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映画『永遠の1分。』の感想〜東日本大震災からもうすぐ11年〜
3.11に関する映画です。
肯定的なことも否定的なことも書くので、Twitterでは不向きと思いnoteに書くことにします。
私は否定的な意見も書きますが、この映画自体は作られる意味があったし、作られて公開されたのは良かったと思っています。またできるだけ多くの人に観てもらいたいと感じます。ただゴリゴリのエンタメ作品ではないので、簡単にリコメンドするのも難しいとは正直思います。
![](https://assets.st-note.com/img/1646472765781-WTWOf9hbvz.png?width=1200)
鑑賞前の気持ちとしては、米国人が3.11をコメディにする!という奇抜すぎるくらいに攻めたプロットで、しかしあれから11年が経っているのだからそろそろ大丈夫でしょうという気もしつつ、脚本が上田慎一郎で、監督はカメ止めの撮影監督だった方ということで、これはひょっとしたらとんでもないモンスター映画が生まれたんじゃないか、という期待を抱かせるものでした。
本作はテーマがかなり攻めているし、いわゆる邦画のマーケティング的には王道ではない(つまり出演者の知名度で数字を稼ぐタイプの映画ではない)ので、あまり巨大なヒットになる可能性は低いかもしれませんが、仕上がった映像の綺麗さや広告にかけられていそうな費用から推測すると、東日本大震災を正面から扱う映画としては過去最大級の予算をかけた作品だと思われます(『シン・ゴジラ』や『君の名は。』などメタファーとして扱っているものを除く)ので、ひょっとしたらひょっとするかも、と密かに超大ヒット(社会現象クラスのバズり)を期待している作品です。
改めてタイトルを見ると『永遠のゼロ』や『君の名は。』のパロディみたいになっていて、これは何か伏線というかサインになっているんじゃないかなー。
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まず冒頭の10分間が非常に良かったと思います。
私はこの動画をYouTubeで観て、映画館に行こうと決めました。
これを観て絶対にいま映画館に行こうと思った。公開は2022年だけど撮影は2019年だったらしく、311と現在だけでなくそこにコロナ禍を挟んだ3重構造の作品になっている。動画は某会社の社長の個人アカウントでアップされており、何か意志を感じる。
— まいるず James Miles ⚒️ (@james_miles_jp) March 4, 2022
永遠の1分。冒頭10分映像 https://t.co/azbvJW2tsz
渋谷での街頭インタビューはとてもリアルでした。本当に一般の方なのか、実は映画のために雇った俳優さんなのかは判別できませんでしたが、それでも東京に住んでいる私には十分にリアルで映画の世界に入り込むことができました。
Twitterでも書きましたが、映画の舞台が2019年ということも響きました。アフターコロナになりかけ(少なくともニューライフは定着)ている2022年現在にビフォアコロナの物語を描くことで、3.11にそこまで当事者意識がなかった人達にも、この映画が描いている「失われたもの」への喪失感を共感することができます。
被災地の復興状況を肌で感じ取ったスティーブがニンジャ映画ではなくてドキュメンタリーを作ると決意して、いよいよ映画館で初めて観る展開に入っていきます。
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以降は #ネタバレ を含みますのでご注意ください。
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現地のリアルを見せてくれた
水族館での不思議な演劇が良かったです。本当にああいう活動をしていたんだろうなと十分に思えるものでしたし、流石に3.11の半年後から活動しているというのは本当に事実なのか眉唾な感じはしましたが、それでも与えられた環境の中で、なんとか明るく生きて行こうとする人達がいたことはその通りだと思うので、非常に共感できたし泣けました。
区役所のような場所で映像を見せながら解説をされていた女性職員は、おそらくリアルで普段からあの仕事をされているんじゃないでしょうか。彼女の言葉や表情にはそれだけの重みがありました。
「なぜ被災者はこの土地にまた住むのでしょうか?」
「きっと忘れてしまうからだと思います」
このやりとりは現場ならではのリアルな言葉だと思いました。
凡百の映画がお決まりで掲げるお題目「忘れない」ではなくて、あえて「忘れる」を選ぶという現地の人の言葉は重いです。そうだ、地震に限らず私たちは何かとても辛い出来事を経験した時には、意識的に「考えない」ようにすることで普通の日常生活に戻れるのでした。大切な家族や友人または生活基盤を失った人達が、それを忘れることができるようになるまでにどれだけの時間と決意が必要だったのか、慮るだけで心が締め付けられます。
