西岡泉

おもに詩を書いています。あとはプータローしています。

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秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

秋に手紙を出してきた 時候の挨拶は 省略した いつまた会えるか 分からないから 夜の藍色のインクで 手紙を書いた インクが乾く頃 手紙は風に乗って 配達されるだろう 秋の住所は不明にしても 自分の目で見ていないものは 詩には書けない 目に見えないものを 言葉にできなければ 詩ではない うまくいったためしなどない 思い切って口にすると 忘れていた歌を 想い出すことがある たとえば ズー・ニー・ヴーの 『白いサンゴ礁』 言葉が 想い出を運んでくるのか 忘却の深さが 言葉を想

    • 眼球譚

      ― 註のふたつあるモノローグ ー 洗面器から眼球を拾いあげた まえまえからいつかはこいつを この目でみてやろうと思っていた こうしてじかに手にとってみると 充血していていかにも汚いねェ いったい目玉としてこの世に生まれてこのかた なにをみてきたのかね 女の尻と顔の相関曲線の作成に 血まなこになるのもいいけれど たまには夕陽のスペクトルで角膜の 洗浄をしてみてはどうかね みることは奪うことだ と いつかいっていたね みることにかけてはとてつもない怪物だった あのマルテを気

      • 夕日はいつか赤くなれ

        夕日は赤くない やっと気がついた 夕日は金色に光る鏡だ 地平線に沈む前に 空の粒子をオレンジ色に燃やす ただし、 アフリカの夕日は本当に大きくて チョベ川に架かる空が真っ赤になる 言葉で人の気をひこうとしたら おしまいだ 文字になるずっと前から 言葉は人の気をひこうとばかりしてきた なぜ私たちの社会は 姑息で身勝手な人間たちに たやすく牛耳られてしまうのか 夕日が沈んだ後も まだ明るい東の空に 白い飛行機雲が残っていた 飛行機は空に何か言いかけていた 私は藍色の海をひと

        • こっそり合唱団

          (歌の好きなすべての人に) ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 ひとりこっそり歌うんだ 夜にこっそり歌うんだ 楽譜なんか読めなくていい 歌の上手い下手なんか関係ない ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 入団資格はひとつだけ さみしい心をもっていること 団員規則もひとつだけ 人前で歌わないこと ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 集まって練習なんかしなくていい 心は波になって 夜の空を渡るから 心配なんかしなくていい ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 ひとりカラオケで

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        秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

          アンド・アイ・ラブ・ハー

          雲の端が金色に縁どられていた 夕陽が丸い鏡のように光っていた やり遂げたことより やり遂げられなかったことを大切にして と君が言った 君と生きてゆくこともできたのに 一緒に住むことも 君は最後まで本心を言ってくれなかった ずっとそう思っていた 君は言おうとしていたんだね あのとき聞こえたのは 悲しいときに泣いている あの声ではなかった 言ったことよりも 言わなかったことのなかに ほんとうの心があった 今になって気が付いたよ 雲がピンクに染まり 薄明かりがさしたあと 空は

          アンド・アイ・ラブ・ハー

          朝の7時頃夢をみた

          トイレに行ったら タケシが先に入っていた 自転車で駅まで送って行ってよ いつの間にかスーツに着替えていたタケシが言った タケシを乗せて自転車をこぐのは重たいなあ 嫌やなあ 大雨が降って来た 玄関閉めてきて ミチの声 土砂降りの雨で 大きな渡り廊下がびしょ濡れになっていた 海を泳いでいた 横で白いテリアが懸命に泳いでいた 海の端まで泳いだ 向こうにまた海が見えた 「海だーっ」と犬が叫んだ 犬は子供の頃のタケシになっていた ユウマだったかもしれない 子供の頃に戻ったタケシのような

          朝の7時頃夢をみた

          僕の装備品

          君のことを愛したいのに どうしても愛することができない せめて友だちでいたい でも君は 僕の言うことなど聞きもしない いきなり襲ってくる 刺せるところならどこでも刺してくる 僕も仕方なく 身を守る 先制攻撃だってする お互いに相手を尊重し合おう 自分とは違う生き方も認め合おう 君のことを理解しようとした これまでのことを水に流そうともした ブーンという音がすべての努力を台なしにする キンチョールにフマキラー 虫コナーズにアースノーマット 蚊取り線香に虫除けスプレー アフリ

          僕の装備品

          兵隊だったことがある

          JR灘駅を 山側に歩けば王子公園に 海側に歩けば 私が毎日働いていた会社に 行き着く 灘駅から会社に向かう道の途中に 肉とマッコリがたまらなく旨い焼肉屋がある 毎朝八時から九時前まで 何百人という社員がその店の前を通った ザッ ザッ ザッ ザッ 兵隊さんが行進してるみたいやったで あんたらの足音 韓国人のおばちゃんが私に言った オレは兵隊だったのか オモニ ひとは殺さずに 自分を殺していたよ 何かを忘れて足踏みばかりしていた 殺した自分を取り戻さなければ 割が会わない い

