誤字だらけ半蔵と核兵器花子 愛国者学園物語 第224話
強矢悠里(すねや・ゆうり)をはじめ有名な愛国者学園の生徒は多いが、その全てをここで紹介する必要はなかろう。ここで紹介したいのは、
「愛国疲れ」を体現するような生徒である。
誤字だらけ半蔵
彼の父親は忍者が大好きだった
、と書けば、時代小説に詳しい人なら、この話の続きがわかるかもしれない。彼は愛妻が身ごもったことを知ると大喜びした。もし生まれてくる子が男の子なら、有名な忍者「服部半蔵」から名前を頂いて半蔵と名付けよう。ロマンチストの彼は待った。その子が生まれる日を。そして、ついにその日が来た。彼は男子を授かったことを知り、病院中に響くような声で「半蔵!」と叫んだという。そんな両親の温かい眼差しのもと、少年は成長したのだが、愛国者学園が少年を変えた。小学4年生の頃、彼は学園の動画チャンネルで、アナウンサーを担当していた。子供にしては落ち着きがあり、ハンサムと言える顔つきだったから、大人の女性のファンもいたそうだ。
ある日のこと。愛学の愛国教育を非難しないと気が済まないおじいさんが、アカウントに彼を馬鹿にするコメントを並べたことが、半蔵少年の運命の分かれ目になった。負けず嫌いの彼は、仲間とともに、その老人のアカウントに逆襲をしかけ、個人情報やハンドルネームを使ったコメントをネット社会にばらまいた。それがもとで、老人は住んでいた老人ホームを追い出される羽目になった。老人は、ブログでホームの仲間たちを侮辱し、人物が特定出来る情報を多数書き込んでいたからだ。ところが、老人はギャングを雇い、半蔵少年に暴行を加えた。当然、警察が出動、老人は逮捕、半蔵は保護された。
これ以降、
半蔵はほとんど笑わなくなったと
、周囲の人々は言う。勉強は最低限しかやらず、ネット社会をうろついて、愛学を攻撃する人間や、政権与党を批判する人間に、罵声を投げつける少年になった。その様子が酷かったので、彼は小学6年生にして有名人になっていた。有名と言っても、悪名ゆえにそうなったのだ。彼の毎日はネットまみれ。朝から晩までネット社会をパトロールしては、他人を攻撃するか、日本人至上主義にあふれたブログを書く。それには約37万人のファンがいるというのに、勉強を軽視したつけなのか、彼の文章は誤字だらけ。だから、彼は「誤字だらけ半蔵」と呼ばれて久しく、同年代の生徒なら知っている基本的な知識にも欠ける。
なんという、荒んだ(すさんだ)少年だろうか。半蔵は、彼の文にある誤字や意味不明の箇所について質問されると、そういう質問は自分を馬鹿にしていると言って怒る。彼は将来、自衛隊に入隊して、自衛隊を国防軍に変えて核武装をする仕事をしたいと公言しているが、それを信じている者はいない。
核武装花子
この少女は日本が核武装すべきという持論にこだわっているが、それは教師たちの受け売りである。具体的には以下のとおりだ。愛国者学園は日本各地の戦跡を訪ねる旅行をするが、広島と長崎には行かない。なぜなら、学園の教師陣は核武装推進論者で構成されているからだ。彼らは公言している。子供たちに核爆弾の悲惨さを見せれば、日本の核武装に反対するだろう。だから、広島と長崎はパスする。そして、学園では、日本が核兵器を持つことの利点を何度も何度も学園生に説いた。
第二次世界大戦当時、日本が核兵器を持っていれば、広島や長崎のような悲惨な出来事は起こらなかった、と。
今、21世紀の日本は、中国や北朝鮮、ロシアのように核武装国に取り囲まれている。韓国も北朝鮮と南北統一をすれば、北の核を受け継ぐだろう。その矛先は日本だ。だから、日本も核を持とう。核を持てば、日本は安全だ。もし日本に核がなければ、1億2千万の日本人は灰にされてしまう。愛国者学園はそんなことは許さない! 花子はそういう言動を真に受けたらしい。
彼女は
長期休暇になると
、必ず上京して、まずは靖国神社に行き、祖国の安寧(あんねい)と戦没者の冥福を祈る。そして、総理官邸近くまで行き、日本は核武装せよというプラカードを掲げるのだ。彼女はその様子をSNSに投稿すると、多くのファンがその行動に賛同し、褒めてくれる。そのせいか、彼女の行動は、他人からいかに褒められるかを基準になされるらしい。そして、その反対にその行動を批判されると、彼女は烈火の如く(ごとく)怒り、批判者たちに恐ろしい言葉を投げつけるのだ。そのせいで、彼女のアカウントが凍結されたこと、あるいは動画が削除されたことは何度もある。
彼女の生きている世界は、自分に賛同する人間だけで構成されており、反対する人間の存在は初めからないらしい。
このように愛国者学園の有名な学園生たちには、攻撃的な言動、自分とは異なる意見の持ち主との対立が顕著な(けんちょな)特徴としてある。
以上が、「週刊まさか」の記事の概要だった。
続く
これは小説です。