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犠牲と貢献 その2 愛国者学園物語 第245話

その話を全部聞いてから、吉沢が話した。

「強矢さんはまだ子供だ」

強矢が嫌そうな顔をした。

「そんな子供に、大人でもひるむような辛い現実を見せるのは無理がある。それに、なぜ軍隊を賞賛するのに、そんな過去の遺物を見る必要があるんだろうか?」

吉沢のその言葉に、美鈴は腹を立てた。

「遺物なんかではありません。大切な教訓です。戦争では病人や負傷者が大量に出る現実を知らねばなりません。そういう現実を無視して、軍隊を賛美するのは、戦争バカです」

「なんだと!」

吉沢が怒った。

「偉大な祖国日本の軍隊を賛美して何が悪いんだ! 彼らの偉業に泥を塗る人間は非国民だ!」

美鈴も負けなかった。

「苦しむ彼らを無視する人こそ、非国民に他なりません」

吉沢は息を飲んだ。この女は政権与党の大物議員である自分を非国民と言っているのだ。美鈴は、そんな言葉を使って後悔したが、もう遅い。

「強矢さんたちにはぜひ『しょうけい館』に行ってもらいたいものですね。そして、感想を、この『愛国砲弾』で述べてもらいたいわ」

「そんな古い施設の話をしても無駄だね。今では医学も、兵士個人を守る防護具も進化しているから、当時の教訓など意味がない。今の最新式の義手や義足を、昔の物と比較出来るわけないじゃないか!」

「私をバカにしても無駄ですよ、国会議員の先生。昔に比べて、今では兵器も爆薬も進歩しています。ごく普通の自動小銃でも、その弾丸は300メートルはゆうに飛ぶし、それが木の枝などに当たって跳ね返る・跳弾(ちょうだん)と呼ばれるものは、人を容易に傷つけるのだそうです。私はバルベルデで働いていた時、休みになるとよく射撃場に行って、M16自動小銃や各種の自動小銃を撃っていました、「ターミネーター」のサラ・コナーみたいに。ですから、小指みたいに小さな5.56ミリの小銃弾がどれだけ危険なものかを知っています。それは昔の弾より危険なんです。それに、軍人のヘルメットも、実は直撃弾には効果がなく、跳弾対策なのだとか……。

それはともかく、世界の戦争や紛争を見ていると、負傷者はゼロではありませんし、死者もたくさんいます。昔の教訓は役立つんです……。だから、強矢さんにも、その現実を知ってもらいたい。ある兵士は戦争で片足を失い義足になった。帰国して生活をしようにもカネがないし、政府からの年金も頼りにならない。それで街に出て募金を募る(つのる)。そういう傷痍軍人(しょういぐんじん)の苦労を学んでもらいたいですね。私は『しょうけい館』に出かけた甲斐(かい)はありました」

美鈴の長い話は、静かに終わった。

「あ、そうだ。あのことも話さなきゃ」

根津が(なに?)と言いたげな顔をした。

「『しょうけい館』のホームページには、どの学校や組織がここを訪問したか、その名前が公開されています。多くの学校がそれに名を連ねていますが、愛国者学園はなかったわね。それに、陸上自衛隊の衛生学校の名前もあり、彼らが頻繁に『しょうけい館』を訪問していることがわかります。陸自の衛生兵や軍医などに相当する人たちは、わざわざそこに足を運んで、過去の教訓を学んでいるのでしょう。自分たちが義足になるとか、失明するかもしれないなんて考えることは恐ろしいと思いますが、それが現実の姿です。

愛国者学園は悪い意味で、現実離れしていますね」


続く
これは小説です。次回 は「2000万人の犠牲」。旧日本軍のせいで、2000万人の犠牲が出た、その話で美鈴と強矢は激突します。果たして? 次回もお楽しみに!

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