Junigatsu Yota
晴れ渡ろう空よ 穏やかな熱と光が 全ての死と生に降り積もるように 空よ聞け わたしの魂から放射される手を 夢と夢の先を繋いでくれ 翠の重力に導かれ 全ての中心を目指す 硝子が砕け また世界が増える 灼熱の意志で 獣は吠え狂う わたしの体液は共振し、沸騰し、 マグマになってこの檻を焼滅し、 溢れ出す!魂の炎、臭い、音、光! 世界を創造するエナジーが 空に満ちていく それは意志の振動だ! 空が染まっていく わたしの認識によって 色付いていく カーテンの向こう側には きっと
珍しく朝早く、と云うよりも未だ夜明けに目が覚めた。力強く橙色が宇宙を染め上げていく光景を、懐かしくも新鮮な心持ちで眺めている。ああ、静かだ。まだ街は眠っているけれど、世界は確かに此処にある。誰も知らずとも、此処にある。石油の臭いも、腐ったような人間の口臭も、遠く遠く拡散された、地球の素敵な体臭に、どうしてこんなに満足するのだろう。魂が綺麗な桃色に戻っていく。 曽て、一片の哲学も持たぬ頃、例えば遠足の朝、運動会の朝、始業式の朝、夏休み初日の朝、決まってこんな橙色を眺めていた
勇気ある人よ 世界の冷気に苦しむ人よ 今こそ身を投げよ 神は地獄にいる 神の胸ぐらを掴め 生命の怒りを漲らせ 神の頸を締め上げよ 地獄の底の底 闇の穴ぐらに潜む 正義の神に 悲しみの拳を叩き込め 勇気ある人よ 生命の怒りに満ちた人よ 今こそ身を投げよ 神に復讐せよ
今や春の虫の方が世界に期待されている。 真白な風雪に晒され続け肌は乾き果てた。瞼は凍り尽きて砂丘に憧れた。霊魂を潤すべき涙も、今や月の裏に行ってしまった。ここに残ったのは重い心臓だけ。空転を続ける思考。死んだことはない筈だから恐らく生きている筈だが、それとて信頼できる根拠もない。依拠すべき自信はこよりのように捻れて細く空間の隙間に納まっている。ここに残ったのは窮屈な心臓だけ。深閑響く森の奥、許されざる人間が許しを乞う。世界に許しを乞う。 生まれたから生きてしまいま
見えない壁 は 認識 活動 の 限界。 翼 後肢 が 無い悲劇。 餌 降る 何処 誰 の 愛。 想像者 は 孤独 の 充溢。 漏出 させたい 光。
食って寝て出して。それだけを繰り返して順調に分解されていく。理想の生き方、それは死に方。残るのは、ここに何かがあった、という感覚だけ。世界をほんの少しだけ汚した染み、それがこのバカを、語り得る全てであればいい。それでいい。少しだけ話して、少しだけ書いた。少しだけ大気を揺らして、少しだけ自由に色をつけた。この世界に。世界が連続するならば、だけど。見えないほど、その隙間が薄いのならば、希望だって、居てもいい。ここと、そこに、居てもいいよ。あるとき、あるところに、バカが一匹あった
歩きます 両腕に掛かる慣性を 心地よく重力に溶かします 右足裏の地球と 左大腿の宇宙と 時空を現象する大気と 僕のシナプスがスパークして また一歩推進されます また瞬間を浪費します 歩きます 視線を無視して歩きます 消えていきます 誰かの悪意も 僕の善意も 消していきます そしてまた、歩きます
とりとめのない思考……、流れる、泳ぐ、僅かな息継ぎで、薄目を開けながら……。 「仲間。同じことをして、同じことを楽しんで、同じことで笑う人達を、仲間と言うのなら、おままごとも、スポーツも、演劇も、音楽も、政治も、農業も、この世界の全部が全部、同じことをして、同じことを楽しんで、同じことで笑い、怒り、泣く、仲間だ」 そんな世界で、孤独になりたければ、どうすればいい、どうすれば、仲間から逃げられるんだ、どうすれば、仲間を忘れられるんだ、仲間の居ない、仲間を見ることも、考え
