子どもの頃に知りたかった世界のこと#宝石展
名古屋市科学館にて開催中の宝石展の雑感。
この夏の間に、もう一度くらいは観に行きたいのだけれど、忘備録的にnoteに残しておこう。
夏休みが始まり混雑覚悟で行ったものの、平日の午前中だったせいか、ゆったり余裕で観ることができた宝石展@名古屋市科学館。
ブルガリ展やカルティエ展のような、警備員が立ちショーケースにも必要以上に近づけない厳かな展示と違い、身構える雰囲気はなかった。私のように一人でじっくり楽しみたい来場者の他、親子連れが特に多い印象。
「わあ、すごーい!」と声を上げながらスマホで撮影する子どもたちに混ざって、私も素の状態となって宝石の世界を堪能したのだった。
そう、一部の展示を除いて撮影OKだなんて…
さすがSNS全盛期!
結論からいうと…
私が子どもの頃に見たかった・知りたかった宝石のことが、この展覧会にはほぼすべて集約されていた!
◆原石が地中でどうやってできるのか
◆原石が磨かれてきれいな宝石になるまで
◆色とりどりの宝石
◆珍しい宝石
◆指輪やペンダント以外のアート作品みたいな宝石
◆宝石を使った非日常的なジュエリー
◆遺跡から出てきた宝石、歴史の中の宝石
私がもし子どものときにここへ来ていたら?きれいな小石を拾ったり鉱物標本を眺めることが大好きだった あの頃に。
おじいちゃんに頼みこんで、何度も何度も通い詰めたかもしれない。写真をたくさん撮って、お小遣いで鉱物図鑑を買って、夜はベッドの中で眠りに落ちる寸前までページをめくっていたかもしれない。
(あれ??大人になった今もやっていることが変わらない…)
ちなみに故人となったおじいちゃんは、子どもだった私を鍾乳洞や玄武洞や砂丘など地学スポットに連れて行ってくれた、師匠のような人だ。
ごつごつとした『原石』のきれいな部分だけがトリミングされて、研磨されて『宝石』となって、
デザインされて貴金属とともに加工されて、人が身につける『ジュエリー』になる。
もちろん、今の私はちょっとばかり知識がついたから、加工前の宝石から完成品のジュエリー(しかもここに展示されているのは超逸品!)を作り上げるのは簡単じゃなくて、その間には長くて険しい道のりがあるよ!
…なんてことを思う。
素の状態で楽しんだと先に書いたけれど、ジュエリーの仕事を通して身についた知識や経験が、良くも悪くも顔をのぞかせる。
だから、ここにさりげなく展示されている原石も宝石も単にきれいなだけじゃなく、本当はたくさんの中から選び抜かれたものなんだということが解る。
ビルマ(ミャンマー)、カシミール、スリランカという産地ごとの大粒サファイアを並べていることも凄いし、ピジョンブラッドの3カラットのルビーがここにあることも凄い。
とんでもなく凄い。
4000年にもおよぶ指輪の歴史を知る『橋本コレクション』もあるし、
(大好き!もうこの展示だけで一日中観ていられる!)
ジュエリーを作る者として、畏敬の念というか…たとえようもない感情しか湧かない。言葉が要らない、美の極致。
ギメルのジュエリー。
展覧会の最後を飾る撮影禁止の部屋には、歴史的にも貴重なアルビオンアートのジュエリーが並ぶ。
静かな迫力に、息をするのも忘れそうになる。
宝石やジュエリーのことを解ったような気分になって、ここまで観て、まだまだこの世界には知らないことばかりなんだと認識させられる。
そしてまた、宝石のことを知りたくてたまらなくなる。
ふと思い出したが、2000年代前半にジュエリーの仕事に就いて初めて行った『国際宝飾展』では、いろいろな宝石・ジュエリーを見すぎて脳が破裂しそうだった。その頃は今よりも景気が悪くなく、多彩な海外業者が出展していたのだ。
職場に入れ替わり立ち替わり来る卸業者さんたちのカバンもまさに宝箱で、もちろん一流品ばかりではないから玉石混交だけれど、びっくりするような逸品を気軽に触らせてもらっていた。
コネも何もなく業界に飛びこんだ私にとって、働く日々は宝物に囲まれた刺激的なものだった。たとえ自分が所有していなくても、こんな凄い宝石がある!と知るだけで知識欲が満たされた。
もし私が子どもの頃に、今回の宝石展を観ていたら?
今のように年中どこかのミネラルショーやネットで気軽に石が買えるとしたら?
もしそうだったとしたら、私はジュエリーの仕事に就いていなかったかもしれない。手の届くものだけを周りに置いて、純粋な趣味で満足してしまったかもしれない。
世界を知りたくて手を伸ばし、伸ばした先の扉が開いて、私は仕事を手に入れた。これが何よりの私の宝だった。
空がどうしてこんなに青くて、ルビーがどうしてこんなに赤いのか。その問いを持ち続けて生きようと思う、2022年夏の宝石展だった。