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「ストーカーレポート」第2話アキバメイドの悲劇⑧を更新しました

 小説サイト「NOVEL DAYS」にて、「ストーカーレポート」第2話アキバメイドの悲劇⑧を更新しました。
 よろしければ続きは、小説サイトでご覧ください。

 午後二時二十分、私は公園に到着した。よく晴れた日だったが、ひっきりなしに風が吹いて、イチョウの枯葉が舞い散っている。
 由比はフェルト帽子をかぶり、高級そうな黒い厚手のコートを着て、いつものようにベンチに座っていた。
「ここに座ってもいいですか」
 由比は周囲を見まわし、いくつものあきベンチを確認したが、かまいません、どうぞ、といった。私は、由比のとなりにすわった。
「いい天気ですね、ちょっとひやりとしますけれど」
 由比はうなずいた。
「いつもここにきていますよね」
 私は、きっかけをつくるつもりで尋ねた。
「ひまを持て余している老人ですから」
 由比は興味がなさそうに首を左右に振ったが、コホンと咳を一つすると、私の瞳をのぞきこむように凝視し、確信をこめていった。
「あなたには、四十二年前に出会ったことがありますよ。天井から首を吊ったときに。一瞬でしたが。残念なことに、ひもがちぎれて、私は床に落ちてしまいましたがね」
 由比は私をじっと見据えた。「ああ。おぼろげに記憶がある。あなたはあのときのままですね。変化がない。相変らず美人だ。
 あなたはミズキを思い出させる。なぜでしょう。ミズキが死んだときのことを。…私が愛したのは、ミズキだけでした」
 由比は突然、語り始めた。「いまでも鮮やかに覚えています。私のなかでは、ミズキは死んでいないのです。現実的には四十二年前に亡くなっているのに。妻よりも、愛していました。ミズキもそうだったと思います。そんな精神状態で結婚生活を送ることはできなかった。すべてを告げて、妻とは離婚しました。でもそのことで、私はずっと罪悪感を感じていました。妻には悪いところが一つもなかったからです。満足していましたし、幸せでした。それなのに妻の人生を傷つけ、壊してしまった。ミズキが死んでしまってからの私は、余生を生きていたといっても過言ではありません」
 厳粛な表情で語る由比を私は黙って見つめた。


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緒 真坂 itoguchi masaka
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