今や春の虫の方が世界に期待されている。
真白な風雪に晒され続け肌は乾き果てた。瞼は凍り尽きて砂丘に憧れた。霊魂を潤すべき涙も、今や月の裏に行ってしまった。ここに残ったのは重い心臓だけ。空転を続ける思考。死んだことはない筈だから恐らく生きている筈だが、それとて信頼できる根拠もない。依拠すべき自信はこよりのように捻れて細く空間の隙間に納まっている。ここに残ったのは窮屈な心臓だけ。深閑響く森の奥、許されざる人間が許しを乞う。世界に許しを乞う。
生まれたから生きてしまいました
死ぬまでは生きるでしょう
詫びる言葉もございません
サヨナラ一つ出てこない。立ち尽くしたまま唯ぼんやりと霧雨に濡れていく。乾いた肌のひび割れをH2Oが滑り落ちる。