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ワタリガニを釣って食べ尽くして喜ぶ
昔まだ通勤をしていた頃、電車の中で、右のおじ様から放たれる加齢臭と左のおじ様から放たれるサロンパス的な匂いが、真ん中の僕のところでぶつかりあい、なんと蟹の匂いになったことがありました。久しぶりの蟹の匂いに、とても得した気分になったものです。
しかし今や電車に乗る機会も減り、おじガニの香りを楽しむこともできません。自分は蟹に飢えていたのです。しかし、蟹の店に行くほどの銭はない。どうするか。
簡単です。近所でワタリガニを釣って食べればいいのです。
※一部地域ではワタリガニの捕獲が禁止されているので、釣り場のルールを十分に確認しましょう。
防波堤でのんきに泳いでいるワタリガニ
夏~初秋はワタリガニが接岸する季節です。ワタリガニは、ガザミ、タイワンガザミなどとも呼ばれ、結構なお値段で売られている高級食材。その身や出汁の濃厚さは、ズワイやタラバをもしのぐほどで、控えめに言って蟹界味部門の王者だと思います。
ワタリガニは夜行性で、夏の夜に防波堤に行くと、餌をもとめてプカ~と水面近くまで浮いているのを見かけます。足を必死でカキカキして、慌てているような溺れているような泳ぎ方は、なんとも憎めないものです。
その釣り方も独特で、適当な枝に結んだ釣り糸の先に魚の切り身をぶら下げて、寄ってきたワタリガニをタモで掬う人もいれば、女性用ストッキングなどに魚の切り身や内臓を詰めて防波堤の岸壁沿いに落とし、魚入りストッキングに寄ってきたのが引っ掛かるのを待つ人もいます。
しかし、いずれも夜中にコソコソと行う釣り方で、やや後ろ暗い感じが漂いますし、使い古した女性用ストッキングなどそう簡単に手に入るものでもありません。他所様の物干し竿から拝借すると逮捕のリスクもありますし、奥さんのタンスを探るのもいろんな意味で勇気がいります。
では、どうしたらいいのか。簡単です。昼間に普通に釣るのです。
サーフ釣りの外道としても釣れる
サーフ(砂浜)でマゴチやヒラメを狙ってルアーを投げていると、ワタリガニが釣れることがあります。近所の海でも9月に入った途端ワタリガニが釣れ始めました(8月は暑すぎてあらゆる魚が浅場から姿を消していた)。
そこで、自分は正々堂々、昼間の砂浜でワタリガニを釣ることにしました。
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週末の朝マヅメにサーフに立ち、表向きはマゴチを狙うふりをして、その実本命はワタリガニを狙う釣りをスタート。
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はい、釣れました!・・・と簡単に言いましたが、朝の4時から始めて、最初の1匹が釣れたのは午後の2時です。えげつなく苦労しました。
ワタリガニは明確なアタリがなく「ん?根がかり?」ぐらいにちょっと竿が重くなるだけなので、釣ったというより、引っ付いてきたという感じです。
「それって針に引っかかっただけじゃないんですか?蟹さん可哀そう。釣れたとか言ってる奴死ね」と言うお嬢さんがいるかもしれませんが、それは違います。
ワタリガニの口にはちゃんとルアーの針がかかっていますし、ハサミでしっかり針を挟んでもいます。釣れる前にモゾモゾとした微かなアタリがあったりもするので、ちゃんとルアーに反応して「釣れて」いるのです。自分たちはフェアに戦って釣り、釣られているのです。
なんだかんだで魚も蟹も大漁
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とまれ、この日は午後から結構アタリがあり、ワタリガニ3匹、マゴチ3匹、イシガレイ1匹を釣り帰りました(小さいワタリガニはリリースしました)。ということで、加齢臭やサロンパスの匂い漂うおじガニではなく、ホンモノのワタリガニを骨の髄まで食べつくします。いざ。
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ワタリガニのハサミはとても強力で、挟まれると大変な目に遭います。また、生きたまま茹でると防衛本能から手足がバラバラになるそうなので、まずはしっかりと活〆にします。
方法は簡単。目と目の間にある口から串とか、なければナイフでも突き刺して軽くぐりぐりとすると動かなくなります。自分は釣り場から帰るときにナイフで〆て氷で冷やして持ち帰りました。