          兵隊だったことがある

          又三郎のいうことには

          さわやかな九月一日の朝 小学校の窓ガラスをがたがた鳴らせて 風の又三郎が帰ってきた ゴーシュがもうセロを弾けなくなったぞ 年取って指が動かねえって シューマンのトロメライも 弾けねぇって そういう又三郎もずい分年を取って 風のマントがよれよれになっていた 杖をついた三人の老人たちが 教室に集まってきた 嘉助と佐太郎と耕助だった これからゴーシュのところに行くぞ イギリス海岸に沿って町に向かい 注文の多い料理店には目もくれず 活動写真館にみんなが辿り着いた頃には あたりは暗

          又三郎のいうことには

          雨の神

          雨の日も椋鳥は鳴く 欅の枝に群れに群れ 鳴くに鳴く 世界中の欅の葉を集めたよりも多く ただ 鳴くに鳴く まるで 打ちまちがえたメールが 空を飛び交うように 少女は心を折り畳んで 雲母のように光る小箱にしまう 涙が渇いても まだ残っているものがある ぼくが君だった頃 ため息には価値があった 昼間に 空に飛んで行った魂が 夜には欅めがけて帰ってくる 君はまだ泣くことができるだろう? 血管の中には 涙の成分が流れているから 椋鳥は鳴け 空に隠れていた雨の神が 寝ぼけた顔を出す

          採集する夏

          桃をかじったあとは 執念深い繊維が歯にからみつく いつもこうだと思いながら 唾を吐く 道の真中を歩いたら雷にうたれるきに 注意しいや 祖母は しゃぶりつくした魚の骨を 冷や飯の上にのせて 茶漬けにして食べていた 高知県香美郡土佐山田町 八井田病院のみえる川辺で ぼくはアオハダトンボをまちうけていた 青い半ズボンに木綿のランニングシャツ 肩には三角罐をかけている (木綿ではなくナイロンのシャツだったような気もする) 食欲と好奇心だけでよく生きれたものだ 風に砂が舞う砂漠の

          採集する夏

          ありのまま

          ありのまま ありのまま 人間の子供に捕まって コップの底に沈められそうになったことがある 子供が勉強部屋に戻った隙に キッチンから逃げだした 玄関の隅に隠れていた トノサマバッタの背中に乗って 命からがら 庭の草むらへ飛び込んだ 逃げ遅れた友達は キュキュット除菌洗剤の泡を全身に浴びて ステンレスの流し台の上で 息絶えていた ありのままでいることはキケンだ いつ人間にひどい目にあわされるか分からない ありのままでいられなくて 毎日のように学校をさぼっていた もう人間には戻

          ありのまま

          海に書いたラブレター

          老いぼれてたどり着いた 鄙びた教会で 涙ながらに 牧師から職を与えられた かつての肉体派女優 快楽の極みを死にとりかえた アイドル歌手 彼女はインタビューに こう答えた  <今年は賞をいただいて最高に幸せでした   来年もがんばります> 海と戯れるときのあなたの肌は 原始の輝きを蘇らせる ぼくらは海に由来する生き物なのだ それにしても ぼくらに肉体があるとは! 波は塩辛い想い出を 砂浜に浸み込ませては引き 海は水平線の向こうで 空の涙を拭っている 夏にこういえばよか

          海に書いたラブレター

          ラバーなこころ

          私の決意は1ミリたりとも動きません? 1ミリだって? そんなみみっちいこと言わずに 1000キロでも 500マイルでも 好きなだけ動けばいいじゃないか いったい何を言いたいの? 1ミリだって? 動いたかどうか どうやって測るんだい? こころを定規で測れないだろ ずるしちゃだめだよ こころはラバー・ソウル ラバーは伸びたり縮んだり ソウルは魂 靴底でもいいけど こころが空っぽで ああ はち切れそうだ 1000キロでも 500マイルでも 飛んでゆくよ 君のいるところへ 電車

          ラバーなこころ

          そんなこと

          砂場で 三人の子供たちが 自分たちよりも大きな穴を 掘っていた そんなことわかってるよ と言いあいながら 子供たちは 自分たちが掘った穴を 覗き込んでいた どうしても こころが通い合わない そんなことがある 書いた手紙を 出すかどうか迷う そんなことが 君にもあっただろう やりたくない そんなこと 人生はそんなことで満ちている その気になれば 変えることができる そんなこと 砂場の子供たちよ 掘った穴の底に何か見えたかい? そんなことないよ 愛してる 雲に約束した とにか

          そんなこと

          夢のひと

          悲しいひとだけがいた ぼくの横に君はいない 悲しいひとがいるだけだ 悲しみを知ったひと 悲しい時に 悲しいと言ってはいけない? そんなことを言う詩人を 信じてはいけない 通りやすいところばかり通っていると 行きたいところに行けなくなる 夢のひと 夢のなかに君はいない 悲しい人がいるだけだ 君の顔をたしかに見た場所がある 心を合わせれば 行けたかも知れない オレンジ色に光る夕空の果て 君を呼び続けている 止まらない血のように 君は夢の方へ駆けて行った 君が君でなくなるくら

          夢のひと