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【随想】葛西善蔵『悪魔』

 みんなは生甲斐のありそうな顔をしている。あんなに沢山うじゃ/\している男や女やがみんながみんなあんな顔をして動き廻っている。殊に自分等の仲間と来ては――と、良吉には、それがどうしても解らないのである。

葛西善蔵『悪魔』(短編集『哀しき父|椎の若葉』)講談社,1994

 頽廃の発作は悪夢のように、意地わるく、襲いつかまえる。悪魔の舌は、ひとりでに、乾きを覚えて来る。

同上

 疑う者は、苦しむ。
 疑う者は、不幸だ。
 疑う者は、壁に気付く。
 疑う者は、壁の向こうに思いを馳せる。
 疑う者は、壁を破壊しようとする。
 疑う者は、無力を思い知る。
 そして疑う者は、死にたくなる。
 悪魔は、疑いの種を蒔く。
 それだけでいい。
 それだけで、人は自ら堕ちていく。

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Junigatsu Yota
素晴らしいことです素晴らしいことです

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