時間がない人のためのオッペンハイマー予習【最低限の知識】
映画『オッペンハイマー』は歴史上の事実をもとに3時間に色々詰め込んだ重厚な作品です。登場人物と情報量がものすごく多いので、ある程度は事前に知っておいた方が良いです。
このnoteでは一番核心となる部分は記載しませんが、映画を初見時でも楽しめるように、最低限の映画の構造を紹介します。本当に何も事前知識を入れたくない人はここでブラウザバックしてください。(高評価を押してブックマークだけお願いします:笑)
▼二部構成:
この映画はカラーとモノクロの《二部構成》です。
カラーがオッペンハイマー(演キリアン・マーフィー)の裁判です。
モノクロがストローズ(演ロバート・ダウニー・Jr)の裁判です。
オッペンハイマーの裁判は1954年。
ストローズの裁判は1959年。
しかもこの2つの裁判を映画では同時に描きます。
それぞれの裁判で「あの時はどうだったの?」と質問されて、それぞれが「ええっと、それはね…」と過去を振り返る形で回答します。よって、カラーとモノクロでそれぞれ回想シーンが挟まって、タイムラインがぐちゃぐちゃに入り組んで複雑になります。
このため《今はどの時期の話をしてるのか》を大まかに把握しておかないと、すぐに迷子になるでしょう。…まあクリストファー・ノーラン監督作品と言えば時系列をいじるのが御家芸ですからね。(笑)
これまでのノーラン作品と大きく異なる点としては、本作では時間が細切れに描かれて、同じ時間と場面を視点を変えてもう一度見せることもよくあります。視点を変えるという意味では『ダンケルク』に少し似ていますが、本作では時間軸を何度も行ったり来たりするので『メメント』とも似た感触があります。
▼歴史的背景:
さて、映画で迷子にならないための最低限の情報をまとめます。
あとは、二つの裁判の内容と結果だけ基礎知識があれば大丈夫でしょう。
もう少し解説を続けます。
▼①オッペンハイマーの裁判:
1954年。
オッペンハイマーは、国家反逆罪を問われます。
オッペンハイマーは、米国の核開発の機密情報を、ロシアに流出していたのではないかと尋問されます。
というのも、オッペンハイマーの弟が共産党員で、妻も元共産党員で、元恋人も共産党員で、子守りを頼んだ親友も共産党員だったからです。
特に、この親友は実際にロシアの工作員で1950年にFBIに捜査されてフランスに事実上追放されました。これをシェバリエ事件と言います。
1954年当時のアメリカはロシアとの核開発競争の真っ只中で《アカ狩り》が盛んでした。共産党と深いつながりのあるオッペンハイマーさん大ピンチ!
それでオッペンハイマーは、1920年代から1954年に至るまでの行動を、尋問されて回想する。これが映画の大半を占める原爆開発までの部分です。
史実なので裁判の結果を書きます:オッペンハイマーは《ロシアの手先であると証明されなかったが、完全に潔白とも証明できなかった》ので、ここで公職追放されて歴史の表舞台から去りました。
なので、この尋問でどうやって彼が追い込まれていくかを見るのが映画の醍醐味となります。
▼②ストローズの裁判:
1959年。
ストローズは、人間性を審査されます。
ストローズは米国商務長官に任命される直前で、その役職に相応しい人物なのか各分野の有識者を招いた公聴会で審査されています。
ここでオッペンハイマーとの関係が議題になります。
というのも、ストローズはAEC(原子力委員会)の長官だった1947年に、オッペンハイマーをAEC顧問にしていたからです。後の1954年に赤狩りで公職追放された人物を、顧問に任命した責任を問われているのです。
史実なので裁判の結果を書きます:ストローズは《政治的に狡猾で汚い人物》と判断されて、米国商務長官の審査を落ちました。
では、誰がストローズの人柄を暴露した(証言者)のか、誰がストローズの任命を拒否した(審査員)のか、あたりが映画の醍醐味となっています。
ちなみに、この審査結果の影響もあったのかアメリカはオッペンハイマー追放を過ちだったと認めて、1963年に高名な物理学の賞を授与して名誉回復を図りました。
▼時系列を整理(豪華俳優ガイド):
もう少し詳しく書いておきますね。
鑑賞前でしたら人名は覚えなくても結構です。観賞後に読み返すのが丁度良いと塩梅だと思います。
▼オッペンハイマーの女性関係:
この映画ではオッペンハイマーに関わる女性もストーリーでの重要なファクターになっています。
ただし、これらは事前に知識がなくても簡単に理解できると思ったので私は敢えて言及しません。男と女の話なんて、誰でもすぐわかるでしょう。
それと、この時代の女性は歴史の表舞台にはあまり名前が出てこないので、年表にまとめると、どうしてもこんな書き方になってしまいましたね。
▼IMAXで観るべきか(追記):
※2024年3月20日追記
誤解を恐れず書くと、オッペンハイマーは最近のノーラン監督作品の中では最もIMAXで観なくても良い映画です。理由は、インターステラーやテネットやダンケルクと比べればずっと落ち着いた作品だからです。
もちろんIMAXで観た方が迫力はアップしますよ!爆発はもちろん、人物のクローズアップでもバカデカイとそれだけで魅力がアップします。でもそれはある意味、どんな映画でも当たり前のことですから。(苦笑)
でも劇場で観るのは必須です。この映画は音響が命なので。99.99%の国民は自宅では再現不可能のサウンドです。ぜひ映画館へ!
IMAXの厳しいチケット争奪戦に負けて末席で観るくらいなら、少し空いてる他の劇場の観やすい席で観るのは十分に有意義な選択肢だと思います。もちろん好みの差はありますけど、映画館はやっぱりセンターが一番観やすいことが多いです。あと、あまり壁に近い席はスピーカーが近すぎて危険です!(笑)
もし関東にお住まいでしたら、109シネマズプレミアム新宿の35mmアナログ上映の方がむしろIMAXよりオススメかもしれません。本作には天才オッペンハイマーだけに見えている量子世界のモデルが特撮で描かれているのですが、これが完全にアナログ撮影というクレイジーな作りになっています。つまりデジタルで作られたCGよりも遥かに情報量の多いアナログ35mmの方がリッチな画作りになっていることが予想されます。
私は昨年11月に豪州メルボルンでアナログIMAXを観てきたキチガイですが、今年3月にグラシネ池袋の4KレーザーIMAXで観た予告では、画面の情報量は少なからず失われており、質感が有意に異なると感じました。なので、画質にこだわる諸氏にはぜひ35mm上映を検討していただければと思います。(特に視力が高い人)
上述の繰り返しになりますが、画質だけでなく音響も重要です。本作品は音響が大変素晴らしい(恐ろしい)出来になっていますので、是非とも映画館での鑑賞を推奨します。IMAXは箱が大きいので必然的に音も大きくなります。あとはDolbyCinema / DolbyATMOSも音響に定評がありますので、良い選択肢になるでしょう。
(追記、ここまで)
はい、これでもう映画『オッペンハイマー』を観て迷子になることはありません!
安心して映画館に行ってらっしゃい👋
PS
時間がある人や、もっと詳細なネタバレを読みたい方、あるいはもう観たけどもっと理解を深めたい方は、以下の記事もどうぞ。かなり詳しく書いてます。原作伝記本を読みたい気持ちはあるが、そこまで時間を割けない人にもオススメです。リンクが表示されない場合はリーダーを解除してPCモードで当ページを開き直してください。
(了)