谷川俊太郎さんが亡くなられた。 今日は一つ、これだけは世界の人々に伝えたいと思う。2003年、私がパレスチナ西岸地区で「世界の子どものための平和祭」に参加するにあたって、いただいたメッセージについてである。その原稿は、当時雑誌『詩学』に掲載した。 それから20年後の今、その文面をパレスチナの平和を願って私の個人誌「CASTER」の2005年新年号に再掲するつもりでいたのだ。拙誌では「パレスチナはどこへ行く」というテーマで連載を書いているが、新しい年を迎えたときに、もう一度谷
パレスチナはどこへ行くのか(3) 奇妙な果実 南部の木々に奇妙な果実がある 葉は血に染まり 根には血が滴っている 南部の風に揺れている黒い肉体 ポプラの木々からぶら下がっている奇妙な果実 のどかな南部の牧歌的な風景 腫れあがった眼 ひんまがった口 甘く爽やかな木蓮の香り そこに突然 焼けた肉の臭い ここにカラスがついばむ果実がある 雨に打たれ 風に吹かれ 陽に腐り 木から落ちる ここに奇妙な苦い果実がある 歌 ビリー・ホリデイ 詩 ルイ
パレスチナはどこへ行くのか(4) 新年に入ったところで、能登半島で大地震が起こった。1月22日時点の被害状況を、内閣府のHPから列挙すると、死者数232人。負傷者1279人。住家被害1万306棟。避難者数1万5717人、石川県の断水未解消4万9090戸、停電約5400戸。河川、下水道、道路、鉄道、物流、医療・保健・衛生、社会福祉、教育関連などが続く。 【またも忘れられていくパレスチナ】 亡くなられた方のご冥福を祈り、なかなか復旧に向かわないこの状況に心を痛めながら
※写真は、2003年、エルサレム「嘆きの壁」の前で。 パレスチナはどこへ行くのか(5) 昨年11月、私は「パレスチナはどこへ行くのか」と題して書き始めた。だが、書いているうちに、この表題は間違っていることに気づいた。パレスチナはどこへも行かない。パレスチナの地に紛れもなく(血を流しながら)存在している。パレスチナがどこかへ行くのではなく、私たちが去って行くのだ。パレスチナの人々は「あなたた
パレスチナはどこへ行くのか(12) ※写真は、2003年、エルサレムからベツレヘムに向かう抜け道。 詩の同人誌「鯨々」16号(8月1日)が「『イスラエルとパレスチナ問題』への接近」という小特集を組んでいる。その中で、同人の有澤祐紀子の「民族とは何か」という小文に注目した。彼女は、川崎修『アレント 公共性の復権』(1998・講談社)やハンナ・アーレント『全体主義の起源2 帝国主義』(20
パレスチナはどこへ行くのか(11) ※写真は、2003年の筆者、ヨルダン・アンマンで。 7月30日現在、ガザ側死者3万9400人(ガザ保健当局)。9号では13日、3万8443人と記したので、約半月間で956人。オリンピックが開かれている現在も、毎日毎日60人近くの命が、イスラエルによって奪われ続けていることになる。 パリ・オリンピックに参加したパレスチナ選手(競泳男子100メートル背
パレスチナはどこへ行くのか(6) パレスチナは現在、国連に(投票権のない)オブザーバー国家として認められているが、4月2日に正式加盟を申請した。パレスチナが国連への正式加盟を申請したのは2011年以来で、当時はアメリカが拒否権行使を明言したため安保理での協議は棚上げされた。今回は採決まで至り、日本を含む十二か国が賛成したものの、やはりアメリカが拒否権を行使して否決されてしまった。バイデン大統領
パレスチナはどこへ行くのか(7) 5月14日の「中日新聞」夕刊一面に「国連車攻撃 職員死亡(ラファ、現地スタッフ以外で初)」という大きな見出しの記事が載った。同紙17日の国際面の見出し記事は「イスラエル兵5人死亡(ガザ北部 味方が誤射、4人重傷)」である。日々100人近くのパレスチナ人(そこには国連の現地スタッフも多数含まれている)が亡くなっていても記事にはならない。ここにも記事を書いた記者の無意識の差別意識が表れている。国連の現地スタッフ以外(つまりパレスチナ人以外)
パレスチナはどこへ行くのか(10) フランス・パリで、7月26日から8月11日までの17日間オリンピックが、8月28日から9月8日までの12日間パラリンピックが開催される。世界ではまだ戦争や紛争が継続しているのに、何が「平和の祭典」だ、と思うのだが、スポーツ好きな私は、それでも選手たちの挑戦する姿に心打たれているだろうか。 【パレスチナのオリンピック代表】 パレスチナ・オリンピック委員会(POC)は、7月1日、パリ五輪代表に6選手を選んだと発表した。男子5人、女
パレスチナはどこへ行くのか(9) 【イスラエル軍のガザ攻撃は止むことなく続いている。 連日100人もの人々が、あの狭いガザで殺され続けている】 なんだかイスラエルの攻撃は中断しているかのように、テレビや新聞の報道は激減している。このようにパレスチナは忘れられていくのだ。これまで何度も何度も忘れられてきたように。戦争の継続が忘却を招くというなんという皮肉。 人間は残念なことに、どんなことにも慣れてしまう。慣れが麻痺を生み、麻痺は感覚、判断を鈍らせる。そして、その状
6月24日現在のガザでの死者数3万7626人(ガザ保健当局)。新聞やネットなどのメディアで報道は激減しているが、前号で記した5月16 日現在の死者数が3万5272人であったので、相変わらず毎日60人ものパレスチナ人が殺され続けていることになる。なんというこの世界だろう。 さらに、7月5日の「中日新聞」には、「ヨルダン川西岸最大級の接収か」の記事があった。「AP通信は3日、イスラエルが占領地ヨルダン川西岸で、過去30年で最大の土地接収を承認したと報じた。(略)パレスチナ