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『コントな文学集・第二集』

『コントな文学集・第二集』

【目次】

『芥川賞作家なのに親近感』
『ベーブ・ルースや軽自動車の所有者のように』『Z世代からの提言』
『憧れていたプロポーズ』
『ファーストキス』
『地獄すぎる』
『人生200年時代』
『話が入ってこなかった』
『心配性inサンポートホール高松』
『佐倉莉子(Fカップ)と密室殺人事件』
『心が泣いている』
『日本一のサッカー選手の秘密の夢』
『絶望の瞬間』
『もったいないおばけと夢見る若者』
『もったいないおばけと贅沢な時間』
『もったいないおばけと新人記者』
『それでも夕焼けは綺麗だった』
『キラーフレーズ一発で僕は』
『あの日、僕には勇気が足りなかった』
『宇宙人にドMを理解させなさい』
『すべてのホームシッカーに花束を』
『ファーストキスだったのに』
『初任給と母さんの涙』
『百年の恋も冷める時』
『生きる』

以上25編収録


コントな文学『芥川賞作家なのに親近感』

芥川賞を受賞した小説家なのに・・・

マジで?

信じられない・・・

家の本棚にマンガしかないじゃん。

しかもドラゴンボールとワンピース全巻揃ってんじゃん。

王道中の王道じゃん。

芥川賞とか純文学って、難しそうで取っ付きにくいイメージがあったけど親近感湧くなぁ。

「え?芥川賞作家なのに家具は全部ニトリで揃えたの?」
普通じゃん。
親近感湧くなぁ〜。

「え?芥川賞作家なのに服はユニクロか無印で買ってんの?」
庶民的〜。
親近感湧く〜。

「え?芥川賞作家なのに、いつも自炊してるの?」
家庭的〜。
親近感〜。

「え?芥川賞作家なのにNISAとiDeCoもやってんの?」
安定感〜。
親近感〜。

「え?芥川賞作家なのに朝はパン派なの?」
同じ〜。
親近感〜。

マジで親近感エグいわ、この芥川賞作家は。

マッチングアプリで出会った男は、まさかの芥川賞作家だった。

芥川賞作家なのにマッチングアプリ使ってたり、芥川賞作家なのに爽やかイケメンで、芥川賞作家なのにコミュ力が高くて親近感が湧いたから初対面の日にお持ち帰りされちゃったけど、今夜だけで4年分位の親近感が一気に湧いてる感じ。
親近感湧きすぎて今すぐ入籍できるわ・・・

朝帰りして本屋で芥川賞受賞作品を買って読んでみたけど・・・

う〜ん・・・

普段ファッション誌とマンガしか読まない私には、芥川賞作品は難しくてよく分からん。

この本は親近感が沸かないなぁ〜。


コントな文学『ベーブ・ルースや軽自動車の所有者のように』

元気になってまた大好きな野球がしたい。

その為には手術を受けて病気を治さなくちゃいけない。

でも手術の成功確率は30%だ。

手術を受ける勇気が出ない僕の病室に現れたのは、ベーブ・ルースのようなホームランバッターじゃなくて軽自動車の所有者でした。

「俺はベーブ・ルースじゃないから君の為にホームランを打つ約束はできない。代わりに今から軽自動車に乗って六本木でナンパをする。もし俺がナンパに成功したら手術を受けてくれないか?」

軽自動車の所有者の年齢は30歳。
年相応で平均的なルックスと身長の一般男性。
所有している中古の白い軽自動車は10年落ちで12万キロ以上走っていた。

さすがに無謀過ぎる。ほとんど自殺行為だって子供の僕でも分かる。

でも軽に乗って六本木でナンパに成功したらホームランを打つより凄い事だと思うし、とても勇気がいる挑戦だと思った。

六本木に移動した軽自動車の所有者がナンパする様子を僕は病室でモニタリングした。

「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」

「・・・」

港区女子に無視される軽自動車の所有者。 

「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」

「頭大丈夫ですか?ここ六本木ですよ?」

港区女子に不審がられる軽自動車の所有者。

「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」

「軽のくせに六本木でナンパしてんじゃねえ」

港区女子にストレートな正論で罵倒される軽自動車の所有者。

チャレンジ開始から5時間が経過した。100人以上の港区女子に声を掛け続ける軽自動車の所有者。

何度失敗しても、何度恥をかいても、何度傷付いたって僕の為に挑み続ける姿に胸が熱くなった。

そして奇跡が起きた!

0時を過ぎた頃、CLUB帰りの泥酔した港区女子を軽自動車の所有者がナンパに成功した。

僕には軽自動車の所有者が、まるで逆転満塁サヨナラホームランを打ったように見えた。

きっと相手がシラフだったら無理だったと思う。

それでも僕は感動で涙していた。

いつか僕も人に勇気を与えられる大人になりたいと思った。

大人になって僕はプロ野球選手になった。

今度は僕が、あの日の軽自動車の所有者のように誰かに勇気を与える番だ。

「という訳でサトシ君、僕が今夜の試合でホームランを打ったら勇気を出して手術を受けてくれないか?」


コントな文学『Z世代からの提言』

「老害ですね」

「考え方が古い人達です」

「世間とズレてる感じがします」

「上から目線がウザい」

「話が長い」

「話が回りくどい」

「若者に対して批判的だと思う」

「くしゃみが大きくてうるさい」

「加齢臭なのかなぁ?臭いイメージがあります」

「俺達が若い頃は○○○みたいな昔話が始まると、聞いてあげるのが正直しんどいです」

「頑張ってカラオケで最新のアニソン歌ってる姿を見ると、無理すんな、懐メロ歌ってろって思う」

「若い人と仲良くしたいのか、若者に媚びてくる感じが残念ですね」

「インスタとかTwitterとかTikTokとか、昔流行った○○知ってるか?クイズを出してくるのマジでダルいです」

「必死に若作りしてるZ世代は見てて痛々しいッスねぇ」

「え?Z世代って何ですか?
おじさん、おばさん世代の人達の事?
ん〜、興味無いでーす」

渋谷で令和生まれの若者に聞いた、Z世代に対するリアルな意識調査を実施した街頭インタビューのVTRが終了した。

放送はスタジオに切り替わってお昼の情報番組のMCが語り始める。
番組MCは、かつてチャンネル登録者数500万人超えの人気YouTuberからタレントに転身したZ世代を代表する有名人だ。

