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ある新卒入社社員の退職から考えたこと

人事の仕事をしていると、社員の退職に関わる、立ち会うことが多くあります。
私の勤めている会社は中途採用の社員の方が圧倒的に多いため、新しい社員が入ってきては辞めて行くような新陳代謝がよく起こっているせいもあります。

しかし中途採用だけで採用を回していると社員の高齢化が進んでしまいますし、即戦力志向になってしまうため人を育て上げるような文化が衰退してしまうため、意識的意図的に新卒を採用して組織を活性化しようと試みます。

そのような背景もあって、少人数ですが大学新卒を不定期に採用するのですが、必ずしも社員として定着して成長して行くという具合になりません。

つい最近も一名、女性の新卒入社社員が自己都合退職をしました。
退職前からその社員の相談にのっていましたし、退職の理由もやむを得ないと感じていましたが、最近の新卒社員の退職は今までと少しパターンが違うかもしれない、と感じ始めています。

何があったのかの振り返りを含めて、少し考えてみます。

これまでの新卒社員の退職パターン

前職から転職して現在の会社に入った年に、新卒採用を復活させようという話が出てきました。
私自身は新卒社員の入社後のトレーニングはやったことがありましたが、新卒採用そのものは経験がありませんでした。でもまぁ、それほど大量採用しようという話ではないし、Job Fair(学生向けの集団就職懇談会)に参加して面接をする程度であれば、それほどエネルギーをかけずにできるのではないかと考えて、東京キャリアフォーラムに参加し、2名の新卒を採用しました。2015年でした。

そこからほぼ毎年、2名から3名の新卒採用が続いていました。
キャリアフォーラム採用は海外留学経験がある学生の就職活動の場なので、通常の新卒採用とは違って面接をしてから採用までのリード・タイムが短いこともあり、社員の入れ替わりの激しい会社には向いています。
それに加えて、数年後からはエイジェントを使っての留学生以外の新卒採用も組み合わせていました。

中途採用中心の会社ですから、新卒入社への導入教育はちゃんとしないといきなり配属先の洗礼を受けることになってしまいます。配属先の現場は最小限の知識入れてくれますけれど、ビジネスパーソンとしての基本は身についているという前提を持っているので、その部分はしっかりとインプットしておく必要があるのです。

とはいうものの、近年の学生はしっかりしていて、下手をすると社員よりもビジネスパーソンとしての基本は身についていますし、インターンなどをしっかりやっていた人はそこそこのビジネス感覚も持ち合わせています。
それに加えてバイタリティと前向きな感じが相手にも伝わるので、新入社員としての滑り出しは割とスムーズに行きます。

問題が起こるのは、そうですね、、平均で一年ぐらい経ってからではないかと思います。およそ入社して一年が経ったあたりで、配属先部門側と本人との両方にフラストレーションが起きてきます。

上司側:「もうちょっとなんとかならないのかな?」
新入社員側:「なんとかしたいとか思えないし、向いていないのかな?」
両者の間に負のフィードバック・サイクルが回るうちに、上司側からは「伸び悩んでるし、このままだと他の社員のレベルまでいけないかも」と考え、新入社員側からすると「なんか、これがやりたかったことではないかも」と考えます。

成功体験とかが出てくるとまた変わってくるのですが、それがあったとしても仕事とのフィット感のようなものがなくなってくると会社を去ってゆきます。
「やってみたいと思うことが他にできたので」と。

就職するときは、親からの期待にも応えようとするのでしょう、取り敢えず就職のように思い「聞こえの良い」志望動機で就職活動をする(これは自分自身にとってもなのですが)のですけれど、しばらくするとそれが本当に自分のやりたいことではないのだということに気づくようです。
これが典型的なパターンで、入社2年未満で起こるので採用した側としては、
「え、じゃ、なんで就職しちゃったの?」
みたいな方面に自分の人生の方向性を見出してゆきます。

これが今までの典型的なパターンで、私のいる会社では結構な確率で起きていました。
採用面接の時にそこまで見抜けないものだし、学生自身もまだよくわかっていない…加えて学生の価値観も現代は多様だし、志向も若いうちは移り変わってゆくものだしなぁ…くらいに思っていました。

でも、今回起きたことはそれとは異質のことでした。

その新入社員に起きたこと

その社員が入社したのはまだコロナ禍中の2022年4月、約2年前のことでした。
とは言え、当初よりは状況もわかってきたしワクチンもありましたので、感染対策に十分な配慮をした上で入社後には対面で手厚いトレーニングをすることはできていました。

性格も明るく意欲も高い女性社員で、顧客訪問(私のいる会社はヘルスケア関連企業なので病院の先生なのですが)でも相手先に好印象を持たれていました。
それもあってか営業としての成績も悪くはなく、医療業界のことを分からない学生から社会人になったばかりにしてはよく頑張っていたと思います。

今年(2024年)に入ってから、彼女の上司から本人が悩んでいるようなので話を聞いてやってほしいと私に連絡がありました。
「仕事ができていないわけではないのだけれど、本人が相当辛そうにしているんです。休んだ方が良いのではないかと思うんですけれど、本人は頑張ると言ってまして」
私は何が起きたのだろうと心配になり、早速彼女とコンタクトを取り、Web Meetingで面談を行いました。

こういう時、まず最初に本人の体調を聞きます。
眠れているのかどうか?
仕事のことを考えると体にどのような反応が現れるのか?
その反応が起きるのは主にどのようなことがあったときか?