とげとげボウズとげボウズ 油断してると爆発するぞ 甘い内臓撒き散らかすぞ とげとげボウズとげボウズ オレに触れるな近付くな 注射みたいに刺さるんだ とげとげボウズとげボウズ ころころきれいな真ん丸だ ボールじゃないぞ蹴るんじゃない とげとげボウズとげボウズ 明日の天気は知らないよ 雨が降ろうが雷鳴ろうが オレはこのまま孤独にチクチク そんな奴らが沢山いるよ 世界が凍って神が死んでも オレたちこのまま孤独にチクチク
“答え”は出ている。信じたもの、信じるしかないもの、それが唯一の答えだ。唯一の答えには従わねばならない。笑われようと、不利益であろうと。矛盾するようだが、答えは真実とイコールではないし、正解か不正解かは関係ない。“答え”とは、道ばたの石ころをダイヤだと呼ぶ勇気である。自分の目玉を客観視する想像力である。風に宇宙の傾きを感じる愚かさである。私は扇風機に向かって叫ぶ。お前は回転するモーターだ。私が回り続けるように、お前も回転し続けるがいい。いつか私達のカルーセルを、楽しむ誰かが
思い出は朝の匂いがいい 朝一番に登校すれば まだ誰のものでもない教室 この時間が好きなんだ 窓の外には稚拙な花壇や畑 おはよう、君達はいつも早起きだな 本当は優しい太陽なのに みんなの前では少し怒りっぽいね 物置小屋に住んでるジョロウグモは きっと算数が得意なんだろう あんな綺麗な網々を、僕は編んだりできない 抜け殻みたいなみんなの机 埃がふわふわ光ってる 誰かが来るまで電気はつけない 優しい朝の太陽が、僕は好きだから 僕だけが知ってる朝の顔 思い出になる前の、本当の顔 僕は
全く、ネガティブを自称する奴の傲慢さには呆れてしまうね。奴らは自分を卑下することがまるで快感なんだろう。ぼくはダメだ、社会不適合者だ、落ちこぼれだ、クズだ……、なんて聞いてるこっちも不愉快になるようなことを神妙な顔してボソボソ言いながら、手だけは忙しそうにせかせか動かして特盛りの牛丼なんかペロリと平らげてしまいやがる。奴ら他人の言葉なんか聞いちゃいねえんだ。こっちは気を使って慰めたり明るい話題を考えたりしてるのに、ダメだダメだって不幸暗澹のぬるま湯に気持ちよく浸かって出てき
天国面する地獄を逍遙 終わらぬ葬儀お愛想焼香 偽の余裕に震える心臓 天使の羽飾りは装甲 苦汁の雨に浮遊する緑青 ああ弱い弱い弱すぎる 今や帰るにゃ遠すぎる故郷 今更思い出してる抱擁 全部過去に捨ててきた愛憎 やるしかねえなどうやら信仰 こんなこんな退廃の太陽 とっくに焼け落ちている渇望 ああ水水水をくれ 何度も何度も俺は死にそう 誰ができる死後の保証 抜かれた舌を焼くタン塩 獄卒人間味しか知らねえ 俺は塩っぱい味しか知らねえ
幸福であることが、苦しくてたまらない。誰かを愛し、愛されていることに、心が満ちていく感覚に、強い不安を覚えてしまう。それはきっと、喪失の予感。いつか失うと分かっているのなら、初めから手に入れない方がいい。生命に対する漠然とした不信、嫌悪、忌避、恐怖、畏怖……。生まれたくなかった。喜びが苦しみに変わると分かっているなら、満足が不満に変わると分かっているなら、生きることが死ぬことと同じであるのなら、生まれてきたくなかった。何も無くていい。幸福も、不幸も、人生も、宇宙も、何も無け
願いがある 真っ青な霧に包まれた朝は 人類最後の畑に希望の種を蒔き 夢よ、再び生えてくれ 郷愁煙る畦道の下 地底の王が云うことには 「天を覗くは最大の罪なり、 目を塞ぎ耳を拡げて大地に伏すべし」 ああ、分かった分かった 俺は暇な貝殻に引き籠もり 最新の聖書でも読むとしよう 透明なシルエットをなぞるより 人生詰め込んだ背嚢を担ぎ、 踏みしめているこの世界が、 ここにあると信じてみようじゃないか 黒い欺瞞の雪だるまに口紅をさし 逆剥けた皮膚の欠片をデコピンする 肺に染み込む
疑う者は、苦しむ。 疑う者は、不幸だ。 疑う者は、壁に気付く。 疑う者は、壁の向こうに思いを馳せる。 疑う者は、壁を破壊しようとする。 疑う者は、無力を思い知る。 そして疑う者は、死にたくなる。 悪魔は、疑いの種を蒔く。 それだけでいい。 それだけで、人は自ら堕ちていく。