「いやぁ、Z世代に対して耳が痛い意見ばかりでしたね。
かつて自分が若者だった頃、おじさん世代に対して思っていた事を、今度は自分がおじさんになった時に若者から言われる日が来るなんて思っていませんでした」

20年前、10代を中心に絶大な支持を得て総フォロワー数が160万人を超えていた元インフルエンサーの中年女性コメンテーター(Z世代)が続く。

「私もさっき、若い音声さんにマイクを付けてもらう時に『ねぇ、あなたヌートバーって知ってる?』ってペッパーミルパフォーマンスしながら聞いちゃいました」

「昔、流行った○○知ってるかクイズ出しちゃったんですね」

「はい、音声さんを困らせてしまいました。反省してます」

「テレビを観ている令和生まれの皆さんに、Z世代を代表して提言させてもらいます。
令和生まれ世代だって40代、50代の年齢になったら、次世代の若者達に老害扱いされる日が来るかもしれないのです。
目上の方々に対する言動は、いつかブーメランのように自分に返ってきますよ。
どうかZ世代やお年寄りを、未来の自分の姿だと思って優しく寄り添って下さい、お願いします・・・

さぁ、CMの後は真夏のお引っ越し、カルガモ親子の大冒険に密着します」


コントな文学『憧れていたプロポーズ』

石﨑将太33歳。

高校卒業後、青森から上京して寿司職人になり10年以上が経過した。

俺はついに明日、小さいながらも夢だった自分の店を出す事になる。 

まるで一国一城の主になった気分だ。

オープンを前日に控えた店内のカウンターに職人見習いの頃から、ずっと俺の事を応援し支え続けてきてくれた彼女を座らせた。

自分の店を出すという夢は、いつしか俺と彼女2人の夢になっていた。

俺は今から彼女に憧れていたプロポーズをする。

これからは夫婦として、そして寿司屋の大将と女将として、共に支え合って歩んでいきたいという願いを込めて渾身の大トロの握りを彼女に作って差し出した・・・

ガギッ「アガァッッ」

シャリの中に忍ばせた結婚指輪を彼女が思いっきり噛んでしまった。

奥歯が割れた音と断末魔のようなうめき声が2人の夢の城に鳴り響いた。


コントな文学『ファーストキス

クラスメイトの亮君と付き合って3ヶ月。
デートは毎週末している。
でもまだキスはしていない。
高校3年生同士が付き合って3ヶ月よ?
さすがにもうキスしてOKでしょ。
3ヶ月付き合ったら無理矢理押し倒してキスしても文句言われる筋合いないわ・・・

絶対今日のデート中にキスしたい。
マックでお昼食べてる時も、映画観てる最中も、カフェでお茶してる時も、サイゼリヤで晩ご飯食べてる時も今日はキスの事しか考えられない。
つーかさぁ、さっさとキスしてこいよ。
こちとら1回目のデートからずっと待ってんだよ。

「凛香ちゃん、そろそろ帰ろうか」

今日もキスしないで私の家の近所まで送ってくれてバイバイするパターンなの?

「今日も楽しかったね」

人気の少ない夜道を手を繋いで歩いてんだよ?

「凛香ちゃんは来週どっか行きたいトコある?」

今日もキスしないの?

「俺はカラオケ行きたいなぁ」

ねぇ、キスしてよ。

「じゃあ、また明日学校で」

またかよ、この意気地なし!
あーあ、仕方ないなぁ・・・

「ねえ、亮君、目瞑って」

「え?」・・・

「お、俺、実はキス初めてだったんだよね」 

でしょうね。

「凛香からキスしてくるなんて思わなかったよ」

おいおいおいおいっ!
キスした途端に呼び捨てかよ。
急に調子乗ってんじゃねえよ、童貞のクセに。

「凛香は俺とキスしたくてキスしてきたの?」

ウザッ。
何、その質問?
こいつは私に何を言わせたいんだ?

「でも、まさかいきなり舌入れてくるなんて思わなかったぜぇ」

ずっとおあずけ状態だったからなぁ・・・
がっついてスマン。
そこは謝りたい。
でも、そんな恥ずかしい事言うなよぉ。

「アレ?もしかして、キスとか慣れてる?」

は?

「凛香は俺以外の男とキスした事あるの?」

今抱いてるこの感情を人は殺意と呼ぶのかな?

「あーあ、本当は今日、俺の方からキスしようと思ってたのに残念・・・
ファーストキス奪われちまったぜぇ♥」

よしっ、別れよ。


コントな文学『地獄すぎる』

「もうっ、こんな所で触ってこないでよ」

「大丈夫だよ、裕貴寝てるから」

確かに僕は夕食後、リビングのソファでテレビを観ながらウトウトと寝落ちしてしまったようだ。
だけど、両親の会話が聞こえて目が覚めた。

「なぁ、ちょっとぐらい良いだろ?」

「リビングではダーメ♥」

この危険な香りがする状況で僕は寝たふりする事を選択した。
後にこの選択は間違っていたと後悔する事になる。

「裕貴が起きたらどうすんのよ」

「大丈夫だよ、こいつ一回寝たらなかなか起きないから」

父さんは寝落ちした中1の息子がいるというスリルも含めて母さんと楽しもうとしているのか?

「ねぇ、ママのおっぱいが飲みたいでちゅ♥」

「本気でやめて」

本気でやめてくれ、父さん。

「ここじゃあダーメ♥」

ここじゃダメって夫婦の寝室でだったら構わないって意味なのか?
母さんも、まんざらでもないって感じが伝わってきてマジで地獄すぎる。

「久しぶりに一緒にお風呂に入りたいな♥」

「バカ、何言ってんのよ」

大人になったら尊敬している父さんと同じ消防士になるのが夢だったけど・・・
他の職業目指そうかな。

「お風呂でおチンチン洗ってほちいでちゅ♥」

「もうっ、バカね♥」

翌朝、僕は父さんと母さんの目を見て話す事ができなくなっていた。

そして、僕の思春期と反抗期が始まった。


コントな文学『人生200年時代』

西暦2220年。

令和生まれから人類初の200歳を迎える人間が現れた。

人生200年時代の幕開けである。

人類初の200歳に達した高木蓮さんが記者のインタビューに答える。

Q.200歳を迎えた感想を率直に教えて下さい。

一言で言えば医療のバカヤローです。
医療が進化し過ぎて200年も生かされて、マジでいい加減にしろって思ってます。
高齢者歴135年。後期高齢者歴125年。
公的に135年も高齢者をやってんスよ。
こんなに長い期間高齢者やっても嬉しくも楽しくもないし、正直こんなに長生きしたくなかったよ。

Q.長生きの秘訣は?

