失敗しないマーケティングリサーチ
街の現況を知るための手法としてマーケティング調査の必要性を前回お話ししましたが、注意すべきことについて少し加筆したいと思います。
1.調査目的をはっきりすること
調査の失敗事例としてあるのは、何のために調査するのかあいまいなままに事を進めてしまうことです。その目的意識をはっきりさせなければなりません。シティプロモーションに関してであれば「A市の認知率や理解率等についてA市以外の市民の認識や来市経験等行動実態を把握すること」であるのか「A市の観光地や商業施設等への訪問経験、魅力度、継続訪問意向等、A市市民の実態を把握すること」なのか、「誰の何を把握したいのか」を明確にしなければなりません。
2.そのために仮説を立てること
実は順序が前後しますが、調査目的をはっきりさせるためには、それ以前に知りたいことの「仮説」を立てる必要があります。「定住人口も増えないし、観光産業も盛んにならない理由は、A市が周囲の市に比べて知られていないからではないか」と仮説を立てるならば、市名や観光地の認知率、来訪経験実態などを調査しなければならないでしょう。
「既存市民からの街への評価は悪くないはずだが、それが上手く市外の人々に伝わっていないことが、定住人口増加につながらない理由ではないか」という仮説であるならば、既存市民からの市の評価や市外市民への推奨意向などを調べるべきでしょう。
3.結果の使い方を想定すること
一方で「調査のための調査」になるべきではありません。つまり、せっかく調査するからといって無闇に細かいことばかり調べすぎたり、調査対象者を細かく設定しすぎることで結局調査結果のデータが使えないというようなこともあります。「A市市名を知っている/知らないの認知状況」「A市に行ったことがある/ないの来訪経験」「A市に住んでみたいと思うかの定住意向」について、ターゲットとする性別、年代別、地域別等属性に合わせて把握したい等…まず最も知りたいことを大づかみに優先順位づけして調査設計するのが適切です。
全体の質問数や費用の問題も関係してきますので、最初はマクロ的な視点で考え始めるべきです。管理している予算と調査に関する担当者の知見にもよりますが、あまり細かいことを自分で設計するよりは、調査会社のプロのリサーチャーに要望を伝えて、調査設計を提案してもらう方が間違いはありません。もちろん、調査設計の作業は無料ではできません。適切な報酬を支払います。
また、調査結果をどのように使うのかを想定する必要があります。たとえば行政内部で客観性を共有しやすいように、実態を数値で示したいならば定量調査が必要ですし、市民や市外の方々の生の声を計画書のなかで表現したいならば、インタビュー調査等の定性調査が必要でしょう。知りたいことの仮説を立てると同時に、調査結果の表現のあり方も想定しておく必要があります。
4.調査の実現性を検証すること
調査をするからには知りたいことはたくさんあるでしょう。あれも知りたいこれも知りたい、ここの調査対象のこういうことを把握したい。たとえば、未婚、有職女性で、A市への来訪経験があって、A市への好意度が平均以上で、Cエリアに住んでいる人のA市への定住意向を知りたい…という場合、調査の意図は理解できますが、結局のところ調査対象者が極めて少数になってしまう場合があります。それにより、調査結果が有意でなくなる可能性があります。つまり、調査結果が統計的に意味がないことにならないように注意する必要があるということです。このあたりのことは調査対象者数にもよりますので、やはり調査会社のスタッフと相談しながら設計するのがいいでしょう。
また、広報誌等で自分たちだけで何らかのアンケートをしたいということもあろうかと思いますが、その場合にも、回答者(市民)の回答のしやすさ、回答の返送のしやすさ、戻ってきたものをどのように集計するのか、集計数値をどのように分析するのか等の実行可能性を考えながら、調査設計する必要があります。
リサーチというのは「何かしら調べれば何かしら結果が出るだろう」というようなものではありません。「これをこう調べれば、恐らくこういう結果が出るだろう」というある程度確信ある仮説を前提に、その検証をするのが調査です。そういう意味では、調査する時点で調査をリードする人は、かなりの精度をもった仮説を立てられる情報力と立案能力を備えている必要があります。
最後にちょっとした裏ワザですが、四街道市の場合、調査結果をプレスリリース用の材料として活用しました。活用したというより、最初からプレスリリースに使うための質問項目をリサーチ実査時に織り込んだわけです。調査結果をプレスリリース配信したところ、こんな記事にも発展しました(“おれってイクメン”夫の甘い自己評価に妻は? 「子育て評価」発表!)。
マーケティングリサーチは内部的な仮説検証の使い方のほか、外部へ発信するデータ素材としてもとても有効です。併せて検討してみてはいかがでしょうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?