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"Janet"の世界―あの女性記者は今
最近、ネットフリックスの実際起きた事件を描くドキュメンタリー作品の数々にハマっている。
こんなおぞましい事件があったのかと、衝撃を受けるとともに、その後の展開にも引き込まれる。
なぜそのような事件を起こしたのか、もしくは巻き込まれてしまったのか、その背景や過程について当事者や関係者に話を聞きながら、ストーリーが描かれていて、非常に興味深い。
私自身、ノンフィクションが大好きなこともあり、犯罪事件に限らず、騒動の渦中にいた人たちは、その時何を思い、今どうしているのだろうか、と考えることがある。
ふと思い浮かべた人物を検索したところ、ネットフリックスで映画を制作する予定、という情報を見つけた。
誰かというと、1981年のワシントン・ポスト紙虚偽報道事件のジャネット・クック(Janet Cooke)記者だ。
クックは当時、入社1年にも満たない20代半ばの黒人女性記者。
1980年9月に「ジミーの世界」(Jimmy’s World)という見出しで、8歳のヘロイン中毒の少年について報道した。ワシントン・ポストの一面を飾ったその記事は、ワシントンDCに住む”ジミー”が5歳の時からドラッグ常用者で、腕には注射の跡がある、といった衝撃的な内容、世の中を震撼させた。その後、市や警察が”ジミー”を保護するために大捜索したが、見つからず、疑念の声もあがる。
それでも翌年、クックはジャーナリズムの最高の栄誉とされるピュリッツァー賞(the Pulitzer Prize)を受賞。
皮肉なことに、受賞がきっかけとなり彼女の経歴詐称が発覚し、記事そのものが全くのでっち上げだということが判明した。ワシントン・ポストは賞を返上し、クックも辞職した。
*ちなみにWashington Postのサイトで、Jimmy’s Worldを検索すると記事が読める。
私は子供だったので、当時の騒動については記憶にない。ただ、アメリカの大学院のジャーナリズムの授業で、「盗用とねつ造(Plagiarism and Fabrication)」は絶対許されない行為というのを叩きこまれた際、彼女の名前は必ずと言っていいほど登場した。
プレッシャーや功名心から記事をねつ造したのだろうけど、ここまでの話をでっちあげるというのは勇気がいる、というか普通の精神状態ではなかったのだろう。倫理観も当然欠如している。
そんな彼女は今どうしているのだろうか。
コロンビア・ジャーナリズム・レビュー(Columbia Journalism Review)によると、2016年時点で彼女は執筆に関わる仕事はしていないとのことだ。
2020年の報道によると”Janet“という題名で、この話を映画化し、キャストを選んでいるという。
ネットフリックスに確認するしかないけれど、4年前だからその話は消えたのかな…と思いつつ、あの事件はなぜ起きたのか、主人公の心理が忠実に描かれる映画がみてみたい、と思わず期待してしまう。