だからぁ・・・
医療が進化し過ぎたからだって言ってんだろ?
医療が進化し過ぎて体感的に、肉体は75歳位の時をキープしたまま200歳になったって感じなんだよ。
健康寿命の長さの秘訣って意味なら栄養バランスの良い食事と適度な運動を心掛けてるよ。
長生きしたって健康じゃないとマジで地獄だからね。

Q.200年生きて何か困っている事はありますか?

毎年の事だけどお年玉だね。
孫の孫の息子にまでお年玉あげなきゃいかんのよ。
孫だって100歳超えたババアなのに今だに「お年玉ちょうだいお爺ちゃん♥」って甘えてきやがる。
薬も進化し過ぎて認知症も治っちまう時代だからボケたフリしてやり過ごす事もできなくて本当に困ってるよ。


Q.夢はありますか?

無いよ。
長生きしたって金が無けりゃ夢も希望も無いんだよ。
人生200年時代のせいで年金制度は完全に崩壊。働かないと生きていけないから200歳なのに週5で新聞配達とマックでバイトもやってんだよ。

Q.最後に若者へメッセージをお願いします。

頼むから早く楽に逝かせてくれる法律作ってくれ。


コントな文学『話が入ってこなかった』

通り雨の帰り道、私は密かに憧れていた同じ大学に通う斉木先輩と歩いていた。

雨が上がって南の空に虹が掛かった。

「虹ってね、雨上がりや水しぶきが飛び散るときに見ることができる自然現象で、光が雨滴や水滴に当たって反射して屈折していることによって生まれるんだ。
通常は7つの色で構成された円弧状の形をしていて、赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、紫の順に並んでいるんだよ。
一時的で幻想的な美しい光景だからこそ、昔から多くの人を魅了してきたんだろうね」

博識な斉木先輩が虹の説明をしてくれた。

だけど私は雨に濡れて白いポロシャツから、がっっっつり透けて見えてる乳首が気になって話が入ってこなかった。

なんなら虹の美しさも半減してしまった。

そして雨水が蒸発して空へ消えていくように、斉木先輩への想いも消えていった。


コントな文学『心配性 in サンポートホール高松』

僕は心配性だ。

心配性な僕は今日、ヒット曲が1曲だけのシンガーソングライターのライブに来た。

有名なヒット曲が1曲しかない。
しかも3年前の曲なのに地方の1500人キャパのホールが埋まるのか心配していた。

せめて1000人以下のキャパのホールでやった方が無難じゃないのかと心配したけど、8割以上埋まった客席を見て僕は一安心した。

だが、次の心配が僕を襲う。

唯一のヒット曲をライブの何曲目に歌うのか心配になってきたのだ。

セットリストを決める会議で「1曲目からいきなりアレ歌って盛り上げませんか?」とか言い出すバカなスタッフがいたらどうしようと心配になる。

もし採用されて1曲目から唯一のヒット曲を歌ってしまったら、目的を果たしてお客さんが一気に帰ってしまう可能性が心配だ。

じゃあライブの中盤だったら良いのか?

いや中盤でもまだ早い。
ヒット曲は1曲しかないのだ、やるなら後半だろう。

しかしアンコール前に唯一のヒット曲を歌ってしまうと、誰もアンコールしなくなるんじゃないかと心配になってくる。

一方でアンコールまで唯一のヒット曲を歌わなかったら、アンコールでも唯一のヒット曲を歌わないかもしれないって心配も出てくる。

もしも唯一のヒット曲を歌わないままライブが終了してしまった場合、チケット代は返金してもらえるのか心配になってきた・・・

「次が最後の曲になります、聴いてください」

結局、シンガーソングライターは最後まで引っ張ってから紅白でも歌った唯一のヒット曲を歌い始めた。

しかし僕の心配のナナメ上をいく弾き語りのアコースティックバージョンだった。

唯一のヒット曲をアコースティックバージョンで歌い終わりステージを去るシンガーソングライター。

僕は、いや僕達は本気でアンコールした。
アコースティックバージョンでは元が取れないと心配したからだ。

アンコールに応えてシンガーソングライターがステージに戻ってきた。

そしてアンコールの最後の曲になって唯一のヒット曲を、あの国民的大ヒットソングを普通のバージョンで歌ってくれた。
客席が喜びと安心と歓声に包まれた。

だが、1回目のサビはマイクを客席に向けてお客さんが大合唱するパターンだった。

もしかして全てのサビを客が歌うパターンなのかと心配したが、その後のサビはシンガーソングライターがキッチリ歌ってくれた。

色々と心配事が多いライブだったが結果的には大満足だった。

友達が一緒に行きたいと言うから付いて来たけど、唯一知ってるヒット曲以外もライブの生演奏で聴くと、良い曲ばかりに思えたから帰りに物販コーナーでヒット曲が1曲だけのベストアルバムを買った。

「朝から3軒巡ってさぬきうどん食べてきました」と地方公演ならではのリップサービスを交えたMCも好感が持てる人柄が滲み出て好きになった。

またツアーで高松に来たらライブに行こうと思う。

そして僕はライブ中、ずっと一人暮らししてるアパートのエアコンのスイッチを切ったのか心配だったので家路を急いだ。


コントな文学『佐倉莉子(Fカップ)と密室殺人事件』

私の名前は佐倉莉子。大学二年生。

冬休みにスキーを楽しむ為、友人と雪山の山荘に宿泊している。

そして私達が宿泊する山荘で殺人事件が起きた。

殺されたのは同じ宿泊客の大学教授の男。
どうやら密室殺人らしい・・・

偶然、山荘に宿泊していた高校生探偵の工藤新二君が事件を解決する為に山荘内にいる全ての人間(従業員3名と宿泊客9名)を食堂に集めた。

「犯人は、この中にいます」 

お決まりの決めゼリフを言い放った直後、高校生探偵が私の胸をチラ見した事に気付いた。

え?今、このタイミングで?

