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小説☆セックス、トラック&ロックンロール・シリーズ

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中古レコード屋の雇われ店主 サキ が遭遇する、少々ストレンジかつビザールな出来事を描く連作短編小説♪
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#ロック

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…2

「先輩、これカッケー、なんか腰揺らしたくなるゥ」 「案外、センス良いね、アンタさ」 JKは目張りの決まった瞳でもってウィンクすると、腰を揺すり始めた。アタシは、そんなJKを眺めながら、‛こいつ、結構な値段取ってんだろうな‚って思っていた。 「先輩さー」 アタシは、その声にフッと我に返って、こうレスった。 「気安いんだよ、後輩」 JKは、腰を揺らしながら話を続けた。 「先輩、ここさ、時給幾ら?」 「バイトは、要らない」 「

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…1

   そのショートカットのJKが、店へ顔を出すようになって約1ヶ月が過ぎた。彼女はスラリとした体型で、水色の半袖ブラウスに濃紺の短いスカート、ナマ足優先のショート・ソックスには、赤いコンバースのハイカットをいつも合わせていた。     週2、3度は現れて、最低1回は何かを買ってくれるので、良いお得意様なのは間違いなかったが、会計時の当たり前の遣り取りを別にすれば、普通の日常会話をしたことはなかった。もっとも、その会計時の遣り取りにしても‛これ下さい‚から始まって、最近では‛こ

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学 …10

   「いらっしゃいもねーのか?」    「いらっしゃい……」    「大丈夫か、そんな接客で……。 せめて、ませ、ぐらい語尾に付けろよ」     「ませ……」    流石にムッとした様に見える吉田が、口を開き掛けている……、さあ、これからが、本番だろう。     「ある女の同僚に聞いたんだが、お前、ウリやってたんだってな……」     アタシは、川崎さんだよな、きっと、そう思いながらレスった。     「過去形だから……」     「ならいい」     「なにがッ?

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学 …9

   ヤツがまさに一連の犯人だった。その正体は、ネットで女性モノの古着屋を運営する土屋寛という45歳の男で、そう、アタシがいずみから教えてもらったあのサイトの経営者だ。だから、アタシも含めて5人の被害者達には、立派な共通項があったのだ。住所は全て筒抜けだし、注文する品からある程度のスタイルも把握、いやそれよりも恐らくはそれを端緒にヤツの妄想が起動し始め、それに伴って購入者達のなかから当たりをつけた何人かに対する、ヤツが言うところのフィールドワークを淡々と積み重ねた挙げ句、獲物

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学 …8

    律儀にアルファベット順のAから物色を始めたアタシは、じきにCのセクションのとあるコーナーで、そのアルバムを選ぶと、それを手にカウンターへ戻り、抜き出した盤をプレーヤーへ載せた。     『チープ・トリック/ドリーム・ポリス』 心に余裕がないのか、一曲目の頭ギリギリへと針を落とした――     と、のっけから絶好調で、イケイケで、ノリノリで痛快で、それでいて胸がキュンとするこのタイトル曲‛ドリーム・ポリス‚を肴に、インスタント麺ばりのスピードで出来上がったアタシは

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学…7

    汗だくで、不快指数マックスなアタシが帰宅するや目にしたものは、またバーガーキングだった。 シャッター前に飲み物の容器が捨て置かれていたのだ。それも、でかいサイズが。     負けじとでかい溜め息で対抗したアタシは、その容器へ近寄ると、ストローがささったままのそれを屈んで拾い上げた。と、容器の中身がチャポンって波打つのが分かった。      覗いてみると、予想以上に中身が入っている。やや黄色っぽいそれはビタミン系のドリンクみたいだ。     「飲まねーなら、買うなっ

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学 …6

    「あ、あとな、ジョギングしていたオバサン、あの後見掛けたか?」     「全然。けど、なんで?」     「聞き込みをな、そのオバサンにも。ジョギングしているオバサン連中は、片っ端から声を掛けてんだが、それらしいのと出くわさないんだよ。ったく……」     「かなりの巨乳だよ、ジャンプさせてる?」     「タッポン、タッポンってか? バカヤロー」     刑事は、満更でもなさそうな顔で、美味そうにアイスコーヒーを飲んだ。アタシもアイスコーヒーを取り上げたが、ほとんど

