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なぜ担当者が頻繁に変わるとサービスは低下してしまうのか?

ある程度の大きさの企業になるとサービスセンターと呼ばれる問合せ対応窓口を置くところが多くなってくるのではないでしょうか。

顧客からの問合せ対応だけでなく、社内からの問合せへの対応をマニュアル化して外注に出したり、chat botや最近では生成AIに対応させたりすることもありますね。
そうすることで専門性の高いスタッフが問合せ対応から解放されて、付加価値の高い業務やクリエイティブな仕事に集中することができるようになりますし、サービスセンター立ち上げの目的はそこにあると言っても良いかなと私は思います。

もちろん、問合せ対応のプロが対応することで顧客満足度が上がることはあるでしょうけれど、それは導入してからしばらく経って、サービスの質とサービスに対する問い合わせる側の期待値が安定してきてからのことかな、と。

私のいる会社もサービスセンターを導入しています。
今のところは顧客対応が日本のスタッフのサービスセンター、社内対応が海外にある集中サービスセンターとchat botを使っています。

しかし、最近になってこんな声を聞きます。
「このところサービスセンターの担当者が頻繁に変わるからサービスの質が落ちてきてるんだよね…」

パッと聞いた限りでは「ごもっとも」と感じたのですが、よくよく考えるとこれって変なことだなと思い、モヤモヤしました。
なぜ担当者が頻繁に変わるとサービスの質は落ちてしまうのでしょう?
サービスセンターは標準化された定型業務を行なっているので担当者が次々と変わっても業務が回るようにオペレーションが設計されているはずではないでしょうか?

何が起きているのか、ちょっと考えてみましょう。

標準化されていないプロセスがある

すごくシンプルに考えると、担当者が変わると対応が悪くなるのは、プロセスが見える化されていないからであり、辞めていった担当者の頭の中に標準化されていない部分があって、それが共有化されないままで新しい担当者が業務につくみたいなことが起きているだろうことが考えられます。
言わば属人化した暗黙知が継承されずに消えてゆく、みたいなことです。

以前の担当者はちゃんとやってくれてたのに…
みたいな苦情が出てくる理由の主なところはこれでしょう。
しかし、全てを見える化するのは難しいでしょうし、コールセンターのようなところはマニュアルにない臨機応変な対応も必要となってくるでしょうし、そもそも完全な標準化は不可能とも思えます。

教育マニュアルができていない

業務プロセスについてのマニュアルがあったとしても、コールセンター担当者の教育のマニュアルがない場合もサービスの質は低下します。

ここでの教育とは、プロセスの理解だけでなく、問合せ対応のスキルであったり、その組織の理念や哲学であったりです。
どこまでマニュアル通りにやり、どこまでの裁量があるのか。
担当者としてどのような態度で対応するのが正しいのかをしっかりと教育しなければ、新しい担当者を採用してもその人がきちんと仕事ができるようにならないでしょう。

プロセス自体が欠陥だらけ

これはコールセンター導入時点での問題でもあるのかもしれませんけれど、もともとスムーズに流れないようなプロセスであったものを、そのままコピー&ペーストのようにコールセンターに移管すると、そのプロセスを知らない担当者は仕事が進まない状況に陥ってしまいます。

コールセンター立ち上げ時は、スタッフが出向したりして業務遂行を監督したり手伝ったりするのですが、時間が経過するごとにそのようなスタッフは本社に引き上げてゆきます。
プロセスの欠陥がそのスタッフがいたから表に出てこなかったものが(対応してしまっていたから潜在的な欠陥だった)、欠陥の顕在化が起こり業務が回らなくなるのです。

問合せする側の依頼の仕方が問題

コールセンターに慣れてくると、問合せする側、依頼する側の対応が次第に雑になってゆくというのもあるでしょう。

対応できて当たり前、知ってて当たり前だと思うようになってくることもあり、「何をどうしたいのか」を自分ではっきり伝えない状況で「わからないから教えてくれ」的なコンタクトしてくるとコールセンターは対応できません。

