選択的夫婦別姓をテーマに、 SDGs広告を作ったワタシたちの冒険譚。
あの判決から1ヶ月が経って…
最高裁判所大法廷の家事審判の決定で、夫婦同姓を定めた民法などの規定は憲法第24条の「婚姻の自由」に違反しないと判断してから、1ヶ月以上が経とうとしている。
そんな8月1日に、ある広告が広告・クリエイティブの専門誌「ブレーン」に掲載される。私たちJardinがクリエティブを手掛けた、日本発のモード誌、集英社「SPUR」の広告だ。
月刊ブレーン2021年9月号 No.734(画像はブレーンWEBサイトより)
今回は、SDGsに関する施作や、ブランドのサスティナブルな取り組みを手掛けるJardinの、その具体的な仕事を語りたい。この仕事は、「SPUR」が【SDGs】をテーマとして扱いたい、というオファーから始まった。そして、それは単なる1回の記事や広告ではなく、半年以上続くシリーズとして行う、その第1回目が「選択的夫婦別姓」であった。
どのようにして「選択的夫婦別姓」に取り組んだか。
Jardinのクリエイティブディレクター吉田、アートディレクター西山が、コピーを担当してくれたコピーライターの鎌田さんと、この仕事を振り返る。
鎌田「結構、長かったですよね。企画がスタートしてから、世の中に出るまでに。」
吉田「そうですね。やっぱり、なぜモード誌が社会課題を取り上げるのか?という部分から始める必要がありましたからね。編集部の皆さんも、読者の方々も納得できる理由を、探すところからはじめました。長い期間、お付き合いいただき、ありがとうございました。」
鎌田「でも、すごく面白い取り組みだと思いましたよ。モード誌が社会課題を取り上げるのって。個人的にも、すごくやりがいを感じられる仕事だと感じていました。」
吉田「それは本当によかったです。割と最初から、そうおっしゃってくれていましたよね。」
鎌田「俺らの仕事って、広告するものを背伸びさせて表現して、って言うようなこともよくあったり…タレントさんを出せば良い広告に見える、っていう感じも、たまにあって。なんか、それって本当に俺がやりたいことなんだっけな?みたいなことを考え始めていたところで。コピーライターとして、世の中とか社会に対して意味あることもメッセージにしたいなって。そう思いはじめたタイミングだったんですよね。」
吉田「すごいモチベーション高くやっていただけて、嬉しかったですよ。」
鎌田「いや、すごい怖いし、今回も『賛否両論あるだろうね』ってみんなで言っていたじゃないですか。怖かったですよね。もちろん、女性の方にも共感していただきたいし、実際数値で見ても、選択的夫婦別姓が認められないことで、仕方なくパートナーの姓に合わせているのは、女性が多いということで。ザ・九州男児として生きてきたし、俺で大丈夫なのかな…みたいなのは、正直…未だにありますけどね。ただ、チャレンジしないとなぁ、と。だから、こういう仕事を、実は男性がやっているんです。って、本当はちょっと自信ないけど、伝えていった方がいいんじゃないかと思っています。」
・・・
吉田「SPURの皆さんも、女性のスタッフの方が多いってこともあって、制作チームのジェンダーのバランスみたいなものは、気にしてらっしゃいましたね。」
西山「当事者かどうか、って、こういう社会的な課題を取り上げるとき、やっぱり考えますよね。」
吉田「…うん、野次馬広告になりたくないっていうのは、ずっと思っていて。Jardinのメンバーでもよく話しますけど、SDGsウォッシュになるのは、本当に避けたいな…って。そこを考えるのに今回、大切だったのは、なぜモード誌が社会課題を取り上げるのか、って所。俺より西山が結構、そこを気にしていた記憶がありますね。」
西山「イシューを言うだけ言って、あなたたちは何してるの?って世界から思われるんじゃないかって、ところが気になってて。気をつけないと、社会はこうあるべき!って言いっぱなしで終わる、ということは避けたくて、ちゃんと自分の中で整理された状態で、コミュニケーションとして正しい状態にしたかったんですよね。」
