【随想】葛西善蔵『遁走』
振り返ると、どうということもない人生だ。何があった訳ではなく、何も無かった訳でもない。記憶と、形ある物と、幾つか残っているけれど、それを眺めたとて、さしたる感動も、懐かしさに浸るような事も無い。数秒で飽きて、また現実のつまらなさに捉われてしまうだけだ。虚しさこそが、理性の本質なのかも知れない。理性は、一種の呪いだ。ただ希望が無くとも、やるべきことがあれば人は生きられる。将来なんて何も考えず、目の前の義務を果たし続ける人生は、きっと最も幸せだ。何故人は、夢を描くのか。そんなもの、無い方がいいのに。
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