伊豆文学を知る〜子鹿社へ
昨晩は吹き荒れる突風が伊豆半島を襲いどうなることかと思いましたが、朝起きてみたら穏やかな天気となっていました。
本日は再々延期となりスライドしてきた大室山の山焼きの日。このお天気なら開催されるだろう!と思いきや、、
なんと強風のため、来週の3月13日(日)に再再々延期となりました。残念だけど仕方がない。強風で延焼でもしたら一大事です。
いずれにしても大室山リフトにはアポイントを入れていたので、八幡野キャンプに滞在中の旅人・おきなお子さんと大室山へ行くことにしました。
大室山麓 さくらの里
まずは大室山のふもとを彩るさくらの里へ。園内には約40種1000本の桜が植栽されており、早い品種は9月下旬から咲き始め、5月に花開く桜へと。なんと8ヶ月にわたり様々な種類の桜がたえまなく咲き誇ります。
大室山リフト
こんなに風も穏やかで青空広がってるのに!大室山リフトの常務取締役・青木英明氏を訪ねます。
山焼きの実施は、当日朝6時30分に実行委員会の判定をもって判断するんだけど、強風により条件が整わないため中止としました。まだ確定ではないけど来週(3月13日)に開催する予定です。来週またおいでよ。
今日はこの後はどうするの?
いいね。天気も良いし。観光資源は、色んな意味でまだ(地域の人に)知られてない事があるんだよね。でもそれが地域の人にとっては当たり前のことだったりして。
改めて観光資源だよって認知されてないので、よそから来た人の方が「何これ!?」なんて発見があったりしてね。
「伊豆と言えば海の幸!」なんて言って、皆さんキンメとか魚介類を連想すると思うんだけど、植物からアプローチしても面白いよ。
伊豆高原では特殊な緯度経度でしか育たないヤマモモが採れるんです。この辺りだと浮山地区、DHC赤沢温泉ホテルあたりに群生地があって。
そうそう。バナナとかもそうだよね。暑い地域の高地で採れたバナナが美味しいって言うよね。条件揃ってなくても実はなるのかもだけど大きくならないとか。
ここ(大室山リフト前を指して)にもヤマモモがあるんだけど、雌雄ないと実がならないんです。ここのは雄なもんで残念ながら実はなりません。
せっかく来てくれたのに残念だったね。来週来れたらおいでよ。
是非いらしてください。点検が終わったらまもなくリフトが動き出すから、山頂に上がっていきなよ。今日は富士山見えるかな。。(窓を覗き込んで)見えるね。今日の富士山は、、75点かな!笑
大室山 山頂
山頂では見事な富士山が出迎えてくれました。
大室山は標高580mあり、伊豆単性火山群のなかでは最大の火山のひとつです。噴火活動は約4000年前の縄文時代後期初頭とみられ、流れ込んだ溶岩で城ヶ崎海岸が出来上がりました。
山頂には直径300m、周囲1,000m、深さ70mの大きな噴火口跡(スコリア丘)があり、周回する「お鉢巡り」ができます。1周約1キロで、所要時間の目安は約20分です。
周回するお鉢巡りは360°の大展望がひらけ、遮るものがありません。富士山はもちろん、太平洋に浮かぶ伊豆諸島、天城連山、さらに南アルプスまで望むことができる大自然のすばらしい景観に恵まれています。
大室山から南東へ流れた溶岩は相模灘を埋め立て、城ヶ崎海岸のまれな海岸をつくり出しました。元の海岸線から2kmも海へ流れ溶岩台地を作ったと言われています。だから城ヶ崎はアイランド気候なのです。
城ヶ崎海岸
次に向かったのは、大室山が噴火した時に流れ込んだ溶岩の凸先・城ヶ崎海岸へ。
全長48m断崖絶壁に架かった「門脇つり橋」はスリル満点の絶景人気スポット。海面までの高さは約23m、ビルでいうと7~8階くらいの高さです。
切り立つ崖と、渦巻く大波と、押し寄せる大迫力の眺めは、いつ来ても思わず声を上げてしまいます。いつまでも見ていられる、飽きることはないでしょう。
ここで用意しておいたお茶とおにぎりを食します。出発前ににぎった大根の葉と牛蒡とおかかを混ぜたおにぎり。美味しそうに頬張ってます。笑
