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【野獣死すべし】を三幕構成で読み解く

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

主な登場人物
伊達(松田優作):主人公。野獣のような男。
令子(小林麻美):クラシック音楽愛好家。伊達と偶然知り合う。
柏木(室田日出男):岡田警部補殺人事件を追う刑事。
真田(鹿賀丈史):伊達にスカウトされる男。


一幕

1)
ある夜、警視庁捜査一課の岡田警部補が殺害され、拳銃が奪われた。数日後、秘密賭博場が襲われ、暴力団三人が射殺され、テラ銭三千万円が奪われた。使われた拳銃は奪われたものだった。一連の行動を起こした男の名は、伊達邦彦。昼は普通のサラリーマンだが、なぜか巧みな射撃術と冷徹無比な頭脳を持ち、野獣のような狂気を隠して生きる男。

2)
岡田警部補の部下だった柏木は、執念深く事件を追い、長身、ガッチリとし体の男という容疑者像を割り出した。そして、伊達の尾行を始める。柏木の尾行をよそに、伊達はコンサート会場で華田令子に接近したり、優雅な日々を送る。

二幕

3)
暫くして、伊達は次の行動に移った。高級宝石店の店員を支払いをするからと銀行に呼び出した。店員が預金カウンターに近づくと、伊達は係の男に、前にいる男に金を渡せと電話をした。係員の防犯の合言葉で、何も知らない宝石店の男は、組み伏せられ、一分三十秒後にパトカーが到着した。これは銀行の防犯体勢を調べる伊達の実験だ。

4)
大学の同窓会に出席した伊達は、そこで、自分と同じ野獣の血を感じた真田と出会い、彼を仲間に入れる。伊豆山中での拳銃の練習。真田はアッという間に腕を上げた。同行した恋人、雪絵が邪魔になった真田は、伊達に促され動く標的として、彼女に銃口を向けた。

5)
二人は銀行襲撃を決行する。伊達は銀行に居合わせた令子も射殺する。車をすぐに乗り捨てて、別行動で電車で伊豆へと逃亡を図る伊達と真田。しかしこのタイミングで伊達が柏木に見つかって付き纏われる。伊達は咄嗟の判断で東北方面への夜行列車に乗車するが、柏木も切符を買って同じ列車に乗る。

6)
深夜になって乗客がほとんど掃けた電車内で、柏木は意を決して伊達に対峙する。通信社のカメラマンとして、アンゴラ、レバノン、ウガンダなど血と硝煙の戦場を渡り歩いた経験がお前を狂わせたのだろうと説き、拳銃を向けて自首を迫る。しかし、背後から忍び寄った真田がショットガンを柏木の首に当てる。伊達と真田は柏木を射殺し、巻き添えで何人かの乗客も殺して、闇夜を疾走する電車から飛び降りる。

三幕

7)
伊達と真田は洞窟に隠れる。洞窟内で青姦していた男女を見つけると、真田は男を殺して女を強姦する。最初は抵抗していた女はぐったりして動かなくなる。それを眺めていた伊達は、いつかの戦地で地元住民を強姦していた国もわからない傭兵を思い出し、現実と記憶の区別がつかなくなり真田を射殺する。

8)
クラシックコンサート。満員だが一つだけ空席。静寂。ふと目が覚める伊達。先程の空席に座っていたが寝過ごしたらしい。誰も居なくなった会場から屋外に出る。日差しが眩しい。その時、銃声らしきものが響いて伊達は倒れる。

FIN

1980年製作/119分/日本
配給:東映
劇場公開日:1980年10月4日

▼解説・感想:

◆構成

ハリウッド式三幕構成で概ね説明できます。

この映画の目的は、伊達は逃げ切ること。柏木は逮捕すること。一幕でそれを示します。この映画の中心にあるのは伊達と柏木の対決です。

続く二幕では、伊達と同年齢で社会に不満を抱えていた真田を巻き込みつつ次の襲撃計画をビルドアップして、実際に決行するも柏木との直接対決になり、柏木が死んで、伊達はさらに窮地に追い込まれます。

そして三幕では、真田による強姦を通して伊達を野獣の道に追い込んだ原因がはっきりと描かれて、そのまま伊達の破滅で幕を閉じます。松田優作の強烈な演技力で突飛な構成を押し切ります。

最後の8場で描かれたコンサート会場は現実ではなくて伊達が見た夢か、もしくは伊達の崩壊していく内面(精神世界)を描いたものだと思われます。エヴァTV版最終話やシン・エヴァに近いものがありますね。

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

◆野獣とは何か

この映画では、《人間でなくなることを『野獣』と表現している》のだと思います。戦争を見てきたことで、伊達の人間は壊れてしまいました。それ単体で戦争反対というメッセージになっています。

そこに加えて、真田のように日本に居ても社会への不満を抱えていれば、伊達のような戦争悪を持ち帰ってきた人間に触発されて人道を踏み外していく物語が描かれます。戦争の悪は伝播する、というメッセージですね。

真田のキャラクターは興味深いです。伊達と同世代ですが、名門大学を卒業して一流企業で働く伊達と学友達と異なり、真田は30歳になるのにレストランの給仕を務める貧乏人です。伊達の同級生は見るからに高収入で、真田と喧嘩しそうになります。現代社会にも見られる格差問題で、こうした鬱欲が破壊行動につながる危うさが描かれています。

原作になった『野獣死すべし』は1958年に発表された、大藪春彦のデビュー作となるハードボイルド中編小説。この作品は3回目の映画化で、1970年代にアメリカがベトナム戦争の後遺症とも呼べる社会情勢に苦しんでいたのを強く反映した作風だと思います。二幕から三幕にかけて伊達がアメリカ兵の服を着ることからもその意向は窺えます。

◆松田優作のカリスマ

月並みな言葉になってしまいますが、松田優作はすごいです。

2020年代から見ると、そもそも現実社会の異常者がSNSで可視化されやすいですし、窪塚洋介や森山未來など猟奇的な演技も巧い、個性的な映画俳優が何十人と知れ渡っているので、映画冒頭で松田優作が自宅でクラシック音楽を聴いて悦に浸ったり拳銃を自身に押し当てたりする場面などは少し滑稽に見えてしまうかもしれません。

しかし、映画が進むにつれて、彼の不思議な魅力(カリスマという他に言葉が見つからない)に次第に引き込まれて、映画後半ではただただ圧倒される感覚を味わえます。

松田龍平と松田翔太も良い俳優ですが、せっかくこの男のDNAを受け継いでいるのだから、ここまで振り切った演技もして欲しいなァと思ってしまいました。まあ、これは脚本や演出にもよるので俳優だけに責任を押し付けるのは筋違いかもしれませんが。

◆余談

現在のツイッタランドで「野獣」と言えば、ほぼ野獣先輩のことになってしまうのですかね?

…だとしたら、かなり勿体無いですね。映画タイトルだけで「どうせふざけた内容だろ」と舐めてかかったり、簡単にスルーしてしまいそうで。松田優作の演技が凄まじく、現代にも通じる社会問題を描いてるので、かなりオススメしたい作品でした。

(了)

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まいるず
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