五つの真実
考え事をすると
視野が狭まる
見つめる先に真実はない
ただ錯誤が計測されるだけだ
まなざしの向こうから
もうひとつのまなざしが
返ってくる
明けがた
弧を描いて墜ちていった
ひとつの意図
言葉が体の外に出ると
空虚が入り込む
無いはずのものを切除する
外科医のように細心に
心と言葉の継ぎ目を
縫い合わせることができなければ
明けがた
目覚めとともに見失った人に
再び会うことはできない
真実は五つあると
オサムが言った
たとえば
欠けた視野の中に
交差点で落とした時間の中に
語られなかったことの中に
鼓動する心臓の中に
風の短調と雨の長調がつくる
灰色の空の中に
ゴミ収集車が全速力で追ってきた
昨日の遊歩道
レッカー車がついてきた
おとといのバードウォッチング
パワーショベルが土の塊をつかんだままでいる
今日の更地
遠くから真実が歩いてくるのを
山雀と蜜蜂だけが見ていた
たとえ
時速1センチメートルであっても
越えられるさ
こんなもの
光がもたらすこの形象と色を
掌に載せて
君が今いる場所に
届けることができたなら
(詩集『フンボルトペンギンの決意』第4章「五つの真実」より)
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