大阪慕城
かつてタイコウと呼ばれた男が
夢の涯に創りあげた要塞
いまは青錆びて
防腐処理を施された猛禽類のようにうずくまっている
黄色い銀杏の落ち葉や名も知らない赤い落ち葉が
キラキラ光りながら記憶の螺旋となって風に舞いあがる
夢の名残はもうひとつの夢だ
西外堀では乾櫓が方位を計っている
天守閣の黒漆の壁に描かれた金箔の虎が
夕陽の残照に光りだし
咆哮する
京橋口から城の中へ
内堀周りの遊歩道を
放課後の少女達が息を切らせて走っている
極楽橋を渡って山里曲輪跡へ
刻まれた巨石の群れを慰めながら
枯れ葉が降り注ぎ
散歩にやって来た主婦達が
笑いながら飼い犬を見せ合っている
夕陽が落ちると照明が灯り
天守閣が薄暮の空に浮かび上がる
闇に向かってまた羽ばたこうとでもいうのか
青屋門を潜って新鴫野橋を渡る足元では
三葉虫の水上バスが
イルミネーションの光を撒き散らして暗い川面を滑る
縮尺を間違えたように空に突き出たビルの背後から
赤い眼をした巨大な翼竜が現れ
空気を燃やしながら
プラネタリウムのような空を
ゆっくりと斜めに横切ってゆく
錯綜する時間が交差点を行き交い
信号がかってない色で明滅している
私はビジネスパーク駅を探し
変形した記憶のひざを軋ませながら
歩道に空けられた地下への階段を降りてゆく
忘れていた夢の断層が露出する
なおも深く降りてゆく
ひとりの抗夫になる
(補足)
この詩は前々回に投稿した詩『夜間飛行』と大阪城を通じて繋がっています。ふたつの詩を一緒に読んでいただけると面白いです。二回楽しめます。
(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』より)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?