3.11はまだ続いている。
この事実を思い返すだけでも、東北にいない観客にも実感として突きつけるだけでも、この映画が作られた意味があると言えるでしょう。
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スティーブの心情描写が説明不足だと感じた
映画全体を観た上で物語の中心をまとめると、こうです。
ロサンゼルスの大地震(1994年のノースリッジ地震と思われるが特に劇中での説明はない;25年も前なので年齢的に無理があるので曖昧にしてる?)で配偶者を失ったスティーブは、しばらくバックパッカーになって世界を旅して震災後の日本にも来ていて、そのあとは米国でコメディ映画のディレクターとして仕事に打ち込むことで自身の不幸を忘れることに徹していたが、今回3.11の地震を取材することになって改めて見直すことになった。
この、いくらでも感動的に持っていけそうなラインが、映画の中でほぼ機能してないことは、この映画が雑だった点だと言えるでしょう。シンプルに説明不足だし、雑すぎると思います。
東北の最初の夜に旅館でスティーブが「やっぱりニンジャは止めて地震で行くわ」って言った瞬間にボブは「でもお前は…」って途中まで言って止めたのがおそらく「お前は地震で配偶者を失ったじゃないか。あの悲しみに向き合うことになるけど良いのか」みたいなことを言おうとしていたんだろうなーと後になって思い出すことはできるのですが、これだって私が映画慣れしていて「これは伏線だから気をつけて観よう」と意識していたから繋がっただけです。映画の後半で良いから、それをボブに言わせなさいよ。米国に帰る直前に「お前は忘れると決意して上手くやってこれたんだ、だからあまり深入りするなよ」とか、もう一度日本に来た時にそれっぽいことを言わせるべきだったと思います。
「くそ、どこの制作会社も相手にしてくれない」
「スティーブ、もうここらへんで止めにしないか」
「ダメだ!僕は作らなくちゃいけないんだ」
「あのことをまだ気にしているのか」
「何が言いたいんだ」
「君は彼女への罪悪感からこの映画を作っているんだ」
「帰ってくれ。ここから先は僕一人でやる」
「でも仕事に打ち込んで忘れることが生きる術だと言ったのは君だぞ」
みたいなドラマチックな会話ができたと思うんですけどねー。ここまで臭い台詞の応酬じゃなくても良いので、もう少し説明が欲しかったです。
忘れることに徹したスティーブ(+現地で案内係をやっている女性)と、ずっと逃げていたけどもう一度見つめ直すことを決意したレイコ、という両者の態度が180度の反対であることや、そのどちらも「正しい」ということもまたこの映画のメッセージだったと私は解釈しています。こちらもエンタメ的にするために、もう少し丁寧に説明されて良かったんじゃないかという思いが拭えません。
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後半の演出の意図があまり掴めなかった
映画の雲行きが怪しくなってきたのは、東北地方で聞き取り調査をしている場面くらいからです。ワサビのくだりとか、首吊り未遂のくだりとかです。事実なのか虚構なのか、素人なのか俳優なのか、観客にはどちらだと思わせたいのか判別できない俳優の演技が続き、監督脚本が何を狙って演出しているのか私には読み取れませんでした。
ここはどういうモードで観てほしかったのかしら。全編見終わった今でも謎のままです。
クノイチの時にカメラがよる演出とか、身内ネタでしかないハゲいじりとか、寝ぼけてオシッコする子供とか、撮影現場で食べ物を粗末にするイタズラとか、あまり素直に笑えないギャグが多くて困惑しました。
あとはしょうもない嘘が多かった印象を受けました。一番は東京のハンバーガーが小さいというくだりですね。いや、分かるんですよ、飛行機の中でバーガー食いたいと言っていたのと、その後に出てくる特大ライスボールの振りになっていることは。でも、バンズに対してあそこまで極小なパティを挟んでるバーガーは流石に日本でも無いですぜ。全編通して英語字幕が出ていて海外を意識した作りになっていましたが、向こうの人に誤解されそうで嫌でした。何より悪手だったのは、こういうナンセンスな虚構を挟んでいることで、その後の映画の展開や、劇中で作られる映画に出てくるエピソードも、全部フェイクなのかなと疑わせる原因になっていることです。
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他にも細々とした点がいろいろ気になった
最後まで謝罪の一言もしないクソ編集者が胸糞悪かったです。今更、元部下の女性に言葉をかけることはできなくても、たとえば『空白』のラストで古田新太が言っていたような台詞は何らかの形であっても良かったでしょう。
スティーブは会社を辞めて、自費で映画を制作することになりますが、どんだけ貯金してたんやってくらい豪華な撮影機材とスタッフでした。
