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恋、愛、友情…その本質を考えてみた

ここ一年ほど、本を読んだり、読書会で意見交換したり、オンライン勉強会に参加したりしながら「恋とは何か」「愛とは何か」「友情とは何か」についてずっと考えてきました。

少し前に書かせていただいた恋愛小説の読書会についてはこちら↓です。

flierさんが主催するオンライン勉強会はこちら↓です。

ずっと考え続けてきて、ようやくそれらの本質の輪郭のようなものが見えてきた感じがあります。
私の言葉で整理をしてみようと思います。

恋情とは何か

恋情という言葉はあまり一般的ではないかもしれませんね。
でもちゃんと辞書には出てきます。

れん じょう 【恋情】
異性を恋い慕うこころ。恋ごころ。

大辞林より

意味としては「慕情」が近そうです。ただ、慕情は必ずしも異性間の「慕う」気持ちだけではないかもしれません。メンターや尊敬する人を慕うみたいなものも含まれているように私は感じています。

恋愛小説を読み、読書会を続けてきた中で探求してきたのは「人はいかにして恋に落ちるのか」でした。
そう、知り合ってから一目惚れすることもあれば、「なんかいいな」から徐々に惹かれていったり、思いがけない出来事から意外な側面に気づいて一気に好きになったり…

小説の主人公が恋に落ちるパターンはいろいろありますけれど、共通してるのは相手と知り合ってから、何かのきっかけで相手に魅力を感じ、それが好意となり、また会いたいと思う、願うところ。
その感情がどんどん強くなってゆくのが恋情ではないでしょうか。

会えるのが当たり前になると、今度はもっと一緒に居たいと思う、相手を欲する。そして最終的には肉体的、精神的合一を求める
セックスはその一つの形とも言えると私は考えています。

つまり恋情とは、相手に求めるものであり、求めたものやことが手に入ることで精神的に満たされる心の状態。それを追求する情動ではないかと思います。
欠損している自分の半身を埋めようとしているような感覚を描写してくる作家や詩人もいますけれど、人間のDNAに組み込まれた動物としての本能なのかもしれません。

愛情とは何か

恋と愛とは本質が異なるものだと私は考えてきました。
私の考える愛の定義は、エーリッヒ・フロムの以下の本に出てくるものが最も近いです。

愛は能動的な活動であり、受動的な感情ではない。そのなかに「落ちる」ものではなく、「みずから踏みこむ」ものである。愛の能動的な性格を、わかりやすい言い方で表現すれば、愛は何よりも与えることであり、もらうことではない、と言うことができよう。

「愛するということ」41ページより | Fromm,Erich,1900-1980 鈴木,晶,1952-

幼稚な愛は「愛されているから愛する」という原則にしたがう。成熟した愛は「愛するから愛される」という原則にしたがう。未成熟な愛は「あなたが必要だから、あなたを愛する」と言い、成熟した愛は「あなたを愛しているから、あなたが必要だ」と言う。

「愛するということ」67ページより | Fromm,Erich,1900-1980 鈴木,晶,1952-

私の好きな一節を二つほど引用しましたが、フロムのこの本には男女の愛だけではなく、家族の愛や人間愛までが触れられています。
それら全てに共通している本質は「与えること」

与えるものは物質的価値であることもあれば精神的な価値であることもあり、受け取った側の中で発酵が起こって後になって与えられていたことに気づく、意味付けられることもあるでしょう。
ただ、そこに対価を求めていないことが取引とは違います。与える理由には「相手が求めているから」であり「相手にそれが必要であるから」に他なりません。

こうやって恋と愛との分けて考えてきた後で、あらためて「恋愛」とは、その文字の通りお互いが「求め合い」「与え合う」ことになります。そして、そのバランスが保たれている限りにおいて円満に成立するのではないでしょうか。

友情とは何か

恋情と愛情。ここまではそんなに難しくないかなと思っていましたが、友情の本質が何かを考え出した時に私の中にある混乱が起こりました。
それは「友情が深くなると恋愛に似た感じになる」ということでした。

河合隼雄先生のこちらの本の中にある一説を紹介しましょう。

人間関係というのはほんとうに難しい。その親しさを示すときに、日本ではどうしても一心同体のイメージがつきまとう。根本にはたらいているのは融合の力である。こうなると、つきあいどころか、べったりとくっつきあってひとつにならねばならない。
友人関係にもこのようなものを理想とするようなところがあって、そうなると、何をするにしても一緒でなくてはならない。このようなときは、二人だけの世界が密になって他人を入れない、という点で恋愛に近くなってくる。しかし、人間にはどうしても「個」というものがあるので、これは長続きはしない。