私はニットのセーター✕美人女子大生✕バストFカップという無双の組み合わせ。
健康な男子高校生には刺激が強すぎる。
無理もないか・・・

ちなみに男というバカな生き物は女性に気付かれないように胸をチラ見しているようだが基本的にバレている。

特にバストが豊満な女性程、胸をチラ見される経験値が多いので察知能力に長けているのだ。

「犯人は・・・この山荘のオーナーの川村さん。
あなたです」

言い終わりに高校生探偵はまた私の胸をチラ見した。

そして高校生探偵はオーナーの川村さんが行った密室殺人のトリックを説明し始めた。
もちろん説明中にも私の胸を何度かチラ見している。

オーナーの川村さんが犯行を認めた。

川村さんが殺人の動機を私達に話し始める。
殺害した大学教授の男とは旧知の知り合いらしい…

川村さんの話を聞きながらも高校生探偵は私の胸を3回チラ見した。

そして・・
ま、まさか・・・
あなたまで?

犯人の川村までもが私の胸を確実にチラ見した。

ねぇ、状況分かってる?
あなた、殺人事件を起こしたのよ?
おっぱいチラ見してる場合じゃないのよ?

警察が到着した。
川村に手錠が掛けられる。

見納めって訳ですかい?
連行される際、川村は最後のチラ見をした。

川村が捕まり事件は解決したが、個人的には高校生探偵もチラ見し過ぎ罪で一緒に逮捕してほしかった。

そういえば、殺害された大学教授のおじさんにも山荘の廊下ですれ違った時、胸をチラ見されたわ。

私は改めて思う。

男って本当、バカな生き物ね。


コントな文学『心が泣いている』
 
この店の大盛りって、こんなに大盛りなのか・・

特盛りを頼まなかったのは不幸中の幸いだった。

俺は、つけ麺の大盛りを頼んで、大盛り分を丸々残してしまった。 

だってこんなに大盛りなんて思わなかったからさ。

悔しいなぁ・・・

恥ずかしいなぁ・・・

何で、こんな事になっちゃったのかなぁ?

そっかぁ・・・

こんなに大盛りだなんて思わなかったからだ。

そもそも並盛りの量が大盛り位あるよなぁ・・・

麺も思ってたより、太かったなぁ・・・

これは仮説だが、お金が無い学生さんや夢を追って上京してきた若者に、お腹いっぱい食べさせてあげたいという店主の親心とサービス精神で相場よりも多くの麺を提供してくれているのかもしれない。

もし、そうだとしたら大盛りの量が多くて残した事をお店のせいにしようとした自分が情けない。

ぽかぽか暖かくて南風が気持ちいい休日の昼間。
自分の意思で大盛りを注文したんだから、残しちゃいけないって限界まで頑張って食べた。

それでも大盛り分を残してしまって、こんなに惨めで申し訳ない気持ちで店を後にするなんて、お腹ペコペコだった入店前は想像できなかった。

きっと店員は『大盛り頼んどいて大盛り分を残したバカ野郎』って思ってるだろうなぁ・・・

だってさ、大盛り注文した時に店員さんはちゃんと「当店の大盛りは、かなり量が多いですけど大丈夫ですか?」って確認してくれてたんだもん。

俺、調子に乗ってたのかなぁ?

何だか俺という存在が、ちっぽけに感じる。

そんな俺なんかにも、優しく抱きしめてくれるように南風が暖かくて、また泣けてくる。


コントな文学『日本一のサッカー選手の秘密の夢』

子供の頃からの夢が叶ってJリーガーになった俺は高卒ルーキーのプロ1年目からJリーグ得点王とアシスト王に輝いた。

そしてオリンピック日本代表メンバーにも選出され日本サッカー史上初の金メダルを獲得した。
優勝に大きく貢献した俺は大会MVPに選ばれた。

若さと才能と実力を兼ね備えた俺は、ヨーロッパのビッグクラブへ移籍して強豪リーグで切磋琢磨し、さらなる成長とワールドカップで日本を初めてのベスト8以上へ導いてほしいという期待を日本中から掛けられている。

既にバルセロナ、アーセナル、バイエルン・ミュンヘンなど有名なビッグクラブから獲得オファーの噂があり、所属しているJリーグクラブのフロントも高額な移籍金を設定していると耳にした。

サポーターは俺に残留してほしいと思いつつ、ビッグクラブで活躍する姿も見たいし、当然いつかはヨーロッパのクラブに移籍するだろうと思っている。

まだ1年目で移籍前なのに、いつかヨーロッパから戻ってきて最後はJリーグでプレーしてほしいと今から話している気の早いサポーターまでいる。

周りは俺に向かって、どいつもこいつも
「どうせいつかは海外行くんでしょ?」
「どうせ海外に行きたいんでしょ?」
って顔してやがる。

所属するJリーグクラブのサポーター、フロント、海外のクラブ、そしてワールドカップの時だけ騒ぐようなにわかサポーター。
プロ、アマ、ファン、マスメディア・・・
全てのサッカー関係者が当然、俺が海外のクラブに移籍するという前提でいるのだ。

それはサッカーに限らず野球でも他のスポーツでも
同じだろう。
高額な年俸、自身の成長と飛躍を求めて海外のレベルの高いチームやリーグへ移籍する。

現代では、それが当たり前になり過ぎている。

だからこそ、俺は世間に対して『本人を置き去りにして周りが勝手に決めるな』と言いたい。

実は・・・

俺は・・・

本当は・・・

ずっと日本に住み続けたいんだ!

海外のクラブに移籍したいなんて一言も言っていないし思った事もない。
金とかサッカー選手としてのステータスや高みよりも、俺は日本に住み続ける方を選びたい。

みんながみんな、海外行きたいと思ってると思うなよ。

ヨーロッパに移籍したくない理由を箇条書きしてみた。

・治安が不安

・メシが不味そう(日本人の口に合う店が少そう)

・自炊は面倒臭いし栄養バランス考えたメシなんて作れない

・外国語なんか勉強したくないし日本語喋りたい

・海外に友達いないから海外行ったら淋しい

・コンビニでジャンプ立ち読みできない

・美味しいラーメン屋、寿司屋、焼肉屋行けない

・好きなドラマは時差無しでリアルタイム視聴したい

・観たい映画あっても映画館行けない

・好きなアーティストのライブに行けない

・彼女欲しいのに日本人女性との出会いが減る

・料理だけじゃなくて掃除も洗濯もしたくない。
できれば俺は実家に住みたいんだ。

そんな理由で海外移籍しませんって正直に世間に言えるか?