有能な人であれば、そこで丁寧に質問して本人が何を求めているのかを明らかにしてゆくこともできるでしょうけれど、そもそもコールセンターの業務プロセスでそれらの質問や問いかけをマニュアル化することは非常に困難です。
なので、問い合わせる側が何を知りたいのかを明確にする必要は、問い合わせる以上は最低限必要と思います。

採用のスペックが落ちている

コールセンターを導入する企業は増えてきているようです。
たとえ大企業でなくても、細かい事務的な問合せを他社での実績のあるプロフェッショナルなコールセンタースタッフに対応してもらいたいと考えて外注に出すようになってきていると聞きます。

コールセンター担当者の入れ替わりが激しいのは、需要が増えているため人材の取り合いになっており担当者も高い給料のところにホイホイ移動してゆくこと、ストレスが高い職場(最近はカスハラという言葉も聞きますね)なので嫌気がさして長続きしない人が多いことによるらしいです。

そうなると、次第に採用できる担当者の質がダウンしてゆきます。マニュアルに書いていない臨機応変な対応ができなかったり、そもそもマニュアルを理解できるだけの能力や経験がない人がコールセンターの中に増えてきます。

採用する側も「たかがコールセンター、誰でもできる」ぐらいに甘くみていて、数合わせの採用をしてしまっていると質の低下は悲惨な状況になります。

プロセスやツールのアップデートでマニュアルが役に立たない

変化のスピードが早く、激しくなってくる現代では、定型化されているはずの業務もアップデートが必要になります。
特に業務で使われるツールはほとんどがPCのソフトウェアで、ソフトウェアベンダーによって頻繁に機能の追加や更新、改変が行われます。

その時点で詳細なマニュアルは破綻してしまいます。
マニュアルの書き換えや更新は行われてはいるのでしょうけれど、あまり頻繁に行われると追い付かず、知っている者と知らない者との間に差が出てきてしまいます。

そこに加えて担当者の能力差が起きてしまうのは、担当者同士に横連携がうまくできておらず、知識の共有がなされていないからでしょう。
問合せる側からすると、担当者の当たり外れができてしまい、業務プロセスの経験があったり、ソフトウェアに強い担当者に当たらないと逆に自分の時間を削って相手に教えるようなことになりかねません。
それでは本末転倒ですよね。

ユーザーが教育し、サービスは育つ

こうやって考えてみると、コールセンターのサービスの質を保つというのは簡単なことではないことが分かります。
20世紀の変化のゆっくりした時代であればまだしも、現代においてはとても困難なことになってきているというのが私の実感でもあります。

すぐに状況を劇的に改善するような策は正直思いつかないのですけれど、ユーザー側の認識と対応を変えてゆくことができればコールセンターは機能するのではないかと私個人としては思います。

まずコールセンターに完璧を期待しないこと。
業務プロセス自体が完全ではないから機械ではなく人間が入っています。人間だからミスもありますし人によるばらつきだってあります。それを当たり前だと考え、ある程度のやり取りをしながら求める答えに共に行き着こうとする姿勢が必要でしょう。

そしてフィードバックを必ず行うこと。
対応後のアンケートをとるところが多いと思いますが、点数を入れるよりもコメントをきちんと入れる方が有効です。

何をすれば良く、何をすると不味いのか。
特に対応してもらって有り難かったことははっきりと場合によってはやや大袈裟に感謝の意として伝えた方が良いでしょう。
ストレスのある職場で、相手からもらう感謝の言葉は嬉しいものですし、それがあれば何をすれば良いのかが分かると同時に、前向きに仕事に取り組めるようにもなります。

生成AIですら、プロンプトのやり取りを何回もすることでアウトプットの質は劇的に変わります。
私たちはネットの検索ですぐに答えが得られることに慣れすぎた(毒されたとも言えますね)のかもしれません。電話の向こうのコールセンターにいるのは人間であることを忘れず、共にサービスを育ててゆくような心構えが必要なのかもしれないですね。

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