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「ストーカーレポート」第2話アキバメイドの悲劇④を更新しました

 小説サイト「NOVEL DAYS」にて、「ストーカーレポート」第2話アキバメイドの悲劇④を更新しました。
 よろしければ続きは、小説サイトでご覧ください。

 由比の一日は散歩に始まる。たいていフェルト帽子をかぶり、例の高級そうな黒い厚手のコートを着て、決まった時間に決まったコースを歩く。朝食はトーストした食パンにバターとマーマレード。そしてインスタントコーヒー。昼は私のコンビニにきてコンビニ弁当を買い、チンしてもらう。せめてランチは近所の定食屋にいって食べればいいのにと思うが、それは余計なお世話というものだろう。
 午後は近所の公園にいって、ベンチに座っていた。
 季節は晩秋で、透明な円柱のような光が立ち、公園に植えられたイチョウの黄色い葉がハラハラと舞い散っていた。イチョウの葉が重力に負けて舞い散るなか、由比はベンチの上にすわりこみ、じっとして動かなかった。目を薄く閉じていた。墓石のように。すでに死んでいるように。

 由比は一人暮らしだった。夜はスーパーで買った食材をつかって、自炊していた。結婚していたが、離婚して、元妻はべつの男と再婚している。その男とのあいだには、子供はいない。
 私がストーカーしているかぎり、由比は、点と線の生活をくりかえしているだけで、そこには希望や生きがいといったものは見入出せなかった。いやしくも最高学府で名誉教授まで登りつめた人間なのだから、さらに学問を究める、という選択肢もあったはずだが、そんな気はさらさらないようだった。本は読んでいたが、専門の哲学書ではなく、ミステリー小説ばかりだ。海外のミステリーの新刊を好んで手に取っているようだった。


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緒 真坂 itoguchi masaka
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