西岡泉

おもに詩を書いています。あとはプータローしています。

西岡泉

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秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

秋に手紙を出してきた 時候の挨拶は 省略した いつまた会えるか 分からないから 夜の藍色のインクで 手紙を書いた インクが乾く頃 手紙は風に乗って 配達されるだろう 秋の住所は不明にしても 自分の目で見ていないものは 詩には書けない 目に見えないものを 言葉にできなければ 詩ではない うまくいったためしなどない 思い切って口にすると 忘れていた歌を 想い出すことがある たとえば ズー・ニー・ヴーの 『白いサンゴ礁』 言葉が 想い出を運んでくるのか 忘却の深さが 言葉を想

    • 見たこともない青空

      見たこともない青空が家の庭に落ちていた 「危険! 飛び込み禁止」の看板を立て 「KEEP OUT」の規制線を張り巡らせた 次の日から庭が飛び込みの穴場になってしまった 月曜日 植木鉢で飼っていたメダカが飛び込んで死んでいた 空の底から掬い上げて雲を敷いた棺に納めてやった 火曜日 きのうブルーだった月曜日が空の底で眠っていた 目覚めると朝焼けのなかに消えて行った 大丈夫? 水曜日 卒業アルバムから消えた君が空の底にいた 僕は君を抱きしめてアルバムにそっと戻しておいた 木曜日 ど

      • あの日のバカ

        川井隆夫と入力したら 乾いた顔に変換された アドレナリンと言おうとしたら アナドレンと言ってしまった 君と僕が逢えなかったのも きっとそういうことさ MRIの長いトンネルを抜けたら 17歳の君になっていた これで やっと あの日に戻れる いつもの道で一日に二回すれ違ったのに 一度も君に気付かれなかったあの日に 私はあの日にいた 今度こそ君に逢える あの日と同じように 私は早めに家を出て いつもの道を通って高校に向かった 正門に近付いた頃 後ろでヒラメちゃんの声がした おは

        • もうやってらんない!

          君とさよならをしたあと 僕はさよならのあとをつけた さよならの正体を突き止めてやろうと思って さよならときたら 窓や壁を素通りするわ すぐにこちらを振り向くわ 手紙や居眠りの中にさえ隠れるわ さよならのあとをつけるのは至難の業だった さよならは大きな会議場に入って行った 僕もさよならに変装して会議のテーブルについた 世界中のさよならの代表たちが集まっていた グッバイ系とハロー系の抗争が 勃発したらしい どちら側につくのか 経済制裁するのか 武器供与するのか 仲裁するのか

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        秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

          こころは後回し

          心と書くと こころが苦しくなる 脳のなかをいくら探しても こころは見つからない こころに裏切られた 記憶は代々受け継がれてきた 錯誤のネットワークでできている  (ある脳科学者の研究日誌から抜粋) こころは からだの奥の暗闇に浮かんでいる 海がうねる こころがうきうきする 君の海とぼくの海を 水路で繋ぐことができたら こころのどこかで 水圧が釣り合うことだって あるだろう? たとえ遠く離れていたとしても  (ある三流詩人の詩『こころ』からの長い引用) 君にはこころが10個

          こころは後回し

          少年

          書くことがない 十月はテレビで 大谷翔平の試合ばかり観ていた 活躍するかしないかで まるで違う一日になる選手は 大谷翔平しかいない あと四勝するまで駆け抜けます シャンパンを浴びながら インタビューに答えていた 詩を書くには 淋しさが少し足りなかった 幸せや楽しさとは異なる場所で 詩は生まれる 午後三時になる頃には 五時間目を終えた小学生たちで 通学路が賑やかになる 人生は競争だとか ひとりでは何もできないとか つまらないことばかり 教えようとする大人たちに 邪魔されずに

          名前がうまく書けなくても

          自分の名前がうまく書けなくなった 人生で一番たくさん書いてきたはずなのに 書くたびに下手くそになる 西なんか書き順がいいかげんになってしまって 四みたいに見える これじゃ西に向かって歩けない 岡なんか冂が縮こまってしまって 山が冂の中にうまく入らない これじゃ岡の上に登れない 泉なんか白が臼みたいになってしまうし 水は木みたいになってしまうし これじゃ西の岡にある泉のほとりで眠れない 君に手紙を書いた PS 愛してる にしおか いずみ  なんか嘘っぽい 出すのをやめた 氏名

          名前がうまく書けなくても

          私は私でなくてもいい

          私は私でなくてもいい 君が君でないのなら 私は私でなくてもいい 「汚れつちまつた悲しみ」で焚火ができるのなら 私は私でなくてもいい 夢のなかに入って朝まで眠れるのなら 私は私でなくてもいい プーチンやネタニヤフを刑務所に送れるのなら 私は私でなくてもいい 夕陽が沈んでばかりいる理由が分かるのなら 私は私でなくてもいい 蚊が私を放っておいてくれるのなら 私は私でなくてもいい 高校生の君に会えるのなら 私は私でなくてもいい 翔という字を辿って行くと空に届くのなら 私は私でなくても

