小さな幸せ習慣 「3つのよいこと」
「3つのよいこと」ってご存知でしょうか?
「寝る前に、その日あった良かったことを、3つ書く」
というものなのですが、訳あって自分自身でも少しやってみようと思い、やり方や効果について調べたので、まとめておこうと思います。
金沢工業大学の心理科学研究所所長、塩谷亨教授の「ポジティブエクササイズ TGT(Three Good Things)を巡って」 [1] を主に参考にしています。
(ポジティブ心理学やWellbeingとは何ぞやといった背景から、3つのよいことに関する研究の流れ、具体的な実験とその解釈まで、丁寧に解説してくださっています。)
ポジティブ心理学と「3つのよいこと」
ポジティブ心理学
「3つのよいこと」の説明の前に、その前提となる「ポジティブ心理学」について少しだけ説明します。
ポジティブ心理学とは、ペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・セリグマン(Martin E.P. Seligman)によって1998年に始まった、心理学の新しい研究領域です。
従来の心理学が、精神疾患やメンタル不調を治療することを主たる目的としていたのに対して、ポジティブ心理学は、人間のポジティブな側面によりフォーカスし、Wellbeingを促進することを目的としています。
(従来の心理学がマイナスをゼロにしようとしていたのに対して、ポジティブ心理学はゼロをプラスに、プラスをより大きなプラスに、というイメージでしょうか。)
そして本記事のメイントピックの「3つのよいこと」は、ポジティブ心理学の中で研究され、一定の効果が確認されている実践手法です。
簡単でわかりやすく、それでいて効果がある、ということで、ポジティブ心理学の手法の中でも特に有名なようです。
3つのよいこと 標準版と簡易版
それでは、「3つのよいこと」のやり方を説明していきます。
と言っても、冒頭に記載した通り、基本的には
「寝る前に、その日あった良かったことを、3つ書く」
だけです。
すごく簡単そうですよね?
(…と書きつつも、いざやってみると「うーん、良かったこと良かったこと…」と最初は案外難しかったりもするのですが…汗)
もう少し難しくても大丈夫という方は、上記にプラスして、
「3つそれぞれについて、うまく行った理由も一緒に書く」
もやってみてください。
冒頭で紹介した塩谷教授の記事 [1] では、前者を「簡易版」、後者を「標準版」と呼んでいます。
後者が「標準」と呼ばれている理由は、「3つのよいこと」の効果を世に知らしめた、セリグマンらの2005年の実験では、後者の方法が用いられていたからです。
しかしながら、「簡易版」でも効果が得られたとする研究結果もあるようですし、多くの日本語記事ではこの簡易版を「3つのよいこと」として解説しているものも多いように感じます。
記載例
いざ始めてみようと思っても、どんな風に書けばよいのだろう?と変に難しく考えてしまって、時間がかかったり継続できなかったり、ということがあるかと思います。
そこで、いくつか記載例を載せておきます。
まずは、簡易版です。
続いて、標準版。
セリグマン氏の「ポジティブ心理学の挑戦」[3]から。
(良かったこと)夫がアイスクリームを買ってきてくれた
(理由)夫はときどき本当に気が利くので
(良かったこと)姉が健康な男の赤ちゃんを出産した
(理由)姉は妊娠中にきちんとした生活を送っていたから
標準版の上記2つの例は、どちらも、理由が自分自身とは直接的に関係ないものでしたが、当然ながら以下のような形でもよいと思います。
(良かったこと)仕事が定時に終わった
(理由)すべきことを明確にして、テキパキと仕事をこなしたから
(良かったこと)お風呂にゆっくり浸かって気持ちよかった
(理由)休息を大事にしようという心がけや、心の余裕を持てていたから
記載例は以上です。
いかがでしょうか?このくらいなら書けそうと思ってもらえたでしょうか?
効果はいかほど?
