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andydog2003
2020年9月15日 14:32
カツサンドを調理する時はいつも緊張する。オーダーが入ると軽く憂鬱な気分になる。パンとその間にはさんだ揚げたてのカツを同時に素早く切らないといけないのだけど、うまく行った試しがないのだ。揚げたてのカツは曲者で、なかなかパンの間で安定しない。それに熱い。切る時に力を入れて押さえすぎてパンに指の跡が残ってしまう。また今日もやってしまったと思う間もなく、無残なそれを見て、もっとさっと切らないと、と主任
2020年9月11日 12:05
ウェイトレスのきれいなお姉さんの一人が、実はわたしと同い年らしいと知って驚いたのは、ここで働き始めて2ヶ月近く経った頃だった。美琴というどこかクラッシックな響きのある名前を持つ彼女は、名は体を表すという言葉とはかけ離れた、と言ったら失礼だけれど、何というか賑やかな外見をしていた。今日もいつものようにカンカンカンと気怠くサンダルの踵をタイルの床に響かせながら、特に用があるわけでもなく、わたしの
2020年9月6日 10:23
喫茶店の裏口でタイムカードを押して、奥のパン屋に向かう。そしていつものレジカウンターの所定の位置につき、ほっと一息つく。なぜかここに来るだけで既にひと仕事終えたと感じてしまう。この夏からここでアルバイトを始めて、少しずつ季節が木々の紅葉をまとう初秋に変わって行っても、ここにいるのはまだ落ち着かないと感じていた。前の時間に入っている主婦の人が、いつも完璧に店内を整えてくれているので、交代の時
2020年9月2日 13:21
彼は小学生、たぶん11か12くらいで、わたしは19になったばかり。あの頃のわたしは、喫茶店に併設された小さなパン屋兼お菓子屋で、夕方から午後9時くらいまで働いていて、毎日に近いくらいの頻度の彼の訪問をひそかに楽しみにしていた。彼はきっとどこかこの近くに住んでいる。やってくる時はいつも徒歩だ。自動ドアのガラスの向こうに夕闇がその濃度を増し始める。ゆるゆると夕焼けが増殖していく様をぼんやりと眺
2020年8月26日 18:35
厨房の入り口に掛かった中途半端な丈の暖簾越しに、ケーキの職人さんのすっきりとした細い足が見える。薄いブルーのぴったりとしたジーンズをはいた腰が落ち着きなく前へ後ろへ上へ下へと揺れ動く。それは、どこか南の島のビーチで耳にする陽気なレゲエミュージックを思い起こさせる、楽しげなゆらゆらとした動きだった。わたしの目は知らないうちにその心地よい揺れをぼうっと眺めてしまう。ここは喫茶店に併設された小さなパ
2020年8月23日 10:47
その頃、わたしはパン屋で働いていた。パン屋といっても喫茶店に併設された小さなコンビニのような店で、パンのほかにちょっとしたお菓子も置いていた。そこはめったに人が来なかったので品出しはたまにやればよく、レジ横で所在なく立ちつくす時間がほとんどだった。たまにオーダーが入ると厨房でサンドイッチを作った。喫茶店の方は兄弟である店長と主任が日替わりでカウンターに入っていて、どちらかと言うとわたしはお兄さん