「大人の友情」95ページより

「日本ではどうしても一心同体のイメージがつきまとう」とありますが、前出の戸谷洋志さんの「友情を哲学する」に出てくるアリストテレスの友情も、「相手の中に自分と同じ善良性を見出す」ことを通じ相手との一心同体を理想とするところがありますので、日本だけに限らず、友情の目指すところにそれがあるのだろうか、と。
だとしたら、恋愛と何が違うのだろう…となったわけです。

前述の講座に参加したのはこの謎を解くためでした。
そして講座の中で、課題図書となったのが以下の本でした。

今度アニメになるらしいですが...なんとも重たい問題作でした。
ネタバレになるので中身には触れませんけれど、何度かこの漫画を読み、講座の参加者と対話を続けるうちに一つの問いが浮かびました。

どんな時に「友達ってありがたいな」って思う?

こんな声が聞こえてきました。

話を聞いてくれることかな。何かをしてもらうことではないかも。ちゃんと話を聞いてもらって受け入れてもらった時はありがたい。
独りでいるの無理な時に、そばにいただけでも、ありがたい。
そっとしといてここに居させてくれる…
居場所を作ってくれる。能動的に何かをしてくれてるわけではない。
観ててくれたんだ、と思うこと。と言って何かを言ってくれたわけではない。

勉強会の中で出てきた共に学ぶ仲間からの問いへの答えです

ああ、そうか!
そういうことか!
私の中で、何か熱い想いのようなものが湧き上がってきました。そう、頭の中で閃いたというよりも体の中から何かが呼び覚まされたような感覚でした。

恋愛は求め合い、与え合うことでした。
でも、友情には実はそれは必要ないのです。
なぜならば、友情とは「相互承認」だからです。

何もしなくても、与えなくても、相手を理解しその存在を認めるだけでいい
感情を持った一人の人間であると認め、一緒にいるだけでいい。

人は社会生活を送る生き物であり、その中での独りぼっちは死すら意味します。
自分は一人ではないのだという実感、自分の存在を認めてくれる誰かと、たとえその時は一緒にいなかったとしても、心は共にあるような感覚が得られること、この世界に一人きりだと思わないで済む…それが友情ではないでしょうか。

だから私たちは、共感覚を得るために友達と同じ感情を分かち合おうとする。
心が震えるほどの感情を抱いたならばそれを共有したいと願う。
そして、共に喜び、共に泣き、共に笑う…
それが人と人との真の結びつきであり、それができる関係を「友達」と呼んでいるのではないかな、と私は思うのです。

アリストテレスは、友情には「快楽に基づく友情」と「有用性に基づく友情」と「善良さに基づく友情」があると説いているそうです。
ニーチェは、個を超えたより大きな目標を目指すライバル同士こそ真の友情だと説いたと言います。
ボーヴォワールは、自分たちを取り巻く男性社会の中で女性としての運命を踏まえた内在的共謀をするのが女性同士の友情だと説いているそうです。

しかし、快楽も有用性も善良さも大いなる目標も内在的共謀も、全て「手段」でしかないのだと思います。友情の目的というか本質は「自分を認める相手」と「相手を認める自分」の繋がりであり、それによって自己の存在が肯定されるから、社会生活を営む「人間」としてこの世にある自分自身を確立できるのだ、と私は思います。

三つの「情」の前提にあるもの

恋情、愛情、友情の三つの情。
おそらくですが、これらが単独であるということはほとんどなく、ブレンドされている状態であり、かつ、それらのブレンドの状態が自分自身と相手の間では揃っていないのが現実なのでしょう。
だから、友情も恋愛もややこしいことになる。

そもそもの前提として、述べてきたように人は社会性の動物であり、社会生活を営むためには人と繋がる必要があります。
そして、繋がったことによって人間同士の関係性が生まれるわけですが、その関係性を動かしている「情」にこの3つがあるということなのでしょう。
(もちろん、他の情動もあるわけですけれど)

そして、この「情」に双方向性がないとエゴになってしまい、すれ違いが起きてしまうことになります。
もらいたくもないものを与えられ、反応しないと相手が怒り出したり。
自分は相手の存在を認めてるのだけれど、相手はなんとも思ってないことが分かって悲しんだり。

三つの情は、二人の間を行き来して初めて成立するので、もし自分の中にこれらの情が発生したら相手側の情も確認することが必要ですね。
それを聞くのはとっても勇気が要ることかもしれないですけれど。

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