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【小説】アレキサンダーの野望

「しかし、志半ばでアレクサンドロス大王は熱病にかかり、32歳という若さで亡くなってしまうのです。」

顔に皺を刻み、腰を湾曲させたゴブリン(世界史担当の先生をこう呼んでいた)は悲哀の表情たっぷりにこう語った。

まるで自分が、前代未聞の大偉業を成し得なかった英雄だとでもいいたげな調子だ。

全く醜い限りであるが、そんなことを思っていても埒が明かないことは自明である。


なぜこうも授業というものは退屈なのだ。

数メートル四方の狭苦しい教室という名の牢獄に40人ほどの人間を詰め込んで、等間隔に並ばせ、何十分も拘束する。

きっと、未来への希望溢れる私たちを肉体的に精神的に殲滅せしめんとする中央政府の企みであろう。

しかしこのような牢獄に自首投獄せねばならないことも不承不承理解しているし、自己憐憫を感じざるを得ない。

このような妄念を断ち切るべく私は往々にして自分の内世界に没入し、ひたすら思索に耽るのが好きだ。


突然時が止まり、周りの人やゴブリンも静止し、動けるのが自分だけと気づいた私は、堂々と教卓に上がりゴブリンのかつらを上に引っ張り取る。そしてまた時は動き出し、クラスメートが鼻で笑う音が教室内に響く。


私の指から光線ビームが射出し、だだっ広い校庭に突き刺さり、粉塵を巻き上げながら小爆発を引き起こす。その爆音爆風に腰を抜かすゴブリンとクラスメート。


いかにも思春期に考えそうなことで、恥ずかしくもあるが、退屈な時間を耐え忍ぶにはちょうどいい暇つぶしなのである。

しかしそんなくだらない妄想をしても、志望大学に合格する訳でも、身体能力が向上する訳でもなく、蛇足な行為には違いない。

そんな馬鹿馬鹿しいこと考えてないで、真面目に勉強しなさいと突っ込まれそうなので、諦めて私はシャーペンをノートの上で自由自在に動かし始めた。

やがてその操作にも飽きて、睡魔という債鬼に追われるように机に突っ伏すのだった。



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