コラム|病院の広報スタッフが地元の「よさこいサークル」に3ヶ月通い続けて学んだこと
「鹿島公民館で活動している、『鹿島おかみさんソーラン隊』というサークルを見つけたんです!! 長岡さんも、今度よかったら一緒に行きませんか?」
――――いとちプロジェクトで、共に活動しているコミュニティデザイナー見習いの前野有咲さんから声をかけてもらったのは、今年の5月。
普段、かしま病院で広報スタッフとして働く私は、地域活動の経験はそう多くはない。参加するのを少しためらったものの、地域に関わる機会になればと、鹿島おかみさんソーランに加入することを決めた。
そこから、「かしま福祉まつりでの発表を目指して〜2023年・夏〜」がはじまったのだった。
50歳以上のお母さんたちが、8年踊り続ける「よさこい」
鹿島おかみさんソーラン隊は、鹿島町に住む50歳以上の女性(愛称で、おかみさんとよばれているそうだ!)を対象に、週に1回活動しているよさこいサークル。
今は、50歳から80歳の幅広い世代のおかみさんが、10人ほど参加している。その歴史は長く、平成27年に設立してから、今年で8年目を迎えるんだとか。
年齢制限があるから加入は難しいかな…と思いながら見学に行ったある日、私の懸念とは裏腹に、先生やおかみさんたちは、「若い子が来た!」とすごく喜んで、大歓迎してくれた!(と、思っている。)
おかみさんたちが「よさこいソーラン」を踊る姿を端っこでみながら、私の中で懐かしい記憶が蘇っていた。そういえば、私が通っていた小学校でも、運動会のプログラムで毎年よさこいソーランを踊っていたんだっけ。
ダイナミックな振り付けと、「えいや~さぁ~~~~~・・・どっこいしょ!」という歌詞。これは「どっこいしょ」という曲のタイトルで、私が見学に行った日に、おかみさんたちが踊っていた曲だ。
曲がかかると、不思議なことに、小学生の時に練習していた振り付けを、私の体は覚えていた。「お、ひょっとしたら踊れるかも?これなら私にもできるかも!!」
――――そう思って加入を決めた決断を、すぐに後悔することになった。次の週、実際に踊ってみると、昔よりもずっと、よさこいがハードに感じられたのだ。
曲は覚えていても、体がいうことをきかないため、リズムについていけない。そして、日頃運動不足の私にとっては、1曲を踊りきるのもやっとの状態・・・。
長年練習を積んでいるおかみさんたちは、動きもキレキレで体力もある。みんなすごく元気だな・・・・・・。
そうもいっていられない。くじけそうになる度に、私は何度も自分を奮い立たせていた。なぜなら、7月に予定されている鹿島町のお祭り「かしま福祉まつり」の発表までに、3曲の振り付けを覚えるというミッションがあったからだ。
本番までに練習できる回数は、残り15回。5回の練習で1曲を完璧に覚える計算だ。おかみさんたちに手取り足取り教えてもらいながら、なんとかくらいついていった。
初の晴れ舞台は、鹿島の伝統的なお祭りのステージで
そうこうしているうちに、あっという間に本番前日を迎えた。まだ不安は残るものの、よさこいの先生からは、「できなくても笑顔で!」と言われた。失敗してもいいから、とにかく笑顔だけは忘れないようにしよう。そう心に決めて、前日練習を終えた。
そして、かしま福祉まつり本番。はやめに控室入りしたおかみさんたちは、本番に向けて念入りな準備を行っていた。
特徴的だったのは、盛り髪と口紅。晴れ舞台といわれる成人式を超えるほど、髪をモリモリに盛り、これでもかと赤い口紅を塗る。そして、色とりどりのビジューがあしらわれた法被を着て、準備完了。これが、うわさのおかみさんスタイルのようだ。
着付けやヘアメイクは、もちろん自分たちで行う。先輩おかみさんに、私も「おかみさんスタイル」を施してもらった。前野さんと、「私たち、浮いてないかな・・・」と小言をかわしながら、本番のステージに向かった。
初の晴れ舞台は、病院の隣にある、特別養護老人ホーム「かしま荘」の駐車場に設営された野外ステージだった。日差しが照りつける中、おかみさんソーランの踊りを楽しみに、施設の入居者とそのご家族、住民の方など、たくさんのお客さんが待っていた。嬉しい反面、私の緊張は増すばかり・・・。
「踊るのって楽しい!!」そう思いながら無我夢中で踊っているうちに、気づくと3曲をあっという間に踊りきっていた。なんとか無事に、デビュー戦を終えたようだ。
ホッと一息ついて観客席に目を向けると、集まったみなさんが私たちのパフォーマンスにあたたかい拍手を送ってくれていた。その中には、いつも一緒に働いている病院スタッフの姿もあった。
「楽しんでくれてよかった〜〜!」と、達成感と心地よい疲れにしばらくひたっていた。
病院から一歩、外に飛び出してみる
はじめは、毎週金曜日の19時から21時の「華の金曜日」に、なぜ毎週おかみさんたちが集まってくるのだろうと不思議に思っていたが、3ヶ月たった今の私なら、こう思う。この時間こそが、おかみさんたちの生きがいなのではないかと。
おかみさんソーランでは、練習がはじまる前にみんなでおしゃべりする時間が設けられていた。つまり、踊りのサークルは、お母さんたちのおしゃべりや交流の場でもあったのだ!
近況について話したり、共通の趣味について情報交換したり。時折、おかみさんたちの会話に混ざるこの時間は、私にとっても、サークルに馴染む時間になっていたのかもしれない。
また、私を誘ってくれた前野さんからもいろんなことを学んだ。大学生の頃から地域活動をしていたという前野さん。地域のみなさんと接するきっかけをつかみ、ぐいぐいと輪の中に入り込んでいく姿は、さすがだった。
ニコニコ笑顔、少しおちゃめなところ、自分が心から楽しんでいる様子を相手に伝えられるところ。場を明るく盛り上げて、相手の心を開く。これが地域に馴染んでいくために大事な要素だろうなと感じた。
正直、前野さんがいなかったら、どうやって地域に入り込んでいいかわからなかったし、ひとりでやってみようと行動する勇気はなかったなと。
地域に入っていく姿勢は、人のふところに入っていく姿勢ともいえる。そう考えると、院内のスタッフや患者さんと接する時にも、参考にできるポイントがたくさんあった。
病院から一歩外に出ていなかったら、地域の方と仲良くなる機会も、こんな気づきを得られる機会もなかったかもしれない。あの時一歩踏み出せた自分を、やっぱり素直に褒めたいなと思う。
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先日、かしま病院内でソーラン隊のおかみさんに会ったとき、「あ!長岡さん!」と笑顔で手を振ってくれた。病院へ見学に来ていた学生が、その光景をみて「地域に密着しているんですね」と、私に感想を伝えてくれた。
「地域医療と全人的医療の実践」を理念に掲げ、まちや人に密着した医療を目指すかしま病院で、広報スタッフの自分にできることはなにか。
いとちプロジェクトがはじまってから、ずっと考えて続けていた問いに対する、自分なりの答えをつかみかけたような気がした。まずは、地域のおかみさんたちと一緒に、これからもよさこいソーランを踊っていこうと思う。