず、田舎特有の人間関係に適応できるところだ。言い換えれば、人と関われるところだ。

都会に居た頃は我慢が足りず、人間関係が上手くいっていなかったと書いてある。だが、自分から挨拶をする文化に適応できたりするところを見ると、そうは思えない。

きっと彼は、自分で決めたことならコミュニケーションも苦にならないタイプなのだろう。人と関わること自体は本来得意なのではないか。ただ、生の実感がなく余裕がなかったから、苦手だと思い込んでいただけで。

人の生き方は人の数だけあると言うが、彼には都会での暮らしが合わなかった。だからこそ、合わない暮らしを抜け出してから、自分の本質が見えてきたのかもしれない。

初めての田舎に戸惑いつつも、人のあたたかさや自然の豊かさに包まれる彼をうらやましく思った。


しかしそれ以上に、文字通り一生懸命生き残ろうとする彼にぐっときた。

物語の中で度々語られるのは、「生きている」という実感だ。そんなもの、都会で働いているとなかなか味わうことができないだろう。

もちろん文哉は、働いていないわけではない。定職にこそ就いていないものの、父の事業を引き継いだり、食料を海から調達していたりする。しかし、働くことによって目から光が失われることは、ない。

だって文哉は、金を稼ぐためではなく生きるために働いているのだから。


この本で描かれている田舎暮らしの様子は、私にとってはとても魅力的でうらやましいものだった。

私は都会の田舎に住んでいる。都心にアクセスしやすい郊外だ。

学校も郊外にあり、出ようと思えばいくらでも都心に出られる。しかし、生活圏は都会でも田舎でもない。郊外から、都心を通過し、郊外へ向かっている。

「時間ならあります」と言える文哉がうらやましい。私はいつも通り過ぎる都会の忙しなさの中で、これから働こうとしているのだ。正直ゾッとする。できるなら私も田舎に行ってこんな暮らしをしたい、と思ってしまった。


都会で生きていきたくない。

というより、私は”生きていたい”。ただ生かされるのではなく、能動的に生きていきたい。都会のシステムに包まれて野生を失うことは、本来生き物であるはずの人間を蔑ろにしているようにすら思える。

野生を失うのはもったいない、と登場人物のひとり・和海が言っていたが、都会で暮らす人間というのは大半がそうだ。この考え方に則ると、都会の人間はもはや人間であることを捨て、ロボットに成り下がっているような印象を受ける。


しかしこの物語の中には、都会を選んだ人間も存在する。文哉の姉・宏美だ。

田舎暮らしが性に合っている人はいる。しかし一方で、宏美のように都会暮らしを好む人ももちろん存在する。両者は物語の中でも語られるように違う人間なのだ。文哉は都会で挫折し、最終的に田舎を選んだ(という結果になっている)。彼等は二人とも、都会と田舎を両方経験している。その上で別々の道を選んだ。

作者の要旨とはかなりズレると思う。しかし、自分に合っているかどうかなんて試してみないと分からない、と言われた気がした。


まずは、手近な都会暮らしを試してみようと思う。

向いているかいないか、生きていると思えるか否かは、やってみないとわからない。しかし、途中でワイプアウト(サーフィンで、上手く波に乗れず落ちてしまうことを指す)しても構わない。きっとそれは、「合わなかった」ということを理解するために必要だと思うからだ。

そして本当に田舎暮らしがしたくなったときに、田舎で何をしたいのかを胸を張って語れる人間になろうと思った。


なぜか突然自己啓発をしてしまった。

読書感想文って難しい。







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きのしたもさお
くだらないことばかり考てしまう人間のことを、もっと知ってくださると嬉しいです。

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