今の任天堂は「子ども」に向き合えているのか 現代エンタメの「子ども」の居場所
先日配信された「Nintendo Direct 2024.6.18」を見た。「ニンダイ」ことNintendo Directは恒例となっている任天堂独自の放送だが、今回も非常に盛況な結果となったようだ。ソーシャルメディアには数多の好意的な感想が寄せられ、メディアも嬉々として取り上げた。Nintendo Switchの成功以降、ゲームカルチャーを7年に渡ってドミネートし続けた任天堂の権威は、未だ揺らぐ気配がない。
筆者もまた、リアルタイムでこのニンダイを見て、そしてゲーム仲間と大いに盛り上がった。しかし、最後まで見終えたとき、心の何処かに不穏なものを覚えた。なぜなら任天堂は「子ども」を含めたファンを楽しませる企業だと認知していたはずが、今回のニンダイ……いや厳密にはNintendo Switch時代の任天堂には、明らかに「子ども」よりも「私たち=大人」に向けた経営を一貫しているからだ。
無論、これは一面的な見方にすぎない。まず、任天堂はすでに発表された次世代機に向けて別のタイトルを用意している。また『マリオパーティ ジャンボリー』のような子どもも楽しめるタイトルや、女性に向けた『プリンセスピーチ』も発表・発売されている。総じて、任天堂は依然としてゲーム業界で子どもに最も寄り添った企業であることは変わりない。
(なお、任天堂はかねてより「子ども向け」の企業とは限らないと自分たちで説明しているのだが、これも後に解説する)
だからここで問いたいことは、任天堂の断罪や批判ではない。むしろ、子どもとの距離が最も近い任天堂の視点を通じて、社会全体、エンタメ業界全体において「子ども」の居場所が失われつつあるマクロな実情について問いつつ、そのうえで任天堂の現状と今後について冷静な批評を行うことである。
少々、踏み込んだ内容ゆえに他のメディアやSNSにはない議論となるが、最後までお付き合いくだされば幸いだ。
まずはニンダイで注目したタイトルを論じたい
さて、不穏な話はひとまず置いておくとして、まずは素直に、ニンダイの放送内容のどこに惹かれたのか、その期待から述べていくことがフェアに思う。
まず注目したいのが『ドラゴンクエスト3』。この『3』はドラクエの中でも最も重要なマイルストーンで、要するに元ネタとなる欧米CRPG文化(特にUltima)をもっとも真剣に踏襲・解釈した作品でありながら、一方で『4』以降に色濃くなり『5』で最盛となる漫画・アニメ的文脈との決別でもある作品だと筆者は解釈している。
そんなわけで、「ドラクエ」を語るうえで『3』は大変に重要な作品だ。これまで『4』〜『6』の天空シリーズは大々的なリメイクがされ、比較的遊びやすかったのに対して『3』を遊ぶ手段が少なかったのもまた、『3』(を含む、ロト三部作)が「ドラクエ」においていかに特殊な立ち位置にあるかをよく反映したものだと思う。言い換えれば、「ドラクエ3」は欧米RPGとJRPGの最も象徴的な分岐点にある作品であり、特に「バルダーズ・ゲート3」が出た今となって、改めて遊ぶ意義が深まった作品だろう。
そんなわけで、HD-2D版発表前から待望されていた「ドラクエ3」のリメイク版。本当に長く待ち望んでいたが、ついに今年発売ということもあり、感慨深いファンは多いだろう。非常に楽しみな作品だ。
次に注目したいのが、『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』だ。これはゼルダシリーズの顔役である青沼氏が自ら紹介するという気合のはいり用で、任天堂としても相当な自信があるものとうかがえる。
しかし、これはもう企画の時点で期待せざるを得ないのではないだろうか。誰が見てもこれは「(BotW〜TotKの)掛け算の遊び×クラシックゼルダ」である。ゼルダ本来の2D見下ろし視点のゲームプレイで、3Dで発展し「掛け算の遊び」ができたなら……想像するだけでワクワクしてしまう。
現状、実は2Dゲームでめっぽう強いのがインディーゲームシーンだ。インディーは大手と比べ、予算で劣るが企画の弾数で大きく勝る。ゆえに「2Dゲーム」で出来そうなことは大体彼らが先にやってしまうし、大手が何か挑戦してもすぐインディーに取られやすい。実際、クラシックゼルダという分野ならすでに『The Binding of Isaac』から『Tunic』まで(程度の差こそあれ)開拓されている。しかし、『知恵のかりもの』は任天堂の予算と技術であえてクラシックゼルダを作る、という意義を見せてくれそうだ。
最後に外せないのが、大トリでもあった『メトロイド プライム4』だろう。すでにゲームファンなら知っての通り、こちらも非常に長い開発期間がもうけられており、そのあまりの長さから開発中断もしばしば噂された作品だ。よもや発売するというだけでも、十分すぎるほどのサプライズ。
『メトロイド』の中でも、『プライム』の特徴は一人称視点であること、ひいてはマップ自体も3Dであることだ。『メトロイド』特有の広大なマップを探索する冒険感に加え、一人称視点ならではの没入感を味わえる。売上で爆発的なヒットを遂げたわけではないが、その独自性から、特に北米で根強いファンのいるシリーズとして知られている。
個人的に『プライム4』で注目している点は、ゲームそのものというより、むしろゲームを取り巻く環境が一変したことにあると考えている。つまり、FPSの流行だ。前作『プライム3』が発売されたのは2007年のWiiであり、当初、幅広く遊ばれるFPSは多くなかった(同年に『CoD4』『バイオショック』というのは象徴的だ)。
それゆえ、ゲームデザインにはFPSを遊ばないことを想定した制約や、そもそも開発側のノウハウも十分ではなかったわけだが、『3』から17年経過した今、この状況は一変した。FPSは日本を含む世界中で、コンソールやスマホでさえ遊ばれる最もメジャーなゲームジャンルとなった。これによって配慮やノウハウといった制約はなくなり、一方で自分たちの独自性を打ち出す必然性も生じた。
実際、今回公開されたトレイラーを見れば、方向性の違いは明確だ。前作とは比べ物にならないほどインテンスな戦闘は、まるでリブート版『DOOM』であり、爆発がそこら中で起きる演出は『CoD』的である。『プライム4』はもはやプライムの続編というよりも、任天堂陣営(レトロ)でどんなFPSを作れるかという限界を見極めるうえでも、注目に値する作品だ。
「子ども不在」のニンダイ
こうした作品の他にも、9年ぶりの新作「マリオ&ルイージ」、オンラインに追加された「4つの剣」「神トラ」など、発表の数々は筆者を含む多くのゲームファンを賑わせた。それはソーシャルメディアやゲームメディアの反響を見れば、火を見るよりも明らかだ。
しかし、筆者はこうしたニンダイ、あるいはNintendo Switch時代の任天堂ラインナップを見て、大きな変化があることを感じた。
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