【ショートショート】スコセッシの天才
スコセッシの天才を僕が語る時、君はいつも皮肉な笑いを浮かべた。
天才は平凡な情景を詩に変える。
未経験は一つの才能だ。天下を取らんとするその前傾姿勢。それはその後の高度な技術を圧倒する。
若さの感性。それは老練な芸術を打ち砕く。
新進気鋭の彼。地位は無い。安寧も金も。
その頭を砕かんとする天才の努力。一言もおざなりにしない執念の連続作業。一の風景を作るに数時間の苦行を彼は当たり前のように背負い進む。
彼はいつでも妥協できたのだ。誰にも気づかれず後退も出来た。
青春が生み出したその天才的傑作は万人の胸中を打ち震わせ、世界に100年の波動を起こす。
トラビスを初めて見た十代の僕は、その感動を深夜の君に語った。君は皮肉な笑いを僕に向けた。