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星と祭(井上靖) 思い出の本④
大切な人を失った悲しみ。
それも思いがけない形で突然訪れた別れと、その喪失感。
怒り、逆恨み、後悔、自責の念……。
自分が属する生の世界と、手の届かない死の世界の境目で苦しむ人は多い。
心の安寧をどのように得ていけばいいのか、そもそも安寧など得られるものなのか。
深く考えてゆくに従って、生と死が対極にあるのではなく、私たちの生そのものが大いなる死に内包されていることに気づいてゆくだろう。
私も四半世紀前に失った幼子の魂の行方をめぐり、心の葛藤は今も続いている。
本書の主人公も、突然の事故で娘をうしなった父親である。
受け入れがたい現実を前に、何を思い、どう行動するのか。
琵琶湖の美しい自然、湖北の古い集落に残る観音仏との出会い、ヒマラヤで見た月など通じ、父親が見いだしたものは何なのか。
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この本を私に紹介してくれたのは、以前働いていた職場の大先輩Hさんだった。
当初、読み始めたときは、とても受け入れがたい本だと思った。
しかし、我慢して読み進めるに従って、なぜHさんが勧めたのか、わかったような気がした。
これは、身近な人の死に、まっすぐに向き合った物語だったから。
実際のところは、身近な人の死をどう乗り越えるのかは、その人しだいだ。
それぞれのやり方やプロセスがあるのだろう。
しかし、答えに近づこうとする一つの試みとして、本書の主人公の考えや行動にも共感できる部分もあった(私とは相容れない部分も残ったが)。
私に、本書を勧めてくれたHさんも、その後、持病が悪化して亡くなられた。
Hさんの思い出とともに、この本は私の中にしっかりと生きている。