レイコの曲は、アーティスト本人に伝えないで曲を使用した?とも取れる描写でした。あれはどういう権利関係になっているんでしょうか。
そもそもレイコは11年ずっと新曲を書いてなかったのに、なぜ歌手として続けられたのでしょうか?あくまで飲食店の専属シンガーとして、ということ?日本のラジオでもかかるくらいだったのに?あ、あれはラジオで流れたのではなくて、夫がタクシーでかけてただけなのか。それをお客様にも聴かせるとか夫もちょっとメンヘラ的な部分がありますね。
オチがまさかのアフターコロナネタでした。なんかTwitterで先読みしすぎたみたいなことを書いて、ごめんなさい。笑。
こんな感じで細々とした点ではありますが、リアリティに欠けていて集中力を奪われると感じた点が多い印象は受けました。
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特大おにぎりのワザビ詰めだけはアウトな不謹慎
劇中のあらゆるヘンテコな要素は「この作品の個性」だと思って受け入れられるのですが、特大おにぎりの扱いだけは納得できません。でかすぎて笑っちゃうのが本来の姿であって、食べ物を粗末にするタイプの笑いに使うべきじゃなかったと思います。
特大ライスボールなんて、それが出てきただけで十分に面白いねって笑っておけばいいでしょう。それがワサビ入りで味噌汁を全部こぼしたり、ボブの場合は吐き出すときに暴れていたので砂埃が舞ってライスボールは砂だらけになってもう食べられるものではなくなっていると思います。ちょっとこのノリは私には無理でした。
ワサビ特盛りのお寿司って超からいけどギリギリ我慢して食べれるサイズじゃないですか。だから騙されて口に入れちゃえば、小さな子供とかでもない限り、泣きながらでも我慢して飲み込めると思うんです。「てめえばかやろう」って言いながらね。でもどんぶり2杯分もありそうな特大おにぎりを一口食べて、残りをほぼ丸ごと破棄するのは、なんか違うでしょう。
笑顔になってもらいたくて特大ライスボールを考案した蕎麦屋さんにも失礼じゃないですか?ワサビ入りにして大騒ぎして初めて笑える、みたいに描くのって。まあ、そもそも食料が不足してるときに特大ライスボールを作ったというエピソード自体にやや無理があるので、これすらもフィクションである可能性は高いのですが。
ここで私のココロは離れちゃいましたかね。その先もアタマでは理解できたし共感できたのですが。なんか一番些細な類のバイトテロを見せられた感じですね。べつに怒りが湧くとかネットで大炎上するようなものではないですが、不謹慎さに呆れてしまった状態にはなりました。
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音楽は素晴らしかった
レイコを演じたAwichさんの歌唱と曲はとても良かったと思います。これは素直に称賛できたポイントでした。映画に大きな説得力を与えていました。
エイウィッチと読むそうです。「とある魔女」って感じかしら。
本職はシンガーらしくYouTubeチャンネルをお持ちでしたのでリンクを貼っておきます。
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改めて、この映画は何だったのか?
この映画で私が一番気になったのは、スティーブの映画を観た人達が何も感想を言わないで帰っていくことでした。鑑賞中もリアクションが薄い人が多かったです。あれはガチで劇中映画を魅せて映画館でほとんど笑いが起きなかった、という記録映像なのでしょうか?だとしたら、カメ止めが映画館で異例の大爆笑を繰り広げていただけに、これはしんどい展開です。
ただ正直に申し上げて、あまり爆笑できるタイプの映画ではなかった、というのは私の個人的な感想だけではなくて、きっと客観的な事実なのだと思います。上手いのか下手なのか分からない俳優さん(わざと素人っぽくやっている可能性も大いにある)が身内ネタを話して盛り上がっているだけのように見えてしまったので。俳優さんの演技の間なのか編集のテンポなのか分かりませんが、あまり笑えない印象は受けました。
うーんこれは難しいところです。逆に、あえてリアルな質感を目指しているとして高く評価できるような気もします。
私もまだ結論が出せていません。奇しくも、それは今もまだ多くの人が結論を出せていない3.11に対する態度と同じような部分もあって、本当にメタ部分まで視線を上げるといろいろと考察できる映画だなとは感じます。
3.11のリアル:★★★
主人公の描写:★★
演出の意図 :★★
音楽の出来 :★★★★
いま見る意味:★★★★★
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ということで、映画として(エンタメとして)面白いのかどうかはよく分からない、しかし3.11を見つめ直す一つの素材としてはとても優秀な映画でした。一語でまとめるなら「フェイクドキュメンタリー風ムービー風ドキュメンタリー」って所かな。
了。
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