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毎週土曜の朝に、フレンチトーストを食べたこと。

我が家では、毎週土曜の朝にフレンチトーストを食べる。   
 
作り方はとっても簡単。牛乳と卵と砂糖とシナモンを混ぜた卵液に6枚切りの食パンを浸らせて一晩冷蔵庫へ置き、翌朝、卵液をたっぷり含んで少し重量感が増した食パンをバターを敷いたフライパンで焼くだけ。焦げるのさえ気をつければ、料理があまり得意ではない私が作っても100%おいしくできあがる、ほんのり甘い、ふわふわのフレンチトースト。  
 
そんな我が家のフレンチトーストのレシピは、私の幼少期からずっと母が作ってくれた……、なんてそんな大そうなものではなく。レシピを教えてくれたのは、学生時代の友人だ。
 
 

 
 
あれはまだ夫と結婚する前、例の如く友人と終電過ぎまで呑んでそのまま彼女の家に泊まったときのこと。さんざん呑んだくれた翌日、寝巻き姿でぐうたらしている私に友人が振る舞ってくれたのがフレンチトーストだった。作り置きの野菜スープも添えて。  
 
「どうぞ〜!」と言って、表参道のオサレなカフェで食べたら2,000円くらいはしそうな素敵なブランチをさらっと出せる彼女のおもてなしに心底感動したのを覚えている。こいつぁ女子力はんぱないぞと。こいつぁいいお嫁さんになるぞと。しかし悲しいかな、そんな彼女はいまだ会うたびに「出会いがない」と嘆いているのだけど。  
 
とにもかくにも、そのとき彼女にレシピを教えてもらったのがきっかけで、夫との同棲時代からかれこれ5年ほど我が家の定番メニューとして毎週土曜の朝に登場している。  
 
娘を妊娠しているときは、よく夫とフレンチトーストを食べながら「赤ちゃんが生まれたら、作る量を増やさなきゃね」と話していた。
「子どもが好きそうな味だから、たくさん食べるかもね」とか言いながら。    
 
けれども娘が生まれ、あれよあれよと離乳食期が終わり、いざ彼女の分のフレンチトーストを作ってもまったく食べようとしてくれなかった。食べようとしない原因は、おそらくすっかり普通のトーストに慣れて「そんな得体の知れないものは食べません」といったところか。 
     
娘は一向に食べようとしなかったのだけど、だからといって恒例の「毎週土曜のフレンチトースト」を私たちが辞めるわけもなく、土曜の朝の食卓には、夫と私の分のフレンチトースト と、娘の分のトーストが並んでいた。  
 
 
◇  
 
 
しかし変化は突然訪れた。先週の土曜日、いままで「いらない」と言っていた娘が、私の皿の上に乗っているフレンチトーストを指差して「たべたい」と言い出したのだ。  
 
おほっ、やっと興味持った?と、私は内心ワクワクしながら小さく切り分けたフレンチトーストを娘の口へと運んだ。
 
「どう?」と聞くと、口をもぐもぐさせながら「おいしーいっ」と娘は笑った。それから、もっとちょーだい、もっとちょーだい、と止まらず、そのまま3人で「おいしいね」と言いながらその日のフレンチトーストを完食した。  
 
娘を妊娠中、夫と話しながら心に描いていた、「家族3人でフレンチトーストを食べる図」。それが現実になった朝だった。  
  
 
◇  
 
 
最近娘が覚えた言葉で、3人で食事をしているときに必ずといっていいほど彼女が言う言葉がある。  

「みんなでたべるとおいしいね!」

ほんとうに、そのとおりだね。  
 
材料を混ぜて食パンを浸して焼いただけの、なんの変哲もないフレンチトーストだけど。
「お袋の味」なんて特別なものではない、というか、突き詰めると「女子力高めの友人の味」なんだけど。
 
毎週土曜の朝に、フレンチトーストを食べたこと。  
 
娘が大きくなったとき、家族でテーブルを囲んで「おいしい」を共有したこの時間を思い出してくれたらいいな。  
 
なんて、そんなことを考えながら。 
 
さて今から明日のフレンチトーストの準備でもしますか。

 

 

 

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