海外には代表戦と旅行の時だけ行きたいですなんて世間が許してくれるか?

絶対に言えないし、誰も許してくれないさ。

自分の心に正直に生きる為に、ビッグクラブからのオファーを断って日本に残っても、世間から叩かれ過ぎて日本で生きていけなくなりそうだ。

わざわざ海外に移籍しなくても、Jリーグでも充分に成長できると思っているし収入だって満足している。

そしてJリーガーとして日本代表戦で頑張ってワールドカップで優勝したい。

それが本音なんだけど、誰にも言えない。

2年後。
世間体を気にしてヨーロッパのビッグクラブに移籍した俺はサッカー日本代表の中心選手として活躍しワールドカップで日本を初のベスト8に導いた。

20代半ばで名実ともに日本一のサッカー選手と呼ばれるようになった俺は4年後のワールドカップで日本をベスト4以上に導く事を期待されている。

つまり、まだまだ世間が日本には帰らせてくれなさそうだ。
次のワールドカップで優勝するか30代になったら許してくれるのかな?

子供の頃からの俺の夢はJリーガーでした。
そして夢が叶ってJリーガーになりました。
今は不本意ながら海外のクラブに所属しているフットボーラーです。

今の俺の夢もJリーガーになる事です。
早く日本に帰って、日本で住んで、できれば生まれ育った地元にあるJリーグクラブに所属して実家からスタジアムに通いたい。
アウェーの試合の時は県外で美味しい料理を食べたり、観光を楽しみたい。

秘密の夢に向かって今日も俺はサッカーを続けている。


コントな文学『絶望の瞬間①』

修学旅行・・・

ハワイから島根に変更だってさ。

コントな文学『絶望の瞬間②』

遠距離恋愛になって1年ぶりに会えたのに・・・

ごめんね。 

生理来たっぽい。

コントな文学『絶望の瞬間③』

ヤバッ、旦那帰ってきた。隠れてっ!

コントな文学『絶望の瞬間④』

1週間前から当校のプールの水が出しっ放しの状態になっていた事が判明しました。

片山先生、何か心当たりありませんか?

コントな文学『絶望の瞬間⑤』

血圧・・・250っ!?

コントな文学『絶望の瞬間⑥』

1年前から計画してお金を貯めて、貯金とボーナスを注ぎ込んで有休を使ってアメリカへ・・・
 
大谷翔平、試合前の練習中にケガして欠場かぁ。

コントな文学『絶望の瞬間⑦』

お前は親友だって言ってるけど、北村はお前の事、ただのクラスメイトだって言ってたぜ。

コントな文学『絶望の瞬間⑧』

おい、誰だよ。トイレ流し忘れてる奴は?

コントな文学『絶望の瞬間⑨』

懲役・・・316年っ!?

コントな文学『絶望の瞬間⑩』

12時から俺の8股ゲス不倫の記者会見が始まる。

昨夜は恐怖と緊張で全く眠れなかった。

ハードな会見になる事が予想されるので、少しでも睡眠を取っておきたいと思い、明け方に酒の力を借りてようやく眠る事ができた。

起きたら12時だった。

マナーモードにしてあったスマホの着信履歴は100件以上。

もう一度眠って、そのまま永眠してぇ・・・


コントな文学『もったいないおばけと夢見る若者』

はじめまして、もったいないおばけです。
お前、何で俺が現れたか分かるか?

そうか、分からんかぁ・・・

お前は身長190cmを超える恵まれた体格と、類まれなる才能を活かして160キロ台の速球を投げ、高校通算100本以上のホームランを打ち、投打でチームを甲子園優勝まで導いた高校No.1プレイヤーや。

そんなプロ野球やメジャーのスカウトが注目する、次世代の二刀流プレイヤー候補が「ドラフトを辞退してお笑い芸人を目指します」なんて、もったいない事を言い出すから俺が来たんや。

何?
NPB(日本野球機構)やMLB (メジャーリーグベースボール)じゃなくてNSC(吉本総合芸能学院)に行きたいやと?
上手い事言いましたみたいな顔すんなボケ。
しょうもないねん。

何?
R1グランプリで優勝してピン芸人日本一になる事が夢やと? 
WBCで優勝して世界一の野球選手になる事を夢にしてほしいな。

何?
そもそも野球は特待生で学費免除になるからやってただけ?
女手一つで育ててくれるお母さんの負担を減らしてあげたかった?
だったら尚更プロ野球選手になってお母さんを楽にさせてやらんかい。

何?
なりたくもないのにプロ野球選手になるのはチームにもファンにも野球にも失礼やと?
お笑い芸人になるのは子供の頃からの夢で、芸人になって売れてお母さんに家を建ててあげたいやと?

そうか・・・
お前が言ってる事は正論や。
若者の夢を邪魔する資格なんて誰にも無いよな。
俺が悪かった。
もったいないけど諦めるわ。

何?
R1グランプリで優勝する為のフリップネタを作ったから見てほしいやと?
それは楽しみやな、拝見させてもらうわ。

『こんなプロ野球選手は嫌だ』
「プロ野球選手なのに高校球児みたいな坊主頭」

『こんなプロ野球選手は嫌だ』
「プロ野球選手なのに夜のバットは三振王」

『こんなプロ野球選手は嫌だ』
「メジャーリーガーなのにチ○コは少年野球」

もうええわっ。おもんないねんっ。
R1一回戦で敗退するネタや。
今すぐフリップを破って燃やせ。
お前はセンス無いから二度とお笑いすんなよ。
黙って野球だけやっとけ。


コントな文学『もったいないおばけと贅沢な時間』

はじめまして、もったいないおばけです。

なんで俺がハワイまで来たか分かるか?

そうか、分からんかぁ・・・

お前はハワイに来て3日間、ビーチで読書と昼寝だけして過ごしてる。

買い物は?観光は?スキューバダイビングは?

せっかくのハワイなんやから、ちゃんと予定を組んで満喫せんと、もったいないやろ?