大淀小淀
次に向かったのは大淀小淀。伊豆高原の海岸線沿いにある自然を楽しめる遊歩道・
城ヶ崎海岸自然研究路コースからひっそり降り口があります。
鎖の手すりがついた階段を、滑らないようにゆっくりと降りていくと、目線と同じレベルに広がる大海原を見渡せるフラットな岩場が現れます。大淀小淀です。
大室山から流れ出た溶岩が冷やされてできた柱状節理の岩場。柱状節理のくぼみにできた潮だまりが大淀小淀の由来です。波がなく透明度の高い天然のプールになっています。
これで大室山の頂上から流れついた海までをコンプリート。頭を使って得る知識だけではなく、身体を使って感じる体験があっての一次情報です。これは表現者にとって非常に大切なことなのです。
伊豆文学を知る
駆け足となりましたが、本日最後の訪問地・子鹿社にやってきました。2021年6月伊豆高原に生まれた出版社です。大室山が良く見えます。
太宰治の「斜陽」に思いを持って伊豆半島にやってきた旅人・おきなお子さんと、伊豆半島ゆかりの作家を巡る「伊豆半島文学散歩」を伊豆新聞で連載中の子鹿社代表・田邊詩野さんとはお話が盛り上がりそうです。
山焼き中止で残念だったね。
大室山の上からシャボテン公園見えました? あそこから溶岩が湧き出たんです。先ほど行かれた城ヶ崎や大淀小淀に至るまで、全部大室山から流れ出た溶岩台地なんです。
伊豆高原には、大室山が噴火した時の噴出物がたくさんあるんですけど、それを掘っていくと、一枚岩のような岩盤が出てくることもしばしばだったと聞いてます。
その地質から地震に強いという触れ込みもあって、昭和40年代に別荘地の開発が盛んだったと言われています。
そうだ。ちょっと、外にある竈門を見に行きましょう。
この竈門は建物の下から出てきた石で作られてます。武蔵美で造形をやっていた米屋の4代目の友人が設計してくれました。
二升釜を置いて炊くんですけど、昔話に出てくる柴(=薪よりも細い小枝)で二升炊けます。完全燃焼するように設計してるので、灰は残りません。
はい。完全燃焼できるように設計したんです。釜を置くとちょっと隙間ができて、これは煙突代わりです。
構造的にはここ(下部を指して)から空気を吸引する。吸引した空気が竈門の中でトルネードすることが重要なんだそうです。そうすると美味しいご飯が炊けるという。
設計は工業系の学校を出たガス屋の友人がしました。熱に関してのスペシャリストなんです。内部の仕組みやジグも作りました。
ここにあるべき相応しい竈門を作ろう!ということで考えた結果、作品のようになりました。中へ入りましょう。
活版印刷で使われる活字です。
もらったんですよ。辞めてしまう印刷所さんから。私は編集者ですけど活版を使って本を作るということではなくて、活字で刷るという重み。これ、持ってみてください。
言葉の重みと比例するのかな〜みたいな気がしていて。一本の活字は手のひらに感じないほどの軽さなのに。集まると重いんです。面白いですよね。
編集者は、本の企画から著者、スタッフ集め、予算管理、校正作業、仕様とデザインの指示、時には自分で原稿を書くことも、、、つまり全部ですね
はい。そうです。去年の6月に独立しました。まもなく初めての本が出るんです。
伊藤千史さんという作家さんで、本のタイトルは『ねこおち』。今年運よく岡本太郎現代芸術賞の特別賞になった作家さんです。
そう。イベントはHiBARI BOOKSという静岡市にある本屋さんでやるんです。元々、静岡の大きな本屋さんにいた人が独立してまだ2年くらいなんですけど、ギャラリーとカフェを併設した本屋さんです。
今は本屋さんを巡る状況は厳しくて、出版もご存知の通り厳しい業界なので。HiBARI BOOKSがオープンする時、壁を塗ったり、お手伝いして自分たちで作りました。
おきなお子さんは愛知ですよね。
山焼き、いつやるの?