吉田「最終的に鎌田さんが作ってくれたこの一連のキャンペーンのテーマが、その答えになってくれましたよね。」
鎌田「『#ワタシつづけるSPUR』ですね。」
なぜ「選択的夫婦別姓」を取り上げるか、から考えたい。
Jardinが鎌田さんと一緒に、この一連の取り組みに提供したコピー「#ワタシつづけるSPUR」。それはSPURが社会課題を取り上げる理由となる、コンセプトコピーとなった。
あの日、ロールモデルのあの人は、
何を着ていただろう
あの時、アクティビストのあの人は、
何を身に付けていただろう
パートナーシップ証明がなされた日、ふたりは、
夫婦別姓を選択した日、ふたりは、
着る服をどんな気持ちで選んだのだろう
私たちは
着ることで、脱いでいく
服を着て、ココロを、裸にする
服は、私のいちばん外側であり、
いちばん内側なのだ
(映像は『SPUR.JP』YouTube公式チャンネル、コピーは『SPUR.JP』より)
吉田「このコンセプトが出来て、SPURが社会課題を取り上げることに納得が生まれて。選択的夫婦別姓を取り上げること、その広告を打ち出すことに一気に走り出しましたね。」
西山「本当に素敵なコピーを生み出していただいて。」
鎌田「説教くさいコピーには、したくなかったんですよね。」
西山「今の世の中の状態を、そのままスパッと切り取った感じがしました。」
鎌田「SPURの皆さんがおっしゃっていた、この広告の目的に常に立ち返っていましたね。」
吉田「脱・思考停止っていうプロジェクトの目的は、もう合言葉になっていましたよね。SPURの読者の皆様、生活者を選択的夫婦別姓というテーマにおいて、思考停止の状態にしておきたくないって。もちろん、とても考えている人、感じている人はいるけど、自分とは無関係な問題って思っている人も、きっといるだろうからって。」
鎌田「生活者が選択的夫婦別姓について考える、きっかけを作りたいってことでしたよね。」
西山「私には関係のない問題、って思われるのが一番避けたいところでしたよね。」
鎌田「でも、気をつけないと意図していない誰かを傷つけることになるかもしれない。だから、デザインにすごい助けられましたよ。」
西山「…嬉しい!」
「結婚相手」を、
自分で選べない時代が、あった
「夫婦別姓」を、
自由に選べない時代が、あっ
(画像は渋谷に掲載した屋外広告のグラフィック)
作りたいのは「選択的夫婦別姓」を考えるきっかけ。
吉田「堅苦しい感じにならなかったのは、よかった。あった、の『た』を婚姻届で隠すというアイデアは、鎌田さんからでしたね。」
鎌田「正直、違憲って判決が出るかもしれないなって思っていましたからね。」
この広告が掲出された後、最高裁判所大法廷の家事審判で、夫婦同姓を定めた民法などの規定が、憲法第24条の「婚姻の自由」に違反するかどうか、の判決が出ることになっていた。
吉田「追加提案として、婚姻届で隠していた『た』を隠さないバージョンも作って、屋外広告を差し替える、っていうアイデアもあったくらいですからね。」
西山「ただ、自分たちが賛成とか反対とかっていうのは、広告に反映しないようにしていましたよね。」
吉田「そうだね。実際、選択的夫婦別姓に反対している人もいて、その人たちとも考えたいとは思っていたしね。広告クリエイターとして、意思を持つべきかっていうのは、今後も広く議論されるテーマかもしれないな、とは思った。」
・・・
鎌田「まず賛成とか反対の前に、勉強したよね。知識量を増やした。」
吉田「婚姻について勉強することは、家制度のことを勉強することにつながっていきましたからね。男女共同参画担当相の丸川さんとか、元男女共同参画担当相の高市さんが…自民党の国会議員有志も含まれているのかな…埼玉県議会議長らに送った、選択的夫婦別姓の反対を求める文書。あれをみんなで読んだりとか。」
西山「言葉が正しいかわからないですけど、風刺的なコピーが出来たのは…どっちがどう、とかではなく、今の状態を正しくコピー化しようとしている感じがしたんですよね。」
鎌田「風刺的っていうのは、フラットって言い換えてもいいかもしれない。今を如何にパツッと切り取るか。」
