孵化と羽化
招かれて 蚊帳の中
ちょっとほっといてくれよ
街頭に立つ聖人は
安刷りのチラシを抱えて エコなスマイル
いつだって頭ん中 煩いな
_そつ無く生きたいんだろ
耳障りのいい台詞 愛想笑い お気に召すまま
_中の上で生きていたいんだろ
ありきたりな悩み 抱えて 慰め合いたいんだよ
_まだ足りないんでしょ
_もっと埋めつくして欲しいんでしょ
ちょっと黙っててくれよ
静かに 熟れて崩れた果実に 蝿が群がる
甘い死の匂い
温かな小部屋は破られて
剥き出しの感情は産声をあげる
この重力が嘘なら
僕の嘘が本当なら
少しくらい優しくなれたなら
知らない町で
知らない君が
濡れた羽を拡げるその夜に
透き通った薄緑色の一瞬を
息を潜めて見届けられたなら
それは どんなに素敵な事だろう
逃げ出して 蚊帳の外
こっち見透かさないでくれよ
路地裏の占い師は
週刊誌の見出しを継ぎ剥いで日銭を稼ぐ
いつだって人混みん中 紛れて
演じてやってんだろ
_物分りのいい振り 白々しいお涙ちょうだい
みんな同罪だろ
_都合のいい会話 幼稚な妄想 情状酌量は
_まだまだ足りないんでしょ
_もっと埋めつくして欲しいんでしょ
知ったふうなこと、聞きたかないよ
かつて 安らぎだった抜け殻に 蟻が群がる
ひとつの光が消えて
精密な歯車が ゆっくりと
小さく軋みながら狂っていく
この衝動が本物なら
君の体温が偽物なら
少しくらい正直になれたなら
知らない町で
知らない君が
濡れた羽を拡げるその夜を
透き通った薄緑色の一瞬を
僕は見届けられない
見届けられない