子供たちに語る吉沢議員 愛国者学園物語 第196話
愛国者学園が開学して間もないある日、
吉沢友康議員
がやって来て演説をした。その日の吉沢の話は、いつにも増して乱暴な内容であった。
「国家と皇室に奉仕すること。それは日本国民の義務だ。違いますか?」
子供たちの間から、いいえと、力のない声がいくつか聞こえた。吉沢はわざと失望したような態度をとってから、怒りを爆発させ
「聞こえねえなあ、お前たちは非国民か?」
と叫んだ。
「いいえ!」
吉沢は近くにいた子供に近寄って、
「お前は非国民か?」と聞いた。少年は緊張したせいか弱い声で
「いいえ」
と言った。
吉沢は怒り、
「もっと大きな声で! 君は愛国者か?」
「はい、そうです!」
少年の声が大きくなった。
「私は愛国者ですと叫べ」
「私は愛国者です!」
吉沢は彼の肩を優しく叩いた。
会場の雰囲気が変わったところで、吉沢は続けた。
「そんなんじゃさあ、@されちゃうよ。君たちの敵はね、君たちより数が多く凶暴で、武器をたくさん持ってるんだ。私はね、君たちに最新鋭の武器をたくさん持たせたいんだけど、馬鹿な国民たちがそれを許さない。それはなぜか。馬鹿な国民たちが、敵である反日勢力に支配されているからだ。馬鹿な日本人たちは反日勢力に洗脳されちゃってる。
君たちはね、そういう連中とも戦わなくてはいけないんだ。
(沈黙)
そんなときはね、君たちの愛国心が最強の武器になる
。世界で唯一の平和な宗教である神道、2600年以上の歴史を持つ世界最古の王族である皇室。そして、この、美しい世界一の祖国日本だ。この3つの柱が私たちの全てであり、それを守るのが愛国心だ。君たちには、愛国心がありますか?」
「はい」
弱い声が会場のあちこちから聞こえた。
吉沢は声を張り上げた。
「もっと大きな声で。君たちには愛国心がありますか?」
「はい!」
それは、前とはうって変わって力強い返事だった。
吉沢の話は続く。
「反日勢力は恐ろしいのだ。デマを流して、日本人の名誉を傷つける。スパイを日本に送り込んで、ハイテク技術を奪う。特殊工作員を送り込んで、破壊活動を準備する。日本人を洗脳して、日本社会を不安定にする。そして、日本との戦争を正当化し、日本を悪者扱いする。君たちはそういう連中と戦い、勝利しなければいけません。
もし負けたらどうなりますか。それは、男は殺される、女は@@@される。君たちはそれでいいのですか? 嫌だろう? まともな人間ならそう言うはずだ。だが、今の世の中では、まともな人間は少ない。なぜなら、多くの日本人が洗脳されているからだ。君たちは洗脳されていないよね?」
子供たちは頭を振った。
「よろしい、もし洗脳されている子供がいたら、その子はどうなると思う?(沈黙)@されるんだよ」
会場の空気が冷たくなった。
「私はこの君たちに日本の将来を託(たく)したいんだ。世界のどんな国の人間とも戦えるような強い肉体と精神の持ち主になって欲しいんだ! そうじゃなきゃ、この弱肉強食の世界では生きていけない。ドス黒くて卑劣な反日勢力の餌食になってしまう。それでいいの?
(首を振る子供たち)
そうでしょう? われらが祖国日本がだよ、侵略戦争をして植民地ばかりつくり、現地人を皆殺しにしている反日勢力のものになってしまうんだ。それでいいんですか?
「やだー」
と子供の悲痛な叫びが聞こえた。
そうだ、その通りだよ、君。嫌だろう? 反日勢力に支配されるのは。だから、私たち日本人は偉大な祖国日本を守るために、戦わなければいけないんだ。そのために、ですよ、この愛国者学園のような学校が必要なんだ。
(そうだー)」
吉沢は話を進めた。
「今の日本に必要なのは正しい歴史を語ることですよ!」
(そうだ!)
吉沢は微笑みつつそちらを見て、
「そうでしょう?」
と優しく言った。
そして再び声を張り上げて、
「世界には反日勢力がたくさんいて、日本を悪者扱いしている。そして、間違った歴史つまり自虐史観を善良な私たち日本人におしつけて、それが正しいものだと私たちを洗脳しようとしているのだ! そんなことを許す馬鹿は日本人ではない。そいつらも反日勢力ですよ。
私たちはああいう連中と戦って、勝利を勝ち取らなければいけない。卑劣な反日勢力と戦い、奴らを粉砕し、偉大なる日本を世界に見せつける」
吉沢は一瞬置いて叫んだ。
「勝利! それこそが私たちの生きる道なのだ。私たちの決意は固い。反日勢力がいかなる存在であろうが、我々の決意を砕くことは出来ない。それは、我々がこの美しい国土、そして世界で日本だけにある宗教・神道と、世界最古の王朝である皇室を守るという神聖な任務を担っているからだ。
ここにいる私も、私の演説を聞いてくださるあなたも、この神聖な任務の担い手なのですよ。そう、君もそうだ。君たち愛国者学園の子供たちも、この日本を守る聖なる戦士なのだ。
戦士たちよ、心あつき愛国者たちよ、私たちと共に戦いましょう。反日勢力を打ち砕いて、我々日本の愛国者が正しいことを、日本こそが世界をリードする国であることを見せつけようじゃありませんか!」
聴衆から、割れんばかりの拍手を浴びて、吉沢は得意の絶頂だった。誰もが立ち上がり、この胸がドキドキするような演説に惜しみない拍手をした。
強矢悠里
もそうだったが、小さな彼女には、このおじさんが誰にも増して頼もしい人物だと思えた。
つづく
これは小説です。
次回 197話 「映画と演説」
あの強矢悠里(すねや・ゆうり)の心をとらえた映画とは? そして、彼女が演説クラブに入った理由とは? 次回もお楽しみに!
この記事が参加している募集
大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。