「五郎からの手紙」
まだ朝靄のかかる早朝、ピンポーンと誰かが来た。
不審に思いながら玄関に行ってみると、そこに奇妙な人が立っている…しかも玄関の内側に!
その人は郵便局員の服を着て人間の体をしているが、手と顔は猫であった
目をこすりながらビックリしている私に、お構いなく彼は言った
「時空超越郵便で〜す!この手紙はこの世に置いておく事は出来ませんので、この場で読んで下さい。読み終えたら持ち帰りますので」と一通の手紙を差し出した。
あっけに取られながら手紙を開いて見ると、ひどく乱雑な文字でこう書いてあった
お久しぶりです、以前お世話になった猫の五郎です。あっしは旦那の元を旅立った後「いつ行っても黄昏時の街」って所に居るんですがね、そろそろこの街ともおさらばして、別の時代に生まれ変わる事にしたんでさぁ。
この街を出て行く時は「思い出屋さん」に記憶を引き取って貰わなくちゃいけないもんで、旦那の記憶の有るうちに最後の挨拶だけでも、と思ってこの手紙を書いてやす。
あっしは旦那と出会う前は、ずっと野良猫人生を繰り返していたんでさぁ。野良猫ってのもまんざら捨てたもんじゃないんですぜ!ま、寿命は短いですが、自由気ままで、生きて行くのは自分次第って訳でさぁ。
あっしは長年にわたって染み付いた野良猫魂に誇りを持ってる「野良プロ」ですから、何ら苦痛は無かったんですがね、たまたま今回旦那と出会って人間と一緒に生きる事になりやした。
貴重な体験でしたよ!食い物は美味いし、水だっていつも綺麗だ。しかもトイレ掃除だってしてくれる!あっしは申し訳ないやら嬉しいやらでね…いつも涙声でにゃ〜にゃ〜って鳴いていたんですぜ、気付きませんでしたか?
真冬の夜なんざ旦那の懐の暖けぇこと!温もりってやつは良いもんですにゃ。
おっとあぶねぇ、野良猫魂が骨抜きになっちまうぜ!
…でも、旦那…もし、もしもだぜ…もし良かったら、いつかまた…
いや、やめときましょう…柄じゃねェや!へ、へ、へ。旦那!ありがとよ、あっしは何処を旅してようと旦那の事を忘れはしねぇよ!
楽しかったぜ、さよにゃら!
最後にサインのつもりだろうか、肉球の印が押してあった。
手紙を読み終えた事を確認したヘンテコな郵便局員はその手紙を口にパクっと咥え、くるりと玄関から飛び出して行った。扉は閉まったままなのに…
そうか…五郎は次へと歩き出したんだな…
俺もそろそろ歩き出さないとな…
と思いながら二度寝した…
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