デューンをIMAXで観るべきなのか?
結論から書きます。
通常版とIMAXで差はあります。
しかしIMAXは《絶対に必要な要素ではない》です。
必要ないとは書きましたが、IMAXじゃないと絶対に味わえないポイントがあるのもまた事実です。ただしそれは意味さえわかってしまえば、映画全体に対しては取るに足らないものだと個人的には思います。この記事後半ではそちらを説明します。
これを読めばIMAXシアターが近隣にない人でも、IMAXで観覧した気分になれるかも?(笑)
▼IMAXと通常版のちがい:
デューンは映画館を選ぶときに悩ましい作品です。
本作には3つのバージョンがありまして…
①通常版
②IMAX版
③IMAXレーザーGT版
このように③IMAXレーザーGT版では①通常盤に比べて40%も画面が大きくなります。それぞれの画面サイズは(横:縦)で以下のように表せます。横の数字が大きくなるほど、横に長くなります。
①通常版(2.39:1)
②IMAX版(1.90:1)
③IMAXレーザーGT版(1.43:1)
伝統的にはアメリカ映画(特に大作映画)は2.39が多くて、日本映画は1.90が多いです。ただし2010年ごろからIMAXが流行したことで、アメリカ映画でも大型娯楽作品では1.90を採用する作品が増えてきました。
おそらく1.90が一番コスパが良いのでしょう。1.90で映画を作ればIMAX劇場で興行をかけて追加料金を取ることができます。
なぜ1.43にしないかというと、1.43でIMAX上映できる劇場はアメリカでも少数だからです。IMAXレーザーGTのGTはGrand Theatre(グランドシアター)の頭文字で、つまりアメリカでも希少なプレミアム巨大劇場限定となっています。これでは広く興行するのに不向きです。
さて、掲題のデューンは1.43を採用しているので、本来は③IMAXレーザーGTの劇場で観覧したいところです。しかしこれを備えた映画館は日本に2箇所(大阪エキスポシティ、gdcs池袋のみ)しかありません。
では都心部から離れた地方在住者は遠征してでも大阪か東京の映画館で観なければ、デューンを不十分にしか観られないのでしょうか?
私はそうは考えません。
▼IMAXじゃないと全部見えないのはウソ:
IMAXで画面が広がる魅力を伝えるために、よく以下のような比較画像が使われます。
この図を見ると「IMAXで観ないと全てを味わえない」と不安に思われる方が多いかもしれませんが、そんなことはありません!
なぜなら、映画は活動写真(カツドウシャシン)だからです。
映画にはティルトいう撮影技法があります。要するにカメラをスーッと動かせば、見せたいものを全部見せることができます。
例えば、上の画像なら足元から上空までゆっくりカメラを動かせば、通常スクリーンでも全てを見せることができるので、観客に何か見えないものが生じるということは回避できます。
別のシーンですが、Twitterでわかりやすい動画を見つけたので貼っておきます。
もちろん1.43の方が、好きな時に好きな場所を見れるという長所はありますが、あくまでオマケみたいなものです。
むしろ監督が「今見るべき」と考えている場所に視線を動かしてくれるので、通常版の方が観やすいと考えることもできます。(笑)
映画作品としてのデューンを鑑賞したいなら、通常版でもちゃんとスクリーンから必要な情報(監督が伝えたいもの)はゲットできるので、安心してください。
しかし実はこれ以外に、どうしても越えられないIMAXだけの強みがあるので、最後にそちらを説明します。
▼IMAXじゃないと絶対に気づけないポイント:
デューン(パート1)をIMAXで観ないと絶対に気づけないポイントが一つだけあります。
それは欧州的(キリスト教的)世界観は縦横比2.39で、砂漠的(イスラム教的)世界観は縦横比1.43(または1.90)で描き分けられていることです。
拾い物の画像ですが、同じ座席からの写真があったので引用します。
青い世界は2.39の横長、砂漠の世界は1.43のほぼ正方形になっていることが判りますよね。
これは文字通り映画の《枠を越えた》部分の現象なので、IMAXで観覧しなければ絶対に気づけないポイントでしょう。
本作の裏テーマと言いますか、ストーリーの下敷きや根底にあるのは《世界史におけるヨーロッパと中東・アフリカ・インドとの出会い》です。寒冷で水が豊かな地域の貴族が、灼熱の大地に香辛料(スパイス)を求めて統治を拡大するのは、大航海時代や20世紀前半までの植民地政策そのものです。