何?
休みを取ってハワイに1週間滞在して、買ったままで手付かずだった本と観たかった映画をまとめて見ようと思ってたやと?

何?
スマホは日本に置いてきた?

朝、起きてビーチを散歩。
朝食後はビーチで読書。
ランチを食べたらまたビーチに戻って読書するか昼寝する。
夕焼けを眺めてからホテルに戻り、ディナーを食べてシャワーを浴び、ワインを片手に映画を観てから寝る。
そうやって1週間のんびり過ごしたいやと?

仕事とスマホから解放されて何もかも忘れて、そんな贅沢な時間を過ごす為に高い金払ってハワイまで来てたんか・・

ワシの完敗や。

予定詰めて何かせんともったいないって考え方に囚われ過ぎてたんかなぁ・・

もったいないおばけである自分がホンマ恥ずかしくなってきたわ。

でも貧乏性が染み付き過ぎててワシはお前みたいな休日の過ごし方、羨ましいけどできんなぁ・・

ほな、お土産買ってエコノミーで先に日本に帰らせてもらいます。

Have a nice holiday.


コントな文学『もったいないおばけと新人記者』

こんにちは、もったいないおばけです。

お前、何で俺が現れたか分かるか?

そうか、分からんかぁ・・・

新人記者のお前は本来行く筈だったベテラン記者が体調不良で、代わりに急遽アメリカに行って大谷翔平の記者会見に参加した。

そしてお前は記者会見で「大谷選手はお好み焼きとモダン焼き、どっち派ですか?」と質問した。

地方新聞社の記者のお前が記者会見で大谷翔平に質問できるチャンスなんて一生に1回あるかないかのレベルやぞ。

しょーもない質問過ぎて大谷もWhy?って顔しとったで。

せっかくの機会に何でそんなもったいない質問したんや?

何?
200人以上いる記者の中から、まさか最後列に座ってた自分が当てられると思ってなくて動揺してしまったやと?

何?
憧れのスーパースター大谷選手に質問できると思った瞬間に頭が真っ白になって用意してた質問が飛んでしまった?

それで気付いたらお好み焼き派かモダン焼き派か質問してたやと?

どういう思考回路やねん!

浮かれ過ぎたな、質問する時だけは憧れるのをやめなあかんな。

それにしても、ホンマもったいない事したなぁ。

でもな・・・

たった一回の失敗で辞めてしまう方がもったいないで。

新人はな、恥をかいて失敗を重ねながら成長していくもんなんや。

だから、もう一回考え直せ。

お前が今書いてるその辞表は、ワシが一旦預からせてもらうわ。


コントな文学『それでも、夕焼けは綺麗だった』

17歳。

片思いだと思っていたけど両思いだった。

高嶺の花のクラスメイトが初めての彼女になった。

初デートは放課後デート。

マック行って、プリクラ撮って、自転車二人乗りして、公園のベンチで一緒に夕焼けを見ている。

「一緒に聴こ」

彼女がイヤホンを片方差し出してきた。

恋人と片耳ずつイヤホンを付けて音楽を聴く事に憧れてたんだろうなって思った。

俺も憧れてたし。

だけど・・・

だけど、彼女から渡されたイヤホンには、すっげー耳クソが詰まっていた。

オーストラリア生まれの帰国子女なのに…
英語ペラペラなのに…
定期テストで学年3位なのに…
父親が外務省のエリート外交官なのに…
綺麗な黒髪のロングなのに…
フルートだって演奏できるお嬢様系なのに…
嫌味が無くて同性からも好かれるタイプなのに…
美人だけど笑うと愛嬌たっぷりで可愛いのに…

イヤホンにすっげー耳クソが詰まっていた。

気持ち悪いけど仕方ないから、俺はなるべく浅めにイヤホンを装着した。

このイヤホンからだと、どんなラブソングも失恋ソングに聴こえてくるような気がした。

《冷めるわ〜》
《脇が甘い》
《事前に確認できたはず》
《危機管理能力の低さ》
《リスクマネジメント》
《爪楊枝と除菌シートが欲しい》

様々な思いを表したワードが頭の中を飛び交う。

でもね・・・

それでもね・・・

それでも、夕焼けは綺麗だった。


コントな文学『キラーフレーズ一発で僕は』

「佐伯くん、好きです。私と付き合って下さい」

僕に告白してきたのは同じ大学に通う丸山さんだ。

丸山さん、性格とスタイルは良さそうだけど・・

地味だし暗そうだし、見た目も好みじゃないから、悪いけど今まで女性として意識した事が無かった。

それに僕には幼稚園の頃から、ずっと片思いをしている幼なじみの女の子がいる。

だから、今まで女性とお付き合いした事が無い。

丸山さんには申し訳ないけど、交際はお断りしようと思った次の瞬間だった。

「ちなみに私、峰不二子とスリーサイズ同じなの」

そのキラーフレーズ一発で僕は丸山さんとお付き合いする事を決めた。

即決だった。

迷いなんて一切無かった。

でも、自分の中の大切な何かを失った気がした。

そして僕は大人になっていく。


コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。相方編』

「紹介するね。こいつ、俺の相方のミサ」

「そういう芸人みたいに彼女の事を相方って呼んじゃうノリ、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」って友達じゃない大学の同期に言えなかった。

あの日、僕には勇気が足りなかった。

コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。フェス編』

「明日フジロック参戦しに行くんだよ」

ヒマワリのように明るい笑顔で言ったバイト先の先輩に「音楽フェスに行く事を『参戦』って言う人、苦手な人種です」って言えなかった。

あの日、僕には勇気が足りなかった。

コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。童貞編』

「パパとママ、旅行に行ってて今日は家に私1人だけど・・・どうする?」

あの日、僕には勇気が足りなかった。

コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。大きな赤ちゃん編』

妻が息子に母乳をあげている。
「ボクもひざ枕ちてもらいながらママのおっぱい飲みたいでちゅ♥」って言えなかった。

あの日、僕には勇気が足りなかった。

コントな文学『あの日、僕には勇気が足りなかった。1994年7月5日生まれ編』

「俺さ、コンプレックスというか、悩みというか…
実は、大谷翔平と生年月日が一緒なんだよね。
よりにもよって、あんな億万長者のスーパースターと同じ日に生まれるなんて劣等感が半端ないし比較されたら辛いんだよね。
せめて1日でもいいから誕生日がズレてたら良かったのになぁ…
毎年、誕生日迎える度に切なくなるんだよね」