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学…5

    青い空を流れる雲の動きは速かった。その風景の手前に、背を向けて佇んでいるお仕着せの女が居た。そう、いずみだ……。     いずみは、なんてことない、よくあるビル群をぼんやり眺めているように見えた。その青い背中が、妙に切ない。お仕着せに羽織った青い革ジャン……。     「あの、革ジャン、じゃん!」     思わず、そう声にしてしまったアタシの方を振り返ったいずみだったが、何食わぬ顔でこう言ってのけた。     「なんだ、サキか……遅いよォ」     「ちょっと、いずみ

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学…4

   丁度半月前、ここのファミレスでいずみと飲み食いしたのを思い出しながら、駐車場に停まるベンツをぼんやり眺めていた……。     「サキ、そう言ってたよね?」     「へ?」     「だからさ、刑事が言ってたでしょ? 連続犯かもしれないって」     「あー、確かに。新宿は初めてらしいけど、だとしたら4件目」     「そうそう。恐らく、スタンガンかなんかで卒倒させておいて……」     「させておいて、なんだよ?」    リョウ兄さんが、食らい付いた。    「だから

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学…3

    現場に、ちらほらと野次馬が集まり始めた頃には、ルミ姉さんとアタシで、駆け付けた制服警官を相手に、一通りの事情を説明していた。もっとも、いずみの救急車へ同乗するつもりだったアタシと連中との間に一悶着あるにはあったけど……。     並行して付近の聞き込みもされていたが、爽やかとは言え、初夏の盛りの今、おしなべてクーラーを使用中の住民達は、いきおい窓を締め切っており、また金曜日の夜8時半頃という時刻故か、在宅していない住民も多く、驚きには値しないが、皆一様に何も気付かなか

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学…2

    それから、半月程経ったある日の晩、店へ様子を見に来たルミ姉さんに誘われたアタシは、立ち寄ったコンビニで、酒とツマミを購入してから吉川ビルへと向かった。     初夏とはいえ、湿度の低い爽やかな晩ということもあり、ルミ姉さんの発案で野点をしようというのだ。酒でも野点と呼ぶのかは知らないけれど……。      屋上は、そよ風が吹き抜け、そこらへ不規則に立てたローソクの炎が揺れ、更にお誂え向きな月の光が、例え女二人とは言え、ある種ロマンチックなムードを演出していた。

セックス、トラック&ロックンロール・混血の美学…1

    また、店のカウンター裏で目覚めてしまった。時計を見ると、午前11時過ぎだった。ザー、ザーとノイズを立てているポータブルのプレーヤーのアームを戻して停止させた。その傍らには、呑み空けたワインの小瓶が転がっている。     「……なによ、これ」     記憶にないそれを眺めながら、昨晩呑み過ぎたのを思い出していく……。     相手は数少ない友人のいずみで、場所は飯田橋のファミレス。 いずみは底無しに呑む女なので、こちらもつい呑み過ぎてしまう。 彼女は早稲田で、助手とか

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…8

    アタシは、息苦しくなって目が覚めた。途端に異臭が鼻腔を満たし、それがかえってアタシの意識を覚醒させた。     果たして、どのくらい時が経ったのか……。     ザー、ザー、ザー……。自動では戻らなくなっているプレーヤーのアームが、演奏し終えたA面の内周の溝をいつまでもなぞり続けていた……。     アタシは、どうしてもデブの下から抜け出せなかった。なんとか足首を動かして、足下付近に放置されたデニムを少しずつ引っ掛かけては引き寄せを繰り返し、ようやく手を伸ばせば触

セックス、トラック&ロックンロール・ヘヴィー・メタル・キッス…7

    前者は不明、後者はあれだ……。     アタシは回転するLPを見下ろしながら、その思いを口にしてみた。     「だから、アレは何だっけ? ‛カッチョイー!‚ってのさ、ほら、誰のどのアルバムだったっけ?」     「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウトでしょ」     「あ―、そっか……。え? えっ!?」     ハッとして、声がした方、そう、段ボールの方を見下ろした。 と、そこには今まさに立ち上がりつつあった全裸のデブの姿があった。気になっていた何かが形になって、