惑星デューンの砂漠民ことフレメンはヨーロッパ以外の全ての地域の要素を併せ持っていますが、一番大きいのは中東のイスラム教国家の文化様式です。
本作(パート1)は、何世代も続いた帝国の慣例を破って砂漠民フレメンとの同盟(と帝国の打破)を謀る野心家の貴族アトレイデス公爵の息子ポールが主人公であり、そこに敵対勢力ハルコネン公爵の陰謀も加わり、大きな転換点に巻き込まれて、主人公が欧州的な世界から追放されてフレメンに同化するまでを描いた物語です。
キリスト教のイケメン貴族ポールが、亡命してイスラム教徒になる!って感じです。
この変化をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は世界観の違いを画面サイズで表現したのです。
このため映画の序盤は2.39が続きますが、中盤以降で主人公が異世界に飛び込んだ後はほぼ全編1.43になります。
たとえば序盤での効果的に使われ方として、陰鬱な地域に暮らす主人公ポールが予知夢で砂漠や女を見る時だけ画面が大きく広がります。
このように画面サイズで異世界であることを示しているのですが、同時に観客は物理的なパワーで異世界のインパクトを実感することができます。
暗くて狭苦しい横長の窓から飛び出して、天井いっぱいまで広がる大画面に映しされたゼンデイヤの美しい顔を見て、なんて開放感があり不思議で魅力的な世界なんだと思わせる効果もあるでしょう。
逆もまた然りで、主人公が砂漠に飛び込んだ後はずっと1.43の大迫力のビジュアルが続くのですが、アトレイデス家とハルコネン家の当主対決のシーンでは1.43からギュッと締まって再び2.39に戻されます。この場面は欧州的な貴族の物語(アトレイデス家VSハルコネン家)だからです。
それまでの画のパワーで押さえつけてくる砂漠的演出から一転して、心理的に追い詰めるような緊張感がみなぎるのはまさに陰鬱な欧州的演出です。普通のIMAX(1.90)でもこの違いを感じることはできますが、フルサイズIMAX(1.43)で観るとより一層です。なんなら大袈裟すぎて、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の意図がちょっと過剰演出になっているのではとニヤリとしてしまいました。
▼デューン2はIMAXで観るべきか(推測):
2024年2月にデューン1のIMAXリバイバル上映でパート2の『特別映像』が付いていました。
砂漠の中で主人公が砂虫を乗りこなす試練を受ける場面で、パート1と比較しても臨場感と没入感が増した大迫力の映像でした。
そもそも二部作の構想でしたが、三部作に路線変更したらしく、それだけパート1よりも時間を贅沢に使えるようになった効果かもしれません。
そこで気づいたのですが、パート2では画面サイズが1.90と1.43でした。
パート1が2.39と1.43の使い分けだったのに対して、パート2では基本的に1.90で上映されて、一部のシーンのみ1.43になるものだと思われます。だから《砂漠だったらなんでも1.43にしていたパート1》と異なり、《上下に広げたいシーンだけ1.43を利用するパート2》に方針変更したようですね。
1.43に広がるシーンでは、ほぼ正方形に見えるスクリーンを最大限に活用した構図になっていました。ただ広がるだけじゃなくて、そのフルサイズならではの縦横比を活かした構図になっていたのです。
観客にとって見所が把握しやすい作りになったと言えるかもしれません。
逆にGTではないIMAXシアターでは、画面サイズがずっと1.90で固定されることになります。パート1では2.39で縮むという変化が確認できたのですが、パート2ではこれが無くなっている可能性があります。
なので、出来る限り1.43のIMAXレーザーGTのスクリーンでご覧になることを私は推奨します。
地方在住者もぜひ春の旅行に合わせるなど一考の価値はありますよ。
▼追記(2024年3月16日時点で思うこと):
予想の時点で、
と書きましたが、その通りでした。
パート2は少し切り替えが多くて気が散ってしまう部分が正直ありました。
IMAX>ドルビーシネマ>IMAXレーザーGT(池袋、吹田の2館のみ)
というのが私の観賞後の結論となります。
(了)