【「訳者あとがき」公開】『不安・心配と上手につきあうためのワークブック』
訳者あとがき
不安や心配は、誰もが感じることがある一般的な感情だと思います。しかし、それが過剰になり、問題になると生活の質は低下し、今まで自由にできていたことが制限されていきます。不安や心配に悩む生活が続いていく中で、自分が持っていたアスピレーション(夢や希望)を忘れてしまうこともあるかもしれません。
この本は、従来の認知行動療法(CBT)に基づく介入に加え、その従来の認知行動療法を修正した「リカバリーを目指す認知療法(CT-R)」の考え方や介入法が取り入れられた、セルフヘルプのためのワークブックです。
CT-Rは、元来重篤な精神疾患の治療のために開発されましたが、その適用範囲はそれだけに留まらず、一般的な心理的問題にも有益な考えをもたらします。
この本は、「不安はあなたの敵ではありません!」という印象的な言葉で始まります。その言葉が意味しているのは、不安や心配は問題になるだけでなく、適応的な側面があるということです。不安や心配があることによって、何かに取り組もうと思えたり、準備しようという気持ちになるという側面があります。しかし、不安や心配が強くなると、何とかしてそれを取り除こう、なくそうとしてしまうのも自然な気持ちです。
不安や心配は、それをなくそうと、とらわれてしまうことが、逆に症状を強め問題となります。そのため、不安や心配をなくそうとするのではなく、上手につきあうことが大事だとこの本の中では強調されています。このワークブックは、不安や心配によってコントロールされるのではなく、あなた自身が自分らしい生活を取り戻していくうえで助けになると思います。
それでも、不安や心配と向き合い、つきあおうとするのは大変なことです。不安や心配が問題になる前にこころの中にあったアスピレーション(夢や希望)をもう一度思い出し、何のために変化しようとしているのかをこころの中で新たにすることも大事です。
アスピレーション(夢や希望)と言いますと、面はゆく感じたり、それが何に役立つかわからない、ただ不安がなくなればいいなど感想を持たれたりするかもしれません。しかし、アスピレーション(夢や希望)は皆さんが不安や心配にとらわれていなかった時期には、こころの中に自然にあったものだと思います。
また、不安や心配がありながらも、認知、行動、感情のすべてがうまくかみあい、前に進んでいた最高のときを思い出すことにもつながります。このような状態のことを、ワークブックの中では「適応モード」と紹介しています。適応モードとは、決して特別なものではなく、皆さんの中に自然とあるものです。ただ、不安や心配にとらわれている中で、そのことを思い出しにくくなっています。このワークブックは、再びそれを思い出し、前に進む助けになると信じています。