(画像は表参道 山陽堂書店に掲載頂いた屋外広告)
SDGsをテーマにする広告の作り方を、つくりたい。
西山「どんな方にモデルをお願いするか、も結構考えましたよね。」
吉田「そうだね。普段からSPURの誌面を担当されているフォトグラファーの方と、スタイリストの方とやらせていただいて。広告の作り方とは違う感じが、コラボ感があって、それはそれで面白かったよね。」
西山「SPUR読者の人に見える人がいいねって。そこをすごく意識しましたね。」
鎌田「実際、起用された方、本当に素敵な人でしたよね。」
吉田「ただ、制作が順調だったかというと、必ずしもそうじゃないですよね。」
鎌田「うん、ギリギリでコピー修正しているもんね。」
西山「焦りましたよね〜!こんなギリギリで変えて大丈夫かな、って。」
吉田「ある日、クライアントの担当者の方と話をしていて、懸念が出たんですよね…。」
・・・
鎌田「婚姻の話だけどね、LGBTQ+の人から見たらどうかな、という懸念だね。」
西山「結果、コピーをアップデートすることになりましたね。」
吉田「きちんとLGBTQ+の当事者の方、有識者の方にチェックしていただけた。ああいう作り方は、今後も行っていきたいと思いましたね。」
「広告を、ちゃんとつくる。」それは変わらないから。
吉田「これからの時代、アイデアを思いつくのと同じくらい、リスクを思いつく力も求められると思いますね。」
鎌田「本当そうね。想起できないリスクはある。だから、向き合い続けるしかないね。」
吉田「コピーが変わることに結構、西山は感情的になっていたもんね。」
西山「鎌田さんの納得のいかない修正が生まれたら、嫌だなって思って…」
鎌田「でもあれで、大好き!って思ったよ。あんなにコピーに気持ち入れてくれるアートディレクターの人って、多くないからね。」
・・・
吉田「そもそもクリエイティブは、揉むことっていうか、色んな角度から検証したり、出来上がったものを見つめることも、大事ですよね。鎌田さんから学んでいることです。」
鎌田「えっ?俺?」
吉田「鎌田さんと仕事すると、最初コピー書いた時って、大体…鎌田さんの事務所に呼ばれるんですよね。で、事務所にいくと、A4の紙が束になっていて…で、それを一枚一枚、鎌田さんのいい声で、じっくり読み上げられていく。いやいや、もうちょっと絞っておいてよ、って思うけど、全部見終わった時には、うーん、確かに俺も絞れないなーって。嬉しい悲鳴をあげていますよ。」
鎌田「絞っているつもりでも、絞りきれない時は、相談って意味で全部見せちゃったりするよ。でも、そんなに多いって思ったことはなかったなぁ。」
吉田「毎回、楽しいですよ。コピーを見にいくのが!」
・・・
西山「これからも、続きますからね!『#ワタシつづけるSPUR』のシリーズ」
鎌田「そうですね。2ヶ月続けて『生理』についての号でしたね。」
吉田「2号とも、本当に素敵な、強いコピーを書いていただきました。」
西山「表参道の山陽堂書店に屋外広告として掲載されるので、ぜひ直接見て欲しいですね。」
吉田「難しい場合は、SPUR.JPのサイトでも見られるよね。」
西山「やっぱり、見てもらえると嬉しいですからね。」
・・・
鎌田「選択的夫婦別姓の広告についても、Twitterとかで声が上がっていて嬉しかったね。」
西山「嬉しかったですよね。直接見てくれた人の感想って、やっぱりグッと来ます。」
吉田「こういうオーガニックの広がりって、嬉しかったですね。お会いしたことないけど、直接感謝を伝えたいくらいですよ。」
鎌田「これからも、SPURさんと一緒に、様々なテーマにアプローチしていきたいですね。」
吉田「頑張っていきましょう。一人でも多くの人が、ワタシつづけられるように。」
西山「頑張りますー!ありがとうございました。」
鎌田「ありがとうございました。」
吉田「自分たちの仕事を語るって大事かもしれないですね。また、やりましょう!楽しかったです。ありがとうございました。」
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