彼女は私の質問に落ち着いた感じでの受け答えをしながら、時々笑顔になる時もあったので、仮に鬱が始まっているとしてもまだ症状は軽いのだろうという印象を受けました。
ただ、ここで休ませないと坂道を転がるように悪くなってしまうのだろうなと私は彼女の表情や様子を見ながら感じました。

彼女がしんどいのはやはり夜眠れていないのが最大の原因で、それがあるが故に日中も集中力が落ち、それが自分でもわかるので自分を責め、やりたくても動きたくても動きが悪くなり、それが気になって仕方がなく眠れない原因にもなっている…という悪循環がグルグルと回っていることが彼女の話を聞いている中でわかりました。

眠れない理由は、彼女の話では「仕事が気になってもあるのですが」と言いながらもうひとつ挙げてきました。
「住んでいる環境が大通りに面していて、夜中に緊急車輌(救急車)が通ると気になって眠れない」と。

しかし、緊急車輌が表通りを通るのは入社時から変わっていないわけなので、以前は気にならなかった緊急車輌のサイレンが気になるようになったのは、それが彼女の仕事に密接に関連しているからであることはすぐにわかりました。なぜならば彼女の仕事はまさにその車輌の行き先である病院を訪問して人の命を助けるための製品でありサービスを届けることだからです。

休職して仕事をしないでいても、今住んでいるところにこのまま居続けたら今度は仕事をしていない自分を責め、もっと悪くなるだろう…
そう考えた私は、彼女が今住んでいるところ(借り上げ社宅に一人暮らし)をすぐに出て実家に行くこと、そこでゆっくり休むことを提案しました。
「今すぐ体一つで実家に行った方がいい」に最初は戸惑っていた彼女でしたが、私の説得に次第に理解を示し、必要最小限の身の回りのものを持って実家に帰りました。

上司を通じて彼女が休職に入るとの連絡が来たのはその翌々日のことで、私はほっとしました。
それと同時に考えたのは、彼女の頭の中は常に仕事モードがオンの状態であったのだろうということでした。

頭の中に常に仕事があるから、気が休まらない…
しかも、一人暮らしをしてるので孤立しやすい…
コロナ禍後に変わってしまった在宅勤務という働き方の中でその状況はより進んでしまったのかもしれない…
そんな彼女に対して、組織として会社として何をすれば手助けになるのだろうか、と。

責任感との付き合い方

彼女が休職に入ってから3ヶ月が経過し、体調も回復したため復職するかどうかについての話し合いをすることになりました。
その席に彼女はキッパリと退職すると言いました。私も上司もそれが正解であると納得しました。二度とあの負の連鎖には戻りたくないのでしょうし、戻るべきでもないとわかっていたので。

次の働き先とか、これから何をするのかは決まってはいないようでしたが、「ゆっくり考えます」と明るく笑っていましたので、私も安心しました。
そう…まだ20代で若いですし、外資系企業でちゃんと2年働いて結果も出しているのでこの先いくらでもチャンスはあるでしょう。
少し落ち着いて、働きたくてたまらなくなったら働き始めるくらいでちょうどいいだろうな、と。

彼女との面談が終わった後で、彼女の上司としばし話し合いました。
今回の休職から退職の流れに限らず、新卒入社の社員がかなりの確率で会社を去ってゆくこととその理由を。
新卒社員を採用するときの見極め方が甘いのではないか、とも思っていましたし、現場のマネジャーからするとどのようにそれを感じているのかも聞きたかったので。

決して選考方法が悪いわけでもないし、実際入ってから仕事ができない人を採っていたわけではない。実際、成績だって先輩社員に負けないものを出していましたし。
しかし、真面目で優秀な社員であるが故に責任感も強く、その責任感の本人への影響があまり良くない方向に行っていたのではないか、という話になりました。

どうやら責任感の現れ方には二つのタイプがありそうだ、と。
具体的には以下の二つです。
1)責任感が誇りになるタイプ
2)責任感が重荷になるタイプ

彼女のケースに沿って考えてみましょう。
仕事はヘルスケアで人の命を助けるドクターをサポートする役割です。命に関わる場合もありますから慎重になる必要もありますし、仕事の結果お医者様や患者の方から感謝の言葉をもらうこともあるでしょう。

そういう責任の重い仕事をしていることを「誇り」に感じ、プレッシャーを感じるたびにパワーが湧き、頑張ろうと思える人が責任が誇りになるタイプ
逆に、そのプレッシャーに押し潰されてどんどん辛くなってゆくのが責任が重荷になるタイプです。

翻って私自身の仕事である人事に関して考えてみても、同じような考え方ができます。
人のお給料やキャリア、成長に関わる仕事だと思って誇りに感じられるか。
人の人生を狂わせてしまうかもしれない責任を感じ、重荷に感じるか。
もう、これは新卒社員だけでなく、全てのビジネスパーソンが自分はどちらなのかを考えた方が良いのかもしれません。

ただ、この考え方は一つのヒントにはなるのかなとは思います。
つまり、採用する側も、会社を選んで働く側も、「そこで働くことに誇りを感じることができるだろうか」を基準に考えて見れば良いのかな、と。

社会人として働くからには、そこに何らかの責任が伴うと思います。
その責任を全うするために必要になってくる働くマインドのようなものが、仕事へのドライブを駆り立てます。
企業側としては、それがある人を見極めるような採用することが大事なのでしょうし、就職活動する側は、その仕事に自分を駆り立てるものがあるかどうかをより具体的に見極めてゆく(インターンや先輩の話を聞くことで)ことが重要なのではないでしょうか。

これを読んでいる貴方は、如何ですか?

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いたる | 外資系人事の独り言
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