一年位前に『is』で山焼きの記事を書きました。さっきの竈門のことも。壺中天の本と珈琲のたてのさんという方が作っている冊子です。
『TUGUMI』の事もこないだ新聞の連載で書いたんですけど、市川監督の奥様にお願いして当時の写真を送ってもらったんです。
(松崎)町民が出演したので、当時の出演者を探しました。はじめは知り合いの旅館に聞いたんだけど「周りにはいないなぁ」って。松崎町の観光課に聞いてもわからない。
『蔵ら』というおばあちゃん達がやってる食堂があるんですよ。そこの86歳になる方に手がかりがない事を話したら「え、うちのお母さん出たよ」って。
市川監督はキリンビールのコマーシャルを撮っています。熱海のアーティストさんのアトリエを使ったりしてドラマ仕立てのコマーシャルを作ったり。
松崎でも同様にコマーシャルを撮っていて、松崎を大好きになり『TUGUMI』のロケ地もここに、となったのではないかと言われています。
当時の松崎は、まだ小さい船がバスみたいに出ていたんですね。フェリーも来てたし。だから海の玄関口みたいな感じで港もすごく賑わっていたんです。
電車はないんです。
今も。西伊豆は電車ないんです。
ほぼ松崎オールロケ。すごいいいんですよ。みんな可愛いし。
そうそう。でも1秒くらいしか映らないんですよ。その人が安良里の観光協会の方なので、「伊豆半島文学散歩」の取材で行ってきました。三島由紀夫の『獣の戯れ』は安良里が舞台となっています。
太宰治も。
三津の安田屋旅館、それとすぐ近くにあった坂部酒店行かれましたか。坂部さんと仲良くされていたご縁で、太宰は沼津に滞在していました。
沼津には結構いるんですよ。有名どころだと飲んだくれの歌人・若山牧水。あと、井上靖は三島の親戚の家に下宿して、沼津の学校まで通学しています。
その頃のことを『しろばんば』の続編『夏草冬濤』で書いてるんですよ。それを読むと当時の沼津三島のことがよくわかります。
魅力があったんでしょうね。
先月から始まった「伊豆半島文学散歩」の連載は修善寺から始めました。泉鏡花のこと書いたんですけど、泉鏡花も新井旅館に行ってます。新井旅館はご覧になりましたか。
新井旅館はこの写真を見てもらうとわかると思うんですけど、なんとも言えない非日常的な感じがあります。もっというと修善寺は、達磨山が噴火して溶岩が流れてきた山裾の谷筋にある町なんです。
なので、なんとも言えない囲まれた感があって、達磨山方面から流れてくる桂川が街の中心を通っています。
新井旅館もそこにあるんですけど、温泉が沸いてるからです。昔、混浴だった温泉が川の真ん中に残っていて。それが象徴的なんです。
そうです。あそこから温泉が湧いています。
だから何とも言えない、私は「妖(あやかし)」と表現したんですけど、ちょっと不思議な感じがするんです。新井旅館も水上に建ってるような、何とも言えず。不思議なんです。
だから作家が、岡本綺堂も『修禅寺物語』を書いたり、泉鏡花もいろんな物語を書いてます。
まさにそういう感じです。新井旅館では、シャワーはあえて付けなかったと聞いたことがあります。当時、安田靫彦が設計した通りに残していて。素晴らしいですよね。
こういうところに泊まっていたから、書けた作品がいっぱいあるんだろうなって思います。
芥川龍之介も長く新井旅館にいましたし、菊屋(旅館)には夏目漱石が湯治に来ていました。夏目漱石が大量に血を吐いた、という場所が残っています。
湯ヶ島に行くと、川端がいた湯本館があります。梶井基次郎は伊豆の踊り子の校正を手伝うために、湯川屋に滞在しました。その頃、梶井はもう胸が悪かったので、その後も湯川屋で湯治をしました。
宇野千代も湯本館に泊まっていて、梶井基次郎は宇野千代と、付き合っていたと言われていますが、事実はわかりません。でも、人間としてお互い気が合ったことは間違いなく、毎晩のように通っていたそうです。
梶井基次郎は多くの素晴らしい作品を残しています。私は梶井が大好きなんです。
もうちょっと後になると、坂口安吾とかも伊東にいましたね。駅周辺がとても栄えていて、温泉街でもあったんですけど、当時は結構色街的な要素があって。
安吾巷談の中で伊東のことを結構書いているんですけど、駅前の女郎屋に行く話や、ヒロポンの打ち方とか。どういうレクチャーなんだという 笑
太宰も三島を舞台にした作品を二つ書いています。『老ハイデルベルヒ』と『満願』。どこにも三島とは書いてないんですけど。
その後もまだまだ話は盛り上がり、アーツカウンシルについて、SPACについて、レッツについて、地域に果たす演劇の在り方についてなどなど。深くディスカッションすることが出来ました。
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