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吹雪荘物語 ④ ~こぼれる涙~

「こまっちゃん」は小松君って言うベース弾きで、バンドメンバー募集の雑誌で知り合ったんだ

ビートルズ好き!ってのが共通点だった

色々な人とバンドを組んでは辞めての繰り返しだったけど、彼とはずっと一緒だった

馬が合ったんだろうな!ちょっと孤独な感じで、白いシャツを買ってきて自分で色を染めて着る様な変わった奴だった

いつだったか彼が「プロのバンドマン求む!」ってチラシを持って来て

「これ、応募してみない?」って言うんだ

どうやら生バンドを聴きながら酒を飲む様な店で演奏するらしい

「オーディションだけでも受けてみようよ!」って言う彼に誘われ、やってみる事にしたんだ

だけどオーディション数日前、右手の薬指に怪我をしてしまった

当時建設現場でアバイトしていたんだが、ベニヤ板を少し大きなカッターナイフでガーッと切る時に、どうやらベニヤ板がささくれ立っていたようなんだ!

勢い良く「ガーッ」と切ってると「ズボッ」と爪の生え際に1cmぐらいのトゲと言うには大き過ぎるヤツが刺さったんだ

当時の俺は保険証も持って無かったので病院には行かずに、当時付き合ってた彼女を吹雪荘に呼んで抜いて貰う事にしたんだが

何しろ爪の先なんでちょっと動かしただけで神経を刺激する!どうにも痛くてしょうがないので

俺は気を紛らわす為に、その頃好きだったレイチャールズの「こぼれる涙」って曲を流し、声にならない絶叫で静かに歌い、彼女の持つピンセットに指を任せたんだ

だから今だにあの曲を聴くとあの部屋で、のたうち回った時を思い出すよ…

とりあえずトゲは抜けたんだが、とても普段通りギターをジャカジャカなんて弾けそうもない! 

さて、オーディションをどうしたものか…

こまっちゃんは「今回のオーディションはやめとこうか…」って言ってくれたんだけど、なんだかそれも申し訳ないから「やるだけやってみようよ!」と言う事になったんだ

オーディション当日は一応ギターをぶら下げていたんだが、とても痛くて弾けず、結局こまっちゃんのベースだけでビートルズをハモる!という奇妙な二人組となってしまった

さてと、オーディションの結果なんだが…
おっと、次回にしておこうか!すまんな…



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