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旭日賛美 愛国者学園物語 第194話

 

(きょくじつさんび) 平成の次の時代を支えたのは、日本人至上主義者の政党と化した政権与党だった。

その中でも、特に色濃く日本人至上主義に染まった議員たちはやりたい放題だった。誰も彼らを止めず、記者クラブで政府と密着したマスコミの大半もそれを見ないふりをしたからだ。

 議員たちは、日本人至上主義に疑問を唱えるごく一部のマスコミやジャーナリスト反日勢力のレッテルが貼り、目の敵(かたき)にした。

 そんな時代において、

吉沢友康(よしざわ・ともやす) 

は若い頃から暴言で有名な国会議員であった。その若き日に、早稲田大学の「雄弁会」の一員としてその名が知られるようになったのも、本人いわく反日勢力と戦いたいからであった。だから、そのスピーチには雄弁というより、悪意に満ちたものもあり、会を取り仕切る上級生たちは苦労した。吉沢に注意すると、彼は上級生たちを恐ろしい顔でにらみ、根に持つからだった。

 そんな人間がどうして政権与党の大幹部なれたのか。人々は賞賛と侮蔑の入り混じった言葉で、彼を形容する。彼は人をアジることにかけては天才的な男だ、と。

そう、彼は演説の名手であった。

それゆえ、演説を聞く聴衆の愛国心を煽り(あおり)たてることは誰よりも上手だった。反日勢力が日本を様々な手段で攻撃している、だから彼らに立ち向かい祖国日本を守ろうと聴扇動(せんどう)する手腕は、多数の議員を擁する(ようする)政権与党においても、ピカイチだった。それが、選挙民たちの賞賛を集め、自分の選挙区で勝ち続けたというわけなのだ。


 だから、彼の支持者は、
「歯に衣を着せないその言動は頼もしい」
とか、
「日本を貶めよう(おとしめよう)とする反日勢力に立ち向かう、勇者」
「誰にも負けないほどの愛国者」
などと褒め称えた(ほめたたえた)。


 エネルギッシュな彼が世に送り出した演説はいくつかあるが、その一つは、

「旭日賛美(きょくじつ・さんび)」

である。朝日が昇る様子を、つまり、旭日を旗にする、あるいはシンボルマークにしたり、組織などの名称に使うという行為は日本では、ありふれたものだ。海上自衛隊の旭日旗(きょくじつき)や、アサヒビールのマーク。あるいは、その名のとおりの朝日新聞、それに日本の勲章である旭日章がそうだ。

 だが、その一方で、それを嫌う人たちがいることも事実である。旧日本海軍が旭日旗を掲げていたことや、それが第二次世界戦争での日本のシンボルだったから使うな、という主張が、大日本帝国によって苦しんだ韓国などや、日本の左派勢力に根強くある。つまり、日本人至上主義者のいう、反日勢力が旭日旗を嫌うわけだ。

 だから、機を見るに敏で、かつ、人々を扇動(せんどう)することに長けたこの暴言議員は、これを機にあることを思いつき実行した。そう、旭日旗などの「弁護人」である。彼は事あるごとに、旭日旗などを積極的に弁護した。例えば、こんな風に。

 「最近の外国人は、日本の旭日旗が気に入らないと言っては、怒りを爆発させています。東京オリンピックのときもそうだったが、応援のために旭日旗をスタジアムなどに持ち込むこと禁止することを、どういうわけか韓国の国会が決議したんです。日本はそれを受け入れなかったが当然でしょう。

(中略)

 日本の象徴の一つ、日本の誇りである旭日旗を侮蔑するような態度は、日本を破壊する行為そのものではありませんか? 