「知らねぇよ、バカ野郎」って言えなかった。

あの日、僕には勇気が足りなかった。


コントな文学『宇宙人にドMを理解させなさい』

「ワレワレハ宇宙人ダ」

宇宙人って本当に「ワレワレハ宇宙人だ」って言うのかぁ・・・

なんて呑気な事を言ってる場合じゃない。
俺は今、宇宙人に連れ去られてUFOの中にいる。

「ワレワレハ友好関係を結ぶ為、密かに地球人を調査していた。
そんな時に下着姿で目隠しをされてロープで拘束されている君を発見したので保護させてもらった」

どうやら宇宙人は良かれと思って俺の事を助けてくれたみたいだ。

しかし、違うのだ。

俺は白ブリーフ1枚の姿で、女王様に目隠しと亀甲縛りをして頂いて放置プレイを愉しんでいる真っ最中だったのだ。

お愉しみ中に邪魔しやがって宇宙人め・・・

はたして宇宙人に俺の性癖とSMプレイを説明して理解させて地球に戻してもらう事ができるだろうか?

「あのぉ、実は・・・
自分でお金を払って、目隠しされてロープで縛ってもらって部屋に放置されていたから大丈夫なんです」

「は?自分でお金を払ってやってもらっただと?」

「はい、プレイを愉しんでいたんです」

「プレイって何だ?
何故、そんな事をする必要がある?
金払ってパンツ一丁で目隠しされて縛って監禁されて楽しい訳ないだろ。
ワレワレハそんな話は信じられない。
君は催眠術か何かで操られている可能性がある」

「催眠とか、そんなんじゃなくて実は僕・・・
ドMなんです。
意味、分かりますか?」

「ワレワレハ分からない」

「SMのドMです。僕、変態なんですよ。
分かりませんか?」

「ワレワレハ分からない」

「とにかく亀甲縛りと目隠しをして部屋に返して下さい。早くしないと女王様が戻ってくる」

「女王様って誰だ?亀甲縛り?
ワレワレハずっと、お前が何を言っているのか意味が分からない」

ワレワレハ、ドMと名乗る男を地球に返した。

ワレワレハ地球人と友好条約を結ぶ事を考え直した方が良いのかもしれない。

ワレワレハ地球人が何を考えているのか全く分からない。


コントな文学『すべてのホームシッカーに花束を』

上京して足立区の北千住で初めての一人暮らし。

俺はホームシックになった。

土曜日に引っ越してきて今日が水曜日で一人暮らし5日目。

土曜の夜は初めての一人暮らしに浮かれて楽しく過ごしたが、人生で初めて日曜日の夜に1人で晩ご飯を食べていたら涙が溢れてきた。

実家の居心地の良さ。
母ちゃんの温かくて美味しいご飯。
そして父ちゃんや妹やペットも含めて家族から与えられていた安心感や愛情に初めて気付いた。

しかし、ホームシックなんて誰にも言えない。

だって・・・

俺、33歳だもん。

33の大人が自らの意思で一人暮らし始めてホームシックで毎晩泣いてるってキモ過ぎだろ。

我ながら情けないし、恥ずかしいよ。

ホームシックって普通は親元から遠く離れて新生活を始める学生や新社会人がなるものじゃん。

33歳の社会人10年目がホームシックって世間は許してくれるのかなぁ?

しかも・・・

実家は松戸だ。

常磐快速線で北千住から千葉の松戸まで9分で行けちゃう。

実家が近過ぎる33歳がホームシックとか、千葉県民のクセに「上京して一人暮らししてます」なんて言える資格が俺に有るのか無いのか自問自答を繰り返している。

・ホームシック
・ホームシックだと誰にも言えない苦しみ
・言っても共感してもらえそうにない孤独感

この三重苦を背負っている俺はホームシックだけの若僧より3倍辛いのだ。

3倍辛いんだぞって事も言えなくて、また辛い。

年齢や境遇に関係無く全てのホームシッカーを平等に受け入れてくれる世の中になってほしい。

だって寂しいのはみんな同じだろ?

だが、愚痴ってても仕方がない。

優先すべきは目の前の問題への対応だ。

「もしもし母ちゃん?
実家に忘れ物したから土曜の夜に取りに行くわ。
ついでに晩メシもそっちで食べるね。
帰り遅くなりそうだから泊まってこうかなぁ…
面倒臭いから日曜日も朝、昼、晩メシ食べてから帰るわ〜」

これで今週は乗り越えられる!


コントな文学『ファーストキスだったのに』

大学のゼミの飲み会終わりの帰り道、突然唇を奪われた・・・ファーストキスだったのに。

ファーストキスだったのに、いきなり舌を入れられた。

ファーストキスだったのに、上の歯も下の歯も舐められた。 

ファーストキスだったのに、ダイソンの掃除機ばりの吸引力で舌を吸われた。

ファーストキスだったのに、何か視線を感じるから恐る恐る目を開けたら、キスしながら顔をガン見されていた。

ファーストキスだったのに、黒髪メガネで普段は地味で目立たないゼミの先輩から、酔って強引にキスされて僕は酒も女という生き物も怖いなと思った。

だって紗希先輩も、ファーストキスだったのに。

ファーストキスだったのに、紗希先輩は昨夜の記憶が無いって言っている・・・

ファーストキスだったのに。


コントな文学『初任給と母さんの涙』

初任給で両親に何かプレゼントをと思い、5月の父さんと母さんの結婚記念日に母の日のギフトと合わせて贈る事にした。

就職を機に都内で一人暮らしを始めたので、時間指定で宅配を届けたから受け取るよう両親に伝えて、こっそり横浜の実家に帰りサプライズで直接渡そうと計画した。

当日、物音を立てずに実家の玄関を開けてリビングに近づくと、父さんと母さんの楽しそうな話し声が聴こえてくる。

両親が驚く姿を想像しながらリビングの扉を開けると、そこには裸の上から長年使っているエプロンを着けた母さんが立っていた。

両手にプレゼントを持って立ち尽くす俺。

裸にエプロン姿でテーブルに料理を並べる母さん。

裸にエプロン姿の母さんを目で楽しみながらシャンパンを飲んでいた父さん。

まるで時が止まってしまったように固まる3人。

・・・「何やってだよ、母さん」

そう言って俺は止まった時を再び動かした。

「母さん何歳だと思ってんだよ。もう52だろ?
52歳って確かサザエさんに出てくるフネさんと同い年だぞ。
そんな格好して恥ずかしくないのか?
とりあえず服着ろよ、みっともない」