          私は私でなくてもいい

          バニラスカイ

          バニラアイスのように 朝が溶けていった さっきまで夢を見ていたことなど忘れ 私は真新しい擬態を始める 朝はいつまでも夜明けではない 見かけよりもはやく 壊滅の水位がせり上がる 決壊の穴を塞ぐことができるのは 詩ではない言葉だ 詩は言葉でなくてもいい 人生初めての光景を 見せることができるのなら 頭のなかには知らないことばかり ぎっしり詰まっている 天然オパールには地球が埋まっている 見つめてみつめて身悶えする 高知県香美郡土佐山田町 南を流れる物部川で 中学生の元ちゃん

          バニラスカイ

          塁上の孤独

          私は9人家族の一番目だ 一番先に産まれたわけではない 一番目に家を出るのが役目というだけだ とにかく最初に家を飛び出して 原っぱを駆け回り 無事に家に帰って来なければならない 原っぱには私を殺そうと 敵の9人家族が散らばっている そのひとりは私たちの家のすぐ前で座り込んでいる 原っぱには途中で休める地点が3カ所ある 休めるからといって油断はできない いつ敵に刺されるか分からない 一番安全なのは 相手が投げてくる牛の皮で包まれた球を 木の棒でひっぱたいて柵の向こうに放り込むこと

          塁上の孤独

          眼球譚

          ― 註のふたつあるモノローグ ー 洗面器から眼球を拾いあげた まえまえからいつかはこいつを この目でみてやろうと思っていた こうしてじかに手にとってみると 充血していていかにも汚いねェ いったい目玉としてこの世に生まれてこのかた なにをみてきたのかね 女の尻と顔の相関曲線の作成に 血まなこになるのもいいけれど たまには夕陽のスペクトルで角膜の 洗浄をしてみてはどうかね みることは奪うことだ と いつかいっていたね みることにかけてはとてつもない怪物だった あのマルテを気

          夕日はいつか赤くなれ

          夕日は赤くない やっと気がついた 夕日は金色に光る鏡だ 地平線に沈む前に 空の粒子をオレンジ色に燃やす ただし、 アフリカの夕日は本当に大きくて チョベ川に架かる空が真っ赤になる 言葉で人の気をひこうとしたら おしまいだ 文字になるずっと前から 言葉は人の気をひこうとばかりしてきた なぜ私たちの社会は 姑息で身勝手な人間たちに たやすく牛耳られてしまうのか 夕日が沈んだ後も まだ明るい東の空に 白い飛行機雲が残っていた 飛行機は空に何か言いかけていた 私は藍色の海をひと

          夕日はいつか赤くなれ

          こっそり合唱団

          (歌の好きなすべての人に) ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 ひとりこっそり歌うんだ 夜にこっそり歌うんだ 楽譜なんか読めなくていい 歌の上手い下手なんか関係ない ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 入団資格はひとつだけ さみしい心をもっていること 団員規則もひとつだけ 人前で歌わないこと ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 集まって練習なんかしなくていい 心は波になって 夜の空を渡るから 心配なんかしなくていい ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 ひとりカラオケで

          こっそり合唱団

          アンド・アイ・ラブ・ハー

          雲の端が金色に縁どられていた 夕陽が丸い鏡のように光っていた やり遂げたことより やり遂げられなかったことを大切にして と君が言った 君と生きてゆくこともできたのに 一緒に住むことも 君は最後まで本心を言ってくれなかった ずっとそう思っていた 君は言おうとしていたんだね あのとき聞こえたのは 悲しいときに泣いている あの声ではなかった 言ったことよりも 言わなかったことのなかに ほんとうの心があった 今になって気が付いたよ 雲がピンクに染まり 薄明かりがさしたあと 空は

          アンド・アイ・ラブ・ハー

          朝の7時頃夢をみた

          トイレに行ったら タケシが先に入っていた 自転車で駅まで送って行ってよ いつの間にかスーツに着替えていたタケシが言った タケシを乗せて自転車をこぐのは重たいなあ 嫌やなあ 大雨が降って来た 玄関閉めてきて ミチの声 土砂降りの雨で 大きな渡り廊下がびしょ濡れになっていた 海を泳いでいた 横で白いテリアが懸命に泳いでいた 海の端まで泳いだ 向こうにまた海が見えた 「海だーっ」と犬が叫んだ 犬は子供の頃のタケシになっていた ユウマだったかもしれない 子供の頃に戻ったタケシのような

          朝の7時頃夢をみた

          僕の装備品

          君のことを愛したいのに どうしても愛することができない せめて友だちでいたい でも君は 僕の言うことなど聞きもしない いきなり襲ってくる 刺せるところならどこでも刺してくる 僕も仕方なく 身を守る 先制攻撃だってする お互いに相手を尊重し合おう 自分とは違う生き方も認め合おう 君のことを理解しようとした これまでのことを水に流そうともした ブーンという音がすべての努力を台なしにする キンチョールにフマキラー 虫コナーズにアースノーマット 蚊取り線香に虫除けスプレー アフリ

          僕の装備品