(中略)

 もし、反日勢力が旭日旗の掲揚を止めることが出来たら、日本社会はどうなるだろう。

その次は

、朝日新聞やアサヒビールもその標的になりますよ。缶詰メーカーにキョクヨーという会社があります。美味い缶詰を作る会社ですが、その缶詰にも旭日の絵が使われています。

 もし外国人や日本の左翼、つまり反日勢力が旭日旗を亡きものにできたら、次はそのイメージを大切にしている会社や組織が狙われるでしょう。(彼はここでいたずらっ子のように微笑んで)そうなったら、キョクヨーはどうなりますか? 朝日新聞はどうしますかね? 朝日という名はけしからん、と外国人に言われたら、朝日新聞はその名前を変えるのだろうか。朝日よ、社名を変えろ!」

と皮肉った。

彼は気味の悪い笑顔を浮かべて続ける。

 「大人気アニメのガンダム。その制作会社はサンライズというが、彼らも改名を強制されるかもしれませんね。そうじゃありませんか? サンライズは日の出のこと、旭日と同じだ。ガンダムファンの皆さん、大変だ、ガンダムの会社がなくなっちゃいますよ。(中略)それだけじゃないな、世の中にはね、「あさひ」という名前の持ち主がおられる。時々お見かけしますがね、反日勢力が日本から旭日を奪ったら、彼らの名前も変えろなんて言いかねない」


それを聞いた聴衆たちは静まり返った。吉沢は続ける。

 「きょくじつ、つまり、朝陽が昇るというのはとても神秘的で、おめでたい。万物を育む太陽がその顔を出すからです。よく、ご来光(ごらいこう)を拝みに元旦に登山する人たちがいるが、私はあの人たちの気持ちがわかりますよ。

 そう、反日勢力が日本から旭日旗を奪ったら、次は文化も奪うだろう。ご来光を見るような行為は、旧日本軍のシンボルを崇めるのと同じだ、なんて論理をぶち上げかねない。そして、日本の勲章である旭日章も廃止せよと、日本政府にねじ込んでくるでしょう。日本の勲章制度には瑞宝章(ずいほうしょう)と旭日章という、大きく分けて2種類の勲章がありますが、民間人は旭日章を受けることが大半です。だから、みなさん。反日勢力には気をつけてください。皆さんが受け取るはずの旭日章がなくなってしまうかもしれませんよ」


吉沢は、にこやかに続けた。
「みなさん、旭日旗廃止運動の最終目標はなんだと思いますか?」
彼は数秒沈黙して、聴衆の反応を確認した。

「その目的はですね、日の丸と日本の破壊ですよ

。日本は日の本(もと)のくに。つまり、旭日や朝日の国。そのシンボルを奪えば、次は日本そのものを破壊する。そういう考えがあってなんら不思議ではありません。旭日旗の次は、日の丸を廃止せよと連中は言うだろう」


聴衆は信じられないと言いたげな表情で、吉沢を見つめた。

 「そんなこと起こるわけない? そう思いますか? 世の中には日の丸を侮辱する奴がたくさんいるんだ。ああいう連中は日本を破壊する反日勢力ですよ。放っておけば、奴らはどこまでつけあがるかわからない。だから、私たち愛国者は、つまり日本人至上主義者は、日本を守らなければいけないんだ。偉大な祖国日本を守る! それが私たちが生きている理由なんですよ!」

 「言うまでもありませんが、わが党、そして不肖(ふしょう)この私は、このような旭日旗廃止運動には絶対に負けません。不退転の覚悟で戦います。日本のシンボルを、外国や日本人でありながら日本社会に反対ばかりしているような人間どもに渡すようなことはしません。反日勢力をやっつけねば駄目なんです!

みなさん、愛する祖国を守るために、皆さんの人生を守るために、共に戦いましょう。どうか、どうか、皆様のお力をこのわたくしにお貸しください!」


拍手は大きかった。



次回 第195話
「熱く語る人」
吉沢友康議員の言動には問題も多いのに、なぜか、とても人気のある人だった。それはなぜなのか。次回もお楽しみに!


続く
これは小説です。


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