裸にエプロン姿の母さんが泣き出した。

「何泣いてんだよ、泣きたいのはこっちだよ」

「バカ野郎っ」
父さんの怒鳴り声がリビングに響いた。

「お前は何で母さんが泣いているのか分からないのか?」

「何でってバカな事をしてるからだろ?」

「違う、お前が悪いんだ。お前が母さんを泣かしたんだ」

ちょっと何言ってるか俺には分からなかった。

「分からんのか?
考えてみろ、 母さん何か悪い事したか?」

「悪い事って、裸にエプロン姿で…」

「それの何が悪い?犯罪か?
一人息子が独立して、久しぶりの夫婦水入らずの結婚記念日に、母さんが父さんの為にサービスして裸にエプロン姿で料理を作る。
そして父さんは母さんの裸にエプロン姿を酒の肴に美味いシャンパンを飲んでいた。
公然わいせつ罪には該当しないぞ」

世間的や年齢的には恥ずべきプレイだと思うけど、確かに夫婦が自宅で楽しむ分には犯罪行為ではない。
息子的に「勘弁してくれよっ」てだけの問題な気がしてきた。

父さんが真っ直ぐ俺の目を見ながら話を続ける。

「せっかく楽しくやってたのに、無断でいきなり帰ってきて結婚記念日を台無しにした上に、何も悪くない母さんを侮辱して泣かしやがって…
母さんを泣かしたお前を俺は許さない。
母さんに謝りなさい」

「なぁ、母さん…
実は今日ね、父さんと母さんに初任給で買ったプレゼントと、母の日のギフトをサプライズで渡そうと思って帰ってきたんだよ。
それなのに一体どこで間違えちゃったのかなぁ…
父さんが言う通り、俺が悪かったのかな?」

「さっきから何ゴチャゴチャ言ってるの?
あなたが100パー悪いのよ」

裸にエプロン姿の母さんに面と向かってゴチャゴチャとか100%悪いとか言われて、もう何か言い返す気力も無くなってしまった。

「そっかぁ、ごめんね母さん。父さんもごめん。
これ、初任給で買った両親へのプレゼントと母の日のギフトだから良かったら使ってよ」

そう言い残して俺は実家を後にした。

翌日、母さんからメールが届いた。

『昨日はごめんなさい。
そしてプレゼントありがとう。
贈ってくれたペアのグラスでお父さんとお酒を飲んで結婚記念日を祝い直しました。
それと、エプロンも大事に使わせてもらいます。
今度はちゃんと連絡してから来てね。母より』

何の因果か俺は母の日のギフトに新しいエプロンを母さんに贈ってしまった。

大事に使うって、それは服の上から?それともまた裸になって?

俺は母さんに聞けなかった。


コントな文学『百年の恋も冷める時』

スレンダーな体型に整った美しい顔立ちと、黒髪のロングヘアーが似合う君に、僕は一目惚れした。

付き合って1年を過ぎた初夏の頃、君は長い黒髪をバッサリ切ってデートの待ち合わせ場所に現れた。

あまりにも髪をバッサリ切りすぎて、

僕には君が・・・

蓮舫にしか見えなかった。

名前が出てこないけど、ずーーっと誰か知ってる人に顔が似てるなぁと思ってたら、蓮舫だったんだね。

きっとこの先、食事をする時も、手を繋ぐ時も、キスする時も、愛し合う時も、僕は君というフィルターを通して蓮舫を思い浮かべてしまうだろう。

一度蓮舫のイメージが刻まれた僕には、もう君と蓮舫を切り離す事はできそうにない。

もはや君が蓮舫で、蓮舫が君だ。

完全なる蓮舫になった君を見て、君に対する想いが僕の心の中から一瞬で無くなってしまった。

恋って何なんだろう?

百年の恋も冷めるってこういう事を言うのかな?

君と別れて3年が経った。

偶然、街で君を見かけた。

すると、君だと思った女性は君じゃなくて・・・

蓮舫だった。

「応援しています」とリアル蓮舫に声を掛けると、プライベートでも選挙中のように両手で僕の手を握って「ありがとうございます」と笑顔で返してくれた。

実物の蓮舫の笑顔は優しくて、握られたその手は温かく、綺麗だけどキツそうとか怖そうとか苦手なタイプという負のイメージが一気に吹き飛んだ。

もしも君より先に蓮舫に出会っていたなら、君が蓮舫になっても恋が冷める事は無かったかもしれないし、違う未来があったのかもしれないね。

これからもメディアで蓮舫を見かける度に、君の事を思い出して、遠く離れた場所から僕は君の幸せを願うだろう。


コントな文学『生きる』

「次は3日後だね。

淋しいけど、3日間だけ我慢しようね。

え?どうしたの萌たん?

何で泣くの?

泣かないで、萌たん。

そっかぁ・・・

3日間だけじゃなかったね・・・

3日も会えないから淋しくて泣いちゃったんだね。

お願い、泣かないで萌たん」

彼氏に優しい言葉を掛けられて、萌たんは更に涙が溢れ出したみたいだ。

昨日、俺が起業した会社が倒産した。

それから自己破産もした。

妻は離婚届を置いて子供を連れて出ていった。

そして今日、人生のどん底で迎えた40歳の誕生日に・・・

公園の隣のベンチに座る10代か20代前半の若いクソみたいなカップルがクソみたいなやりとりを繰り広げている。

「えーん。萌たんが泣き止まないと、俺まで泣きそうになるじゃんっ」

萌たんと一緒に彼氏も泣き出した。

首でも吊って楽になろうかと考えていたけど、死ぬのが何だかバカバカしくなってきた。

もう一度、頑張ってみようかな・・・

萌たんと彼氏のおかげで生きる活力が湧いてきた。

ありがとう、萌たん。

ありがとう、萌たんの彼氏。

でも、さっさと破局する事を祈っています。

「絶対絶対、毎晩寝る前に通話して話そうね。
絶対だよ、萌たん♥」

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