【小説エッセイ】 こんなはずではなかった その3
小説「骨の消滅」を書いていて、こんなはずではなかったということが多々あった。そのひとつに出る予定のなかった「登場人物」のことがある。
もともと、主人公の二人が出雲を旅しながら、出雲神話の真実にたどり着くはずの物語だった。出雲にたどり着くまでに、執筆が1カ月もかかったしまったため後半は急ぎ足になったがここまではその予定に変わりなかったはずだった。
出雲に入って、まず目指すは神庭荒神谷遺跡だった。
出雲の古代史に興味がある人はまず見逃せない場所である。そして、それと同じくらい重要な遺跡が加茂岩倉遺跡である。
神庭荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡は出雲の古代史好きにとってセットといってもよいであろう。よって主人公たちは当然この2つを目指していた。
神庭荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡は車で30分くらいの距離である。午後1時ごろに神庭荒神谷遺跡に到着したとすれば、ゆっくりみて1時間を見積もっても2時半には加茂岩倉遺跡に到着しないといけない。加茂岩倉遺跡をゆくり見て回って1時間とすると3時半だから、その日はもう一カ所行けるくらいの時間しか残されていない。
じゃぁ、出雲大社に行けばいいのではと思った。
出雲に観光に来て、出雲大社に行かないわけにはいかないだろう。エジプトに旅行に行ってピラミッドを見に行かないのと同じくらい、それは歴然としている。
しかし、神庭荒神谷遺跡を訪れた際に、どうしても行っておきたい場所があった。それが大黒山だった。
出雲神話が好きな人で、大黒山へ登ろうという人はあまりいないのではないか。しかし、飛行機で出雲平野を一望することを抜きにすれば、出雲を俯瞰するためには山に登るしかないのだ。この出雲の俯瞰こそが出雲神話の真実を探るカギとなるはずだった。そして彼らの行動は車であった。
となれば、神庭荒神谷遺跡を見てから大黒山に登るしか時間の都合上無理が生じてしまう。かといって、主人公のひとりが大黒山に登ろうというのには唐突過ぎる気もする。
そこで、登場させたのが神庭荒神谷遺跡のボランティアガイド・小野さんだった。小野さんに導かれるように主人公たちは大黒山に登ることになるのであるが、ここでも問題が出てきた。
小野さんがなんでもかんでも知っている設定では、なんだかすべて小野さんに教えを乞うていることになる。そうなると、あまり面白味もないので、なんとかお供にちょうどいい人物はないものかということで登場したのが小野さんのお孫さんだった。
こうやって、思っても見なかった登場人物が増えることによって、話はどんどん予想しなかった方向に膨らんでしまい、時間の関係上、加茂岩倉遺跡は大黒山から眺めるにとどまってしまったのも、誠に無念な結果であったといわざるを得ない。
ヘッダー画像はki_nyaさんの画像をお借りしました。ありがとうございました。
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