最後に、「3つのよいこと」の効果について、簡単に記載していきます。
もしご自身で試される場合に、どんな効果があるのかワクワクしながら試したい!という方は、ご注意ください。(次の「PERMA-Profiler」までは読んでいただいて問題ありません。)
PERMA-Profiler
効果を知るには、その効果を測るための指標が必要です。
ということで、その指標の1つである「PERMA-Profiler」を説明します。
「PERMA」とは、Wellbeingを構成すると考えられる、以下の5領域の頭文字です。[1]
Positive emotions(ポジティブ感情)
Engagement(夢中になって取り組むこと)
Relationships(他者とのよい関係)
Meaning(人生の意味や意義の自覚)
Accomplishment(達成)
詳細は割愛しますが、PERMAモデルでは、この5つの領域について評価することで、その人のWellbeingの状態を評価できる、と考えます。
そして、この5つの領域を評価する具体的な方法が「PERMA-Profiler」という訳です。なので、Wellbeingのものさし、的なものと思うとわかりやすいですね。
PERMA-Profilerは、日本語版も作成されており、以下のサイトで無料で測定ことができます。(23項目の質問から構成されていて、5~10分程度で試せますので、ぜひ一度ご自身でもやってみてください。)
研究によって結果にばらつきはあるが…
まず、「3つのよいこと」の効果を最初に示した、セリグマンらによる研究(2005)から。
被験者は、本記事でいう「標準版」を、1週間毎日、実施します。
その結果、統制群(実施していない人)と比べて、1週間後には幸福度が増進するだけでなく抑うつ度が低下し、しかもその効果が半年後も持続した、とのことです。
1週間だけで効果があるのもすごいなと思いますが、それが半年後も持続しているって「本当…!?」って感じですよね。
(1週間の実験の後も引き続き「3つのよいこと」をやっていたのでは?と思ってしまいますが、それに関しては私は確認していません。もしかしたら原著論文を読めば何か記載されているかもです。)
さて、日本においても、3つのよいことの効果を確認する実験がなされているので紹介します。[1, 4]
塩谷教授の研究 [1] では、主に大学生を対象として実験をしています。
記事の中では、以下の3つの実験について記載があります。
(1)ポジティブ心理学に関心がある人を対象とした実験
(2)学生に、課題として実施してもらった実験(標準版)
(3)(2)と同じだが、簡易版と標準版を比較した実験
これらの実験では統制群を設けているものではなく、1人の被験者の中で、実験の前後での、PERMA-Profilerの結果を比較するものとなっています。
具体的かつ正確な結果は原著を読んでいただくとして、ここではざっくりとした結果だけ記載します。
標準版は、1週間後の時点で効果あり。その後も効果は持続する。
簡易版でも、関心を持って実施した場合、1週間後の時点で効果あり。
主に「Positive emotions(ポジティブ感情)」の向上に効果あり。
続いて、文献[4]の実験を紹介します。
この実験では、標準版を1週間毎日実施してもらい、その直後とさらに1ヶ月後に、肯定的感情と抑うつ度、その他複数の指標を測定する、というものです。統制群を設けて、実施の有無で効果を比較をしています。
結果としては、肯定的感情は、1週間の実施直後に向上するもその後持続はしない、その他の指標は特に差は見られない、というものでした。
セリグマンらの実験結果を再現できなかった理由として、セリグマンらの実験の参加者は、実験に自ら応募してきた幸せになりたいという意欲の強い人たちだった一方で、この実験の参加者は実験の効果などは知らされずに実験に参加した人たちであり、この違いが効果の差を生んだ可能性がある、ということでした。
ということで、「3つのよいこと」の効果を、研究の実験結果をもとに簡単にまとめてみました。
研究によって結果にばらつきはありますが、効果はありそうですね。
やはり、簡易版は標準版よりは効果は劣るようですが、簡易版であっても、関心を持って取り組んだ場合にはそれなりの効果はあるみたいです。
まとめ
「3つのよいこと」について、やり方と効果についてまとめてみました。
ポジティブ心理学の実践方法として、お手軽ですし、研究によって効果が確認されているものでもあるので、ご興味があればぜひご自身で試してみてください。
私もまずは1週間試してみようと思います。
(というか、現在実践中…(^^))
PERMA-Profiler 日本語版を使用して、実施の前後で結果を比較してみても面白いと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
誤り、不適切な記述などありましたらご指摘いただけると幸いです。
参考文献
[1] 塩谷亨「ポジティブエクササイズ TGT(Three Good Things)を巡って」(北陸心理学会、2021)
[2] 神楽坂女子倶楽部、ポジティブエクササイズ「3つのよいこと」
[3] マーティン・セリグマン「ポジティブ心理学の挑戦 "幸福"から"持続的幸福"へ」(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014)
[4] 関沢洋一、吉武尚美「良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?」
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