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したらば、3匹の蟹を鍋に入れて、半分浸る程度に水を入れて茹でます。本当は蒸した方が旨味が逃げないと思いますが、出汁もとりたかったので今回は茹でガニでまいります。
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10分程度茹でてフタをとると・・・もわっとした蟹の芳醇な香りとともに、真っ赤に茹で上がったワタリガニちゃんが現れました。もう美味しいです。
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皿に盛って粗熱を取れば完成。なんて簡単で豪快なご馳走でしょうか。キンミヤ焼酎の氷水割りを用意しましたならば、あとは甲羅をパカッと開いてむしゃぶりつくだけです。
今回のワタリガニはすべてオスで、内子(卵)はありませんでした。7月~10月頃はオスが旬の時期らしく、身がしっかりと詰まっているそう。逆にメスの旬は11月~5月と寒い時期のようですが、抱卵しているメスは極力逃がしてあげましょう。
「でもワタリガニってそんな食べるところないですよね?」と敏腕検察官のような顔で指摘する人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。蟹味噌もたっぷり入っていますし、爪の身も意外なほど多くほじくれます。大人2人で3匹もあれば結構な満足感が得られます。
なんといっても、少しの身でもその味が濃厚で、ズワイガニ10匹ぶんぐらいを凝縮したような強い旨味がたまりません。酒飲みにはもれなくプレゼントして首から掛けてあげたいものです。
※食べるのに夢中で身の写真がありません
ワタリガニのフォー|蟹出汁の実力はいかに
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さてさて、ワタリガニの真骨頂といえば出汁です。今回あえて蒸し蟹にしなかったのも、この出汁を味わいたかったからにほかなりません。
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前回、魚の出汁を正確に味わうための調理法として、フォーが最適解であるという結論に達したので、今回の蟹出汁もフォーにしていただいてみます。
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見た目はこれ以上ないぐらい完璧です。マゴチのフォー同様、塩とナンプラーをまじない程度に垂らすだけの味付けで、あくまで出汁ファーストに仕立てたつもりでした。ところが・・・。
しょっぱい。
ワタリガニのもともとの塩味?海水?なのでしょうか。妙にしょっぱいです。下手に塩を入れなければちょうど良かったのかもしれません。とても良い香りがしていた出汁ですが、フォーにしたとたんその旨味が嘘のように消えて、旨味はないのにやけにしょっぱい、塩湯を飲んでいるような感じです。食べられなくもないけど、美味くもない、でした。まさかの失敗です・・・。
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なにくその蟹出汁リゾット
蟹出汁のフォーに失敗し、こんなことなら蒸し蟹にすれば良かったと意気消沈した翌日。どうしてもあきらめきれず、残った蟹出汁でチーズリゾットをつくってみました。
ワタリガニともあろう蟹の出汁が、マズいわけはないのです。しょっぱかった出汁を水で薄めて中和し、ご飯を入れてくつくつと煮て、最後にチーズをぶち込み何が何でも美味しくなるようにしました。もはや蟹出汁の味がしなくてもいい。美味しくさえあってくれればそれでいい。
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祈りにも似た気持ちで、一口食べたリゾットの味は。
まだしょっぱい。
一度味付けに失敗した出汁は、水で薄めても二度と美味しくならなない。
一度口にした言葉は、なかったことにはならない。
一度ついた前科は、消えてなくならない。
一度洗面台に付着した白髪染め液は、絶対にとれない。
だから僕たちは、いつだって、これ以上ないぐらい慎重に生きていかなければならないのだ。という当たり前のことを再学習した47歳の秋でした。
追記:蒸し蟹
後日釣れたワタリガニをせいろ蒸しにしてみました。
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蒸した方が旨味が逃げないかと思いきや、なぜか茹でガニのほうが味が濃かったです。個体差なのか分かりませんが、茹でたほうが簡単だし美味しかったです。