子供がツラクならないように読みました
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書籍「親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと」(島影真奈美)
東京時代に長く住んでいたマンションでは、夏になると毎朝5時前後に中年女性のヒステリックな金切り声が聞こえてきて、目が覚めたものだ。
「ママ、何やってんのよ! ホントにもう」などと明瞭に聞こえることもあったが、ほとんどは
「◎×¥$●&%#△?!」と意味不明な怒声だった。
夏の間は声の発信源が窓を開けていたから聞こえたのだろうが、おそらく一年中やっていたのだと思う。そのうちにエスカレートして、
「バカ、駄目だって言ってるだろ!」
などと男言葉になり、さらには
「$●&%#……早く死ねよ! ババア」
となって、果てはピシャっと人体のどこかを叩く音さえ聞こえるようになった。
老人虐待? いったいどこの部屋の人なのだろうと、同じマンションの友人──彼は私の2階上に住んでいた──に件(くだん)の怒号について知らないかと聞いてみたところ、彼の真上の住戸の人で、周囲で扱いに苦慮していると言う。
そこの人なら私も良く知っていた。以前、一緒に自治会の役員をやったことがあったからだ。当時、会合には必ずご夫婦(お二人とも70歳前後だったと思う)で出席されて、積極的に発言することはなかったものの、人の嫌がる仕事もいつもにこやかにやってくれていた。
その後何年か経つうちに、ご主人が亡くなられて、たしかその頃は奥様と娘さんで住まわれていると聞いていた。娘さんとは面識がなかったが、たまに奥様の乗った車いすを中年女性が押す姿をマンション内で見かけることがあったから、たぶんあの人が娘さんなのだろう。とてもあの怒声の主だとは思えない穏やかな感じの女性だった。その一方で、奥様の方はかつての笑顔は消え(私の顔も判別つかないようだったが…)、因業な顔つきに変わっていた。
その後も夏の早朝の怒号は何年か続いたが、ある頃から聞こえなくなった。たぶん、奥様が施設に入ったか、亡くなれたかのどちらかだと思う。
私が還暦を過ぎてから、同居していた娘と離れ、浜松で独居生活を始めたのは、ああなりたくなかったからだ。人生の最終期で、娘から疎まれるなんてまっぴらだ。娘も私が死んだあと、夢見が悪いに違いない。
でも、誰もがああなる可能性がある。いや、むしろ家族だからこそ、ああなるのだと思う。私の出した答えは子供たちに介護させないことである。
今後、私もどのような高齢期を過ごすのか予想もつかないから、その通りに行くかは分からない。だが、できる限り子供たちとは良い思い出のままで終わりたいと思っている。
さて、本書は参考になることもあるし、まるでならないこともある。親子間は千